上 下
105 / 144

素敵な朝

しおりを挟む
10時間の睡眠の後、エリカは心地よい眠りから目覚めた。

「んー、よく寝た」

カーテンの隙間からは爽やかな朝の光が漏れている。 午前7時頃だろうか?

「気分爽快。 なんて素敵な朝なの」

上半身だけをベッドから起こして目覚めの余韻よいんに浸っていると、寝室のドアが開いてシバー少尉が顔を覗かせる。

「おはよーございますエリカさん、朝食ができました! 起きてください」

シバー少尉は昨夜あの後、何事もなかったかのようにエリカの家に帰って来ていた。 エリカはそのことを取り沙汰することもなく、少尉の後に付いて台所へ行く。 腹が減っていたからだ。 台所から漂い出てくるベーコンの香ばしい匂いに、エリカの腹がクウッと可愛らしい音を立てた。



朝食のメニューはベーコン・エッグとトーストとサラダと牛乳とオレンジ・ジュースとコーヒー。 エリカは無言で食べて飲んで、すぐに全てを平らげた。

「あー美味しかった」

満腹になったエリカは満足げに宣言した。 シバー少尉の料理の腕前は普通なので、ベーコン・エッグのように美味しい料理であれば普通に美味しい。

コーヒーをすすりながらエリカは昨日の一件について考えを整理し始める。 休息と栄養を取って、ようやく頭が回り始めたわけだ。

(昨日あの後どうなったのかしら? いずれにせよ、私の《支配》を二度と企まないよう軍にしっかりと釘を刺しておかなくちゃ)

もうすでに釘は十分に刺さっているが、エリカはそのことを知らない。

(それから... マロン君のことよね。 大佐をやっつけたからマロン君は復職できるはず。 あとでハンター協会に行ってみよう。 まずは軍庁舎かしら)

そこでふと思いついてエリカはシバー少尉に尋ねる。

チン?(昨晩あの後、ガブリュー大佐とメカジキ少尉はどうなったの?)

シバー少尉は咀嚼そしゃくしていたトーストを急いで飲み込み口を開いた。

「2人とも入院しましたけど。 エリカさん知りませんでした?」

ちん。(知らない。 大佐をやっつけてすぐに帰っちゃったもの)

「大佐をやっつけてすぐ... ってことはエリカさん! 私たちの土下座を見てくれてなかったんですか?」

シバー少尉が「私たち」と言ったのは誤りである。 正しくは「あの人たち」だ。 なぜなら少尉は土下座に参加していない。

チン?(土下座なんて見てないわよ?)

「そうだったんですか。 ホント残念です。 それはそれは見事な土下座だったんですよ? それに、その後の拍手の海。 あれも感動的でした。 とっても素敵な夜だったのに、惜しいことをしましたね」

昨晩の感動を思い出し、シバー少尉はほうっと溜息をつく。

「エリカさんのベルの音がちっとも聞こえないから、早いうちに帰ったんだとは思ってましたけど。 まさか土下座すら見てもらえてなかったとは... また皆さんに集まってもらわないと」

皆を集めてまた土下座を披露しようというのだ。

エリカは少尉を阻止しようと慌ててベルを鳴らす。

チン!(いや、いい! 集めなくていい。 もう気持ちは伝わったから)

そして間を置かずに再びベルチン。

チン(ちょっと出かけて来るね)

「どちらへ?」

チン(軍庁舎とか)

エリカは素っ気なく言って台所を出た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

幻獣士の王と呼ばれた男

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:70

居酒屋ぼったくり

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:795pt お気に入り:2,755

片翼天使の序奏曲 ~その手の向こうに、君の声

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:105

【完結】空気にされた青の令嬢は、自由を志す

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:2,429

夜更けの迷い人食堂  〜サオがもてなす本日の丼ご飯〜

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

スライムさんのレベルを99にするのが私のお仕事ですので。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

処理中です...