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悪夢の再現
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ヒモネス隊もエリカたちも対応を思いつけずにいるうちに、ミレイ隊はみるみる距離を縮め、血に飢えた獣のようにヒモネス隊にかかる。 そこからは悪夢の再現であった。
「うらぁ!」「とうっ!」「ちぇい!」
思い思いの掛け声とともにヒモネス隊に襲いかかる100人弱のミレイ隊。 ここまでダッシュしてきたこともあり、彼らは誰一人として剣を抜いていない。 みな徒手空拳である。 しかし、ザンス兵にはそれで十分。 強力な戦闘力を誇るザンス兵の蹴りに首の骨を折られ、あるいは拳で内臓を破壊され、ヒモネス隊員10数人があっという間に戦闘不能に陥った。
ヒモネス隊は混乱に陥り、「守護霊様、守護霊様」と助けを乞いつつ逃げ惑う。 守護霊様の到来を知り依存心が芽生えてしまった彼ら彼女らは、もはや自分でどうにか切り抜けようと剣を抜くことすらしなかった。
しかし守護霊様であるエリカも、初めて目にするザンス兵の勇猛さに戸惑い手を出しかねていた。 もともとエリカは対人戦闘のプロではない。 彼女が得意とするのは個人の暗殺。 なかでも得意なのが、ターゲットがじっと動かずにいる場合だ。 激しく動き回る多数の敵を速やかに制圧する術をエリカは持たない。
エリカのサポートに付いてきたザルス兵は選り抜きの精兵だが、攻撃されているのが自分たちでないし、人数も少ないためため戦闘に参加するふんぎりがつかずにいた。
エリカたちが手をこまねいているうちにも、1人また1人とヒモネス隊員がやられていく。 背後からザンス兵に首を拳で殴られギャッと叫んで地面に倒れる男子隊員がいるかと思えば、ザンス兵に引きずり倒され馬乗りで顔面を殴打され続ける女子隊員もいる。 彼女は初撃で息絶えているというのに。
「守護霊さまっ、早く助けてください」「守護霊様ぁ、そこにいるんですよねっ?」「守護霊、守護霊っ、たのむー」
ルーケンスもエリカのほうを振り向き、額に汗の玉を浮かべ必死の形相で訴える。
「守護霊様! なにとぞ、お力をお貸しください!」
彼も他のクーララ兵と同様に、守護霊様ならこんなピンチだって簡単に解決できると信じ切っているのだ。
訴えられたエリカは困った。
(どうしよう。 魔法ベルを使おうにも、敵味方がこう入り混じってちゃ敵だけを狙えないし...)
しかし、どうにかするしかない。 エリカは迷いながら決断した。
(私が指揮っちゃおう!? ...かな? うまく指揮できるかどうかの見当すらつかないけど、指揮官が不在の現状よりはマシなはず)
前世でSLGに何百時間も費やしたエリカには、いまクーララ&ザルス部隊が抱えている致命的な弱点が分かっていた。 それはゲームでの経験に基づく考察に過ぎなかったが、ひどく基本的な部分においてはゲームも現実も変わらないだろう。
そして、エリカは名誉大佐である。 まがりなりにも大佐なのだ。 サポート・チームを取り仕切っている士官でも中佐だから、この場にいるザルス軍士卒の中でエリカは最高ランクである。 だからエリカが命令を出しても問題ないはずだ。 クーララ兵にしても、エリカは守護霊様なのだから命令に従ってくれるに違いないのではないだろうか? むしろひょっとしたら、みんなエリカの命令を待っているのかもしれない。 実はエリカがもっと速やかに命令を出すべきだったのかもしれない。
その一方でエリカには不安もあった。 この場で命令を出すこと自体がまるで見当違いだとか、誰一人としてエリカの指揮権を認めていないといった理由で、誰も命令に従わないんじゃないか? そんな不安である。
しかし目の前で人がどんどん死んでいる。 もう、恥をかくのを恐れている場合ではない。 エリカは強引に未知の領域に踏み込み、意を決してベルを鳴らす。
チン!(護衛役のザルス兵は前へ。 ザンス兵を食い止めよ! クーララ兵は後方から呪文で支援しなさい!)
ザルス兵とクーララ兵は、思いがけぬ貪欲さでエリカの命令に食いついた。 3つの国の軍隊が入り乱れる難しい状況にあって、誰も彼も指示を必要としていたのだ。
それまで無秩序に逃げ惑っていたクーララ兵は、ザルス兵の背中の後ろという目的地を得て秩序正しく逃げ始める。 そのクーララ兵と入れ替わるようにして、15人のザルス兵が前へ出て抜刀しザンス兵を食い止める壁となる。 兵たちは水を得た魚のように生き生きと自信に満ちて動き出した。 彼らはサワラジリ名誉大佐/守護霊様の命令に全幅の信頼を置いているのだ。
しかし当のエリカはあまり自分を信頼していない。
(あらあら、みんな怖いぐらいに言うことを聞いてくれちゃって...)
兵士たちの食いつきっぷりに、ちょっぴり逃げ腰になるエリカであった。
「うらぁ!」「とうっ!」「ちぇい!」
思い思いの掛け声とともにヒモネス隊に襲いかかる100人弱のミレイ隊。 ここまでダッシュしてきたこともあり、彼らは誰一人として剣を抜いていない。 みな徒手空拳である。 しかし、ザンス兵にはそれで十分。 強力な戦闘力を誇るザンス兵の蹴りに首の骨を折られ、あるいは拳で内臓を破壊され、ヒモネス隊員10数人があっという間に戦闘不能に陥った。
ヒモネス隊は混乱に陥り、「守護霊様、守護霊様」と助けを乞いつつ逃げ惑う。 守護霊様の到来を知り依存心が芽生えてしまった彼ら彼女らは、もはや自分でどうにか切り抜けようと剣を抜くことすらしなかった。
しかし守護霊様であるエリカも、初めて目にするザンス兵の勇猛さに戸惑い手を出しかねていた。 もともとエリカは対人戦闘のプロではない。 彼女が得意とするのは個人の暗殺。 なかでも得意なのが、ターゲットがじっと動かずにいる場合だ。 激しく動き回る多数の敵を速やかに制圧する術をエリカは持たない。
エリカのサポートに付いてきたザルス兵は選り抜きの精兵だが、攻撃されているのが自分たちでないし、人数も少ないためため戦闘に参加するふんぎりがつかずにいた。
エリカたちが手をこまねいているうちにも、1人また1人とヒモネス隊員がやられていく。 背後からザンス兵に首を拳で殴られギャッと叫んで地面に倒れる男子隊員がいるかと思えば、ザンス兵に引きずり倒され馬乗りで顔面を殴打され続ける女子隊員もいる。 彼女は初撃で息絶えているというのに。
「守護霊さまっ、早く助けてください」「守護霊様ぁ、そこにいるんですよねっ?」「守護霊、守護霊っ、たのむー」
ルーケンスもエリカのほうを振り向き、額に汗の玉を浮かべ必死の形相で訴える。
「守護霊様! なにとぞ、お力をお貸しください!」
彼も他のクーララ兵と同様に、守護霊様ならこんなピンチだって簡単に解決できると信じ切っているのだ。
訴えられたエリカは困った。
(どうしよう。 魔法ベルを使おうにも、敵味方がこう入り混じってちゃ敵だけを狙えないし...)
しかし、どうにかするしかない。 エリカは迷いながら決断した。
(私が指揮っちゃおう!? ...かな? うまく指揮できるかどうかの見当すらつかないけど、指揮官が不在の現状よりはマシなはず)
前世でSLGに何百時間も費やしたエリカには、いまクーララ&ザルス部隊が抱えている致命的な弱点が分かっていた。 それはゲームでの経験に基づく考察に過ぎなかったが、ひどく基本的な部分においてはゲームも現実も変わらないだろう。
そして、エリカは名誉大佐である。 まがりなりにも大佐なのだ。 サポート・チームを取り仕切っている士官でも中佐だから、この場にいるザルス軍士卒の中でエリカは最高ランクである。 だからエリカが命令を出しても問題ないはずだ。 クーララ兵にしても、エリカは守護霊様なのだから命令に従ってくれるに違いないのではないだろうか? むしろひょっとしたら、みんなエリカの命令を待っているのかもしれない。 実はエリカがもっと速やかに命令を出すべきだったのかもしれない。
その一方でエリカには不安もあった。 この場で命令を出すこと自体がまるで見当違いだとか、誰一人としてエリカの指揮権を認めていないといった理由で、誰も命令に従わないんじゃないか? そんな不安である。
しかし目の前で人がどんどん死んでいる。 もう、恥をかくのを恐れている場合ではない。 エリカは強引に未知の領域に踏み込み、意を決してベルを鳴らす。
チン!(護衛役のザルス兵は前へ。 ザンス兵を食い止めよ! クーララ兵は後方から呪文で支援しなさい!)
ザルス兵とクーララ兵は、思いがけぬ貪欲さでエリカの命令に食いついた。 3つの国の軍隊が入り乱れる難しい状況にあって、誰も彼も指示を必要としていたのだ。
それまで無秩序に逃げ惑っていたクーララ兵は、ザルス兵の背中の後ろという目的地を得て秩序正しく逃げ始める。 そのクーララ兵と入れ替わるようにして、15人のザルス兵が前へ出て抜刀しザンス兵を食い止める壁となる。 兵たちは水を得た魚のように生き生きと自信に満ちて動き出した。 彼らはサワラジリ名誉大佐/守護霊様の命令に全幅の信頼を置いているのだ。
しかし当のエリカはあまり自分を信頼していない。
(あらあら、みんな怖いぐらいに言うことを聞いてくれちゃって...)
兵士たちの食いつきっぷりに、ちょっぴり逃げ腰になるエリカであった。
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