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高校生編 5月
驚愕 ~紫月 司side~
しおりを挟む抱き合っている富金原先輩と桐谷を見た時、息が止まるかと思った。
でもよく見れば桐谷の表情には恐怖がにじみ出ているし、二人が付き合っているわけではなさそうだと思い、声をかけた。
そして桐谷を助けた後、桐谷から告げられた事実に衝撃を受けたのだ。
桐谷が学級委員長ということは、朱雲 蒼羽は何をしているんだ?
光陰部は原則、学級委員長にならなければならない。
面倒な役職を避けたがる萌黄だってしぶしぶなったというのに。
それに、担任が許すとは思えない。
おれがさっきまでいた第二ダンス練習場に桐谷を連れて行き、備えられているソファーに並んで腰を下ろした。
一目惚れした相手と二人きりでいるという状況は妙に落ち着かないが、まずは彼女を守るために何か対策を練らなければいけない。
浮かれるのは、その後だ。
「で、なんで朱雲がいるのに桐谷が学級委員長になったんだ?」
尋ねてみれば、桐谷は途端、微妙な表情になった。
「えっと、藤沢先生がくじ引きにしちゃったんです。でも、状況から見て、先生は偶然ではなく、故意に私を指名した可能性が高いんじゃないかと思っているんです。」
くじ引きの仕方と、その時の藤沢先生の言動を聞き、おれもその可能性が高いと納得した。
本当に、藤沢先生は何を考えているんだ?
謎に包まれた人だ。
つかみ所がなく、よく分からない。
「じゃあ、藤沢先生は桐谷の力のことを知っているかもしれないってことか。」
彼女の能力を明らかにし、光陰部にいれるという宣戦布告だった可能性がある。
「多分、そうだと思います。先生、私のことを名前で呼んだから・・・」
名前で呼んだから?
どうつながるんだ?
「どういうことだ?」
問うと、桐谷はハッとしたように口を押さえた。
明らかに、何か言わなくてもいいことを言ってしまったような表情だ。
桐谷って、案外嘘つくのが下手なのか?
というか、まだおれに隠していることがあるのか・・・
「桐谷、隠していることがあるなら、教えてくれ。協力したいんだ。桐谷の秘密を、守りたい。でも、知らなきゃ守りようがないんだ。」
頼む、守らせてくれ。
桐谷の心に、もっと近づきたい。
好きな人を守りたい。
その一心で言葉を重ねる。
桐谷の透明度の高い綺麗な紫水晶の瞳がゆらゆらと揺れ始めた。
「おれに桐谷を守らせてくれ、頼む。」
最後の一押しにおれの心をそのまま伝える。
すると、桐谷はポツリポツリと語り始めた。
「私の苗字、桐谷じゃないんです。本当は、朱雲なんです。」
そして、全ての話を聞き終えた時、おれの頭は完全にこんがらがっていた。
整理しようと、言葉にする。
「じゃあ、桐谷の本当の名前は朱雲 蒼来で、朱雲会長の妹で、一年の朱雲 蒼羽の双子の姉、なのか?覚醒したばかりの頃に朱雲会長の家に逃げ、今まで匿われていたと?」
コクリと頷く桐谷。
言われてみれば、二人に似ているような・・・
けど、色彩やまとう雰囲気が違うせいか、この三人を結びつけようとは思わなかった。
能力者の家柄の中でも、特に家格が高い朱雲家。
その朱雲家が、こんな秘密を抱えていたなんて・・・
それを口にだすと、桐谷はパッと俯きがちになっていた顔を上げた。
「知らされていないんですか?」
期待に満ちた目で見つめられ、胸が高まる。
でも、それを表に出さないようにして頷いた。
「ああ、そんなの、初耳だ。誰も知らないよ、そんなこと。」
あの朱雲家が、自分達の失態を他家に漏らすはずがない。
知っているのは内部の者、つまり朱雲本家の者だけだろう。
この学園では、朱雲会長と、朱雲 蒼羽の二人だけ。
桐谷にとっても、この秘密は誰にも知られたくなかったはず。
でも、おれに打ち明けようと思ってくれたことが嬉しい。
少しでも、他の奴より信頼されているようで。
「じゃあ、富金原先輩の目的はそれじゃないってこと、ですね。」
どうやら桐谷は富金原先輩が秘密を知っているんじゃないかと不安に思っていたようだ。
「大丈夫、先輩は知らない。ただ、藤沢先生は警戒した方がいいかもしれない。どこからどこまで分かっているのか、予想がつかないから。」
本当は、傍で守りたい。
ずっと、傍にいて、守ってやりたい。
他の誰でもない、おれの手で。
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