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高校生編 5月
捕食寸前
しおりを挟む結局のところ、打ち合わせの時間は十分で終わった。
三分間の創作舞踊を曲に合わせて一度踊ってもらい、それを一度見るだけで完璧に覚えてみせた。
先輩の目の前で踊ってみせると、少し悔しげな表情をだしながらも合格をくれた。
残りの四分間をこれからの練習について軽く打ち合わせ、終了。
獰猛な本性は息を潜めており、どこか様子見しているような印象を受けた。
本当に、何を考えているんだろう、この先輩は。
第三ダンス練習場から出ながら、私は考え始めた。
まさか、私の正体に勘づいてる?
カイお兄ちゃんとの共通点、もしくはソウくんとの共通点を見つけたりした、とか?
朱雲 蒼来という名の籍は、未だに残っている。
あの家から逃げ出して十年以上たっていて、もう死亡扱いになっていてもおかしくないんだけど、朱雲家の権力と財力がそれを押さえている。
きっと、朱雲家の当主、つまり私の父は分かっているのだろう。
私が生きていると。
私の能力が強いことは覚醒していなくとも一目瞭然だった。
覚醒した上で逃げ出した私がその力を使えば、死ぬことはない。
カイお兄ちゃんは頑張って誤魔化したようだけど、ひょっとしたら私がカイお兄ちゃんの庇護下にあることまで分かっているのかもしれない。
私達は、父親の手の平の上で踊らされているのかも、しれない。
「蒼来、オレと二人でいるのに、考え事とは随分余裕だな?」
からかうような響きにハッとする。
そうだった、富金原先輩がいたんだった。
門のところまで送ってくれるらしいけど・・・
ここ風の棟から門は結構距離がある。
一緒にそこまで行くのか・・・
疲れる・・・
内心辟易とするけど、表には出さず富金原先輩の瞳を見つめる。
「なんだ?みとれてんのか?」
先輩の足が止まり、私の頬に手を添えられた。
自然と、私も歩みを止めてしまう。
「あなたは、何を企んでいるんですか?」
朱雲 蒼来の逃亡が能力者の家に通報されていてもおかしくない。
富金原先輩が、桐谷 蒼来が朱雲 蒼来だと気付いたのなら、私はもう、朱雲家に捕まってしまう。
居場所が、なくなる。
リンやサキ、ダイやリクが、そしてカイお兄ちゃんがいる、あの温かい家。
あの家にいるためには、あの場所を私の居場所として守るためなら、私は何でもする。
富金原先輩は苦手なタイプだけど、何を考えているのか、探り出す!
決意を込めて睨み付けると先輩は鼻で笑い、私の頬に添えた手はそのままに、顔を近づけた。
もう片方の腕が、腰に回され、抱きしめられているような体勢になる。
でも、この場を支配するのは甘い雰囲気ではなく、ピリピリとした緊張感。
近すぎる先輩の顔が、内心怖くてたまらないのだけど、逃げるもんかと自分を励まし、そのまま睨み続けた。
「オレが何を企んでいるか、ねえ・・・」
ギラギラと光る、肉食獣の瞳。
その瞳の中に映っている獲物は、私だ。
「お前だよ、蒼来。お前をオレに惚れさせて、オレのものにする。それが、オレの目的だ。覚えとけ。」
耳に直接、吐息と共に甘い響きの言葉が流れこんでくる。
愛しい者に語るような、その言葉。
嘘だ。
直感だけど、そう判断する。
「嘘はもういいです。本当の目的を教えて下さい。」
そう言った途端、先輩の雰囲気が少し、変わった気がした。
獰猛な方向へ。
本性を見せ始めている・・・?
そう思った瞬間、先輩が私の頬に添えていた手を顎に滑らせ、私に上を向かせた。
さっきよりも先輩の顔が近くて、鼻先が触れ合いそう。
一瞬たじろいでしまった。
でも、ここで逃げたら私の負け。
踏ん張って先輩の言葉を待つけど、沈黙しか帰って来なくて。
一秒が、とても長く感じる。
この時間が永遠に続くように感じ始めた時だった。
「何をしているんですか。」
聞き覚えのある声が響き、先輩の腕の力が緩んだ。
でもまだ、拘束されたまま。
どうにか首を回して声の主を探す。
「何をしているかって?口説いてるだけだ。邪魔すんな、紫月。」
紫月先輩・・・
彼は、信用に値する人、だと思う。
すれ違う度に挨拶をしてくれるし、声や表情に優しさが見え隠れする。
何より、私の秘密を知ってもまだ、秘密にしてくれている。
情けないけど、ここは先輩に助けを求めよう。
「っ、紫月先輩・・・!」
凍り付いていた喉をふるわせ出した声は、かすれていて、自分のものとは思えないほど弱々しく響いた。
その声を聞いた紫月先輩は、走って私と富金原先輩の方に来て、私を富金原先輩の腕の中から助けだそうとした。
富金原先輩は、なぜか一瞬、私を拘束している腕に力をこめた。
額に何か柔らかい感触がして、次の瞬間、私は紫月先輩の腕の中にいた。
「またな、蒼来。」
富金原先輩の姿が消え、私はじわじわと緊張が解けていくのを感じていた。
「大丈夫だったか?桐谷。何もされなかったか?」
案じるような紫月先輩の声に私は何度も頷いた。
「ありがとう、ございました、先輩。」
声が少し震えて、ああ、私は怖かったんだなとどこか他人事のように分析していた。
富金原先輩、できればもう近づきたくないな。
つらつらとそんなことを思っていると、私を囲む先輩の両腕に力がこもった。
「先輩?」
驚いて呼びかけると、フーッとゆっくり息が吐き出された。
「びっくり、した。桐谷が、富金原先輩に・・・」
ギュッともう一度強く私を抱きしめると、名残惜しげに私を解放した。
「富金原先輩に近づくのは、もうやめた方がいい。あの先輩に泣かされた女子生徒は、数え切れないほどいるから。」
真心からの忠告。
でも・・・
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そう言うと、先輩はなぜかとても驚いたように私を見つめた。
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