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遭遇あるいは合流
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ザルス共和国のタベザル市を出て3日目、エリカと20人のサポート・チームはクーララ王国まであと数時間の場所を歩いていた。
「...そういうふうにして、われわれクーララ人は魔法の素を体内に取り入れているのです」
そう言ってルーケンスは説明を締めくくった。 ルーケンスはクーララ王国から派遣された案内人。 彼は今しがた、クーララ人がマナ輸送体を体内に取り込む秘法をエリカに説明し終えたのだ。 戦闘力が低いクーララ人はモンスターを倒せないでしょうに魔法を使えるのはどうして? そんなエリカの疑問に答えたわけである。
エリカはルーケンスの話に深く感心した。
(なるほどー、クーララ人はそんなふうにしてたのね。 倒しやすくて金色の霧をふんだんに蓄えているスライムの養殖かー)
ルーケンスが再び口を開く。
「もう少し進むと十字路がございます。 そこを左折して2時間も歩くとクーララ王国の首都です」
それからしばらく進んだところで、何やらウェンウェンという音が聞こえてきた。
「ハチの大群?」
誰かが発した疑問にルーケンスが答える。
「この辺りにハチはいないはずですが...」
ハチを警戒して用心深く進むうちに、ウェンウェンという音の正体が分かってきた。 どうやらハチではなく泣き声のようなのだ。 何人もが泣いている声だ。
◇◆◇
エリカたち一行は簡単な討議のすえ、泣き声の現場に向かうことにした。 泣き声の正体が何なのか見当もつかないが、いま歩いているのは一本道なので、どのみち泣き声の発生源へ向かって進むことになる。
こんな辺鄙な場所で、いったい誰が泣いてるんだろう? 好奇心にひかれてエリカたちの足取りは自然と早まり、数分後には鳴き声の発生現場に到着した。
「ややっ、あれは!」
驚きの声を発したのはルーケンスである。 彼はいっそう足早になって泣き声の発生源に近づくと、発生源に向かって問い質した。
「こんなところで泣いているとは何事だ。 状況を報告しなさい」
ルーケンスの声が静かに響き渡ると女子隊員たちのウェーンは速やかに収まり、代わって男子を含めた隊員たちの間に小さな驚きが広がる。
「教官だ。 教官がどうしてこんなところに?」
ルーケンスはクーララ王国軍の教育部隊で教官を務めていたことがある。 この場にいる隊員の多くは、入隊まもない頃にルーケンスの指導を受けていた。
目前のクーララ部隊とルーケンスの関係にエリカは少し驚きながら納得する。
(ルーケンスさんって軍のヒトだったのね)
ルーケンスさんはクーララ王国軍の軍人だった。 階級は大佐。 意外に高い階級である。 しかし考えてみれば当然かもしれない。 守護霊様は一国の元首よりも重要な存在。 そんな守護霊様を案内する役目が軽輩に与えられるわけがない。 ルーケンス大佐はヒモネス中佐と同じくクーララでは稀有なタイプで、マナにより身体能力が強化されやすい体質の持ち主である。 彼がエリカたちの歩行ペースに付いて来れるのも、それが理由だった。
1人の男子隊員がヒモネス隊を代表してルーケンスに事情を説明する。
「かくかくしかじか、こういうわけなんです」
話を聞いたルーケンスは少し表情を緩める。
「ふむ、そういうわけだったか。 しかし帝国軍が迫っているのだろう? うぇんうぇんと泣いている場合ではない」
ルーケンスに諭されて女子隊員たちがうつむく中で、1人の男子隊員がルーケンスに遠慮がちに尋ねた。
「教官どの、後ろの方たちは?」
男子隊員が言う「後ろの方たち」とはエリカのサポート・チームのことである。 他国の軍人らしき集団がルーケンスに随行しているのだから、彼がそう尋ねるのも尤もだ。
「こちらの方たちは... ザルス共和国からの援軍だ」
ルーケンスの言葉に、ヒモネス隊一同は意表を突かれると同時に落胆した。 この数十人が援軍だって!? ザルス共和国はクーララを馬鹿にしてるのか?
しかし、すぐに彼らは思い出した。 そうだ、ザルス共和国からは1万の兵じゃなく守護霊様が来てくれるんだった! そして、さらに思い至る。 すると守護霊様が今この場に...?
「そうすると、そこに守護霊様がいらっしゃるのですか?」
隊員の問いに、ルーケンスはしっかりと答える。
「うむ、いらっしゃる」
それを聞いたヒモネス隊員たちの反応は様々だった。 ヨッシャー!と快哉を叫ぶ者、安堵感を解放して地面にヘタリ込む者、守護霊様に呼びかける者、再びウェーンに突入する者。 そして、敵襲だーと叫ぶ者。
敵襲を告げる声に皆がドキッとする。 敵襲だって? 帝国軍の進路から外れたのに? しかし十字路のほうに目を向けると、帝国兵の集団が本当に接近しつつあった。 ミレイ隊長に言われてクーララ部隊の討伐に向かった帝国兵100人弱が、ウェンウェンという泣き声に引き寄せられて十字路を左折していたのだ。
「...そういうふうにして、われわれクーララ人は魔法の素を体内に取り入れているのです」
そう言ってルーケンスは説明を締めくくった。 ルーケンスはクーララ王国から派遣された案内人。 彼は今しがた、クーララ人がマナ輸送体を体内に取り込む秘法をエリカに説明し終えたのだ。 戦闘力が低いクーララ人はモンスターを倒せないでしょうに魔法を使えるのはどうして? そんなエリカの疑問に答えたわけである。
エリカはルーケンスの話に深く感心した。
(なるほどー、クーララ人はそんなふうにしてたのね。 倒しやすくて金色の霧をふんだんに蓄えているスライムの養殖かー)
ルーケンスが再び口を開く。
「もう少し進むと十字路がございます。 そこを左折して2時間も歩くとクーララ王国の首都です」
それからしばらく進んだところで、何やらウェンウェンという音が聞こえてきた。
「ハチの大群?」
誰かが発した疑問にルーケンスが答える。
「この辺りにハチはいないはずですが...」
ハチを警戒して用心深く進むうちに、ウェンウェンという音の正体が分かってきた。 どうやらハチではなく泣き声のようなのだ。 何人もが泣いている声だ。
◇◆◇
エリカたち一行は簡単な討議のすえ、泣き声の現場に向かうことにした。 泣き声の正体が何なのか見当もつかないが、いま歩いているのは一本道なので、どのみち泣き声の発生源へ向かって進むことになる。
こんな辺鄙な場所で、いったい誰が泣いてるんだろう? 好奇心にひかれてエリカたちの足取りは自然と早まり、数分後には鳴き声の発生現場に到着した。
「ややっ、あれは!」
驚きの声を発したのはルーケンスである。 彼はいっそう足早になって泣き声の発生源に近づくと、発生源に向かって問い質した。
「こんなところで泣いているとは何事だ。 状況を報告しなさい」
ルーケンスの声が静かに響き渡ると女子隊員たちのウェーンは速やかに収まり、代わって男子を含めた隊員たちの間に小さな驚きが広がる。
「教官だ。 教官がどうしてこんなところに?」
ルーケンスはクーララ王国軍の教育部隊で教官を務めていたことがある。 この場にいる隊員の多くは、入隊まもない頃にルーケンスの指導を受けていた。
目前のクーララ部隊とルーケンスの関係にエリカは少し驚きながら納得する。
(ルーケンスさんって軍のヒトだったのね)
ルーケンスさんはクーララ王国軍の軍人だった。 階級は大佐。 意外に高い階級である。 しかし考えてみれば当然かもしれない。 守護霊様は一国の元首よりも重要な存在。 そんな守護霊様を案内する役目が軽輩に与えられるわけがない。 ルーケンス大佐はヒモネス中佐と同じくクーララでは稀有なタイプで、マナにより身体能力が強化されやすい体質の持ち主である。 彼がエリカたちの歩行ペースに付いて来れるのも、それが理由だった。
1人の男子隊員がヒモネス隊を代表してルーケンスに事情を説明する。
「かくかくしかじか、こういうわけなんです」
話を聞いたルーケンスは少し表情を緩める。
「ふむ、そういうわけだったか。 しかし帝国軍が迫っているのだろう? うぇんうぇんと泣いている場合ではない」
ルーケンスに諭されて女子隊員たちがうつむく中で、1人の男子隊員がルーケンスに遠慮がちに尋ねた。
「教官どの、後ろの方たちは?」
男子隊員が言う「後ろの方たち」とはエリカのサポート・チームのことである。 他国の軍人らしき集団がルーケンスに随行しているのだから、彼がそう尋ねるのも尤もだ。
「こちらの方たちは... ザルス共和国からの援軍だ」
ルーケンスの言葉に、ヒモネス隊一同は意表を突かれると同時に落胆した。 この数十人が援軍だって!? ザルス共和国はクーララを馬鹿にしてるのか?
しかし、すぐに彼らは思い出した。 そうだ、ザルス共和国からは1万の兵じゃなく守護霊様が来てくれるんだった! そして、さらに思い至る。 すると守護霊様が今この場に...?
「そうすると、そこに守護霊様がいらっしゃるのですか?」
隊員の問いに、ルーケンスはしっかりと答える。
「うむ、いらっしゃる」
それを聞いたヒモネス隊員たちの反応は様々だった。 ヨッシャー!と快哉を叫ぶ者、安堵感を解放して地面にヘタリ込む者、守護霊様に呼びかける者、再びウェーンに突入する者。 そして、敵襲だーと叫ぶ者。
敵襲を告げる声に皆がドキッとする。 敵襲だって? 帝国軍の進路から外れたのに? しかし十字路のほうに目を向けると、帝国兵の集団が本当に接近しつつあった。 ミレイ隊長に言われてクーララ部隊の討伐に向かった帝国兵100人弱が、ウェンウェンという泣き声に引き寄せられて十字路を左折していたのだ。
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