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1日目
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あれ、なんでだろ。
瞼の裏に、光を感じる。
体の周りに、空気を感じる。
呼吸してる。
心臓が、ドクン、ドクンって胸を叩いてる。
もう、こんな感覚、2度と味わうことないと思ってたのに。
わたし、泡になったんじゃなかったの?
…私、生きてるの?
試しに指を動かしてみる。
ピクリ、と僅かだけど、確かに動いた。
目を、開けてみる。
瞼が重くて動かない。
んー!力をいれて、もう一度チャレンジ。
そして。
暖かな世界が、私を出迎えた。
「っ……」
ここ、は、どこ…?
豪華な、見知らぬ部屋だった。
え、どういうこと?
ゆっくりと上体を起こす。
頬をつねってみる。うん、痛い。
夢、じゃない。
私、生きてるんだ!
信じられない気持ちで、自分の体を見回す。
そして、気づいた。
私の膝元辺りに、誰かの頭がある。
だ、誰…?
明るい茶髪には、見覚えがある。
あの海の中、泡となる、その前に。
この髪をした人が、私を抱き寄せた。
この人が、助けてくれたのかな…?
「ん…」
あ。
その人は微かにみじろぎをして、そのまま目を開けた。
優しげな蒼の瞳があらわになって、私を捕らえる。
ふわり、と。
その綺麗な瞳が細められて、寝起きの無防備な笑みに心臓が飛び跳ねた。
ドキドキドキドキ…!
「姫。よかった。目覚められたんですね。」
目を、そらせない。
心臓が、痛いくらいに高鳴って。
私、どうしちゃったの?
固まっていると、ふっと彼が目を逸らした。
ほっとしたような、寂しいような、不思議な気持ちになりながら、その視線の先を追いかける。
「……!」
たどり着いた先には、私の手と…それに絡まった、彼の手。
手、繋いでる!
い、いつのまに?
一気に右手に意識がいく。
繋いだ手が、熱い。
じわじわと熱が全身に浸食してきて、顔に熱が集まる。
彼はまた、私に視線を戻して、一瞬目を見開いた。
けど、すぐに笑顔になって。
「顔、真っ赤ですね。」
愛しくてたまらない、なんてふうに言うものだから、ますます熱が高まった。
っていうか、この人誰だろう…?
我に帰れば、あれだけ冷めやらなかった熱も簡単にひいていった。
この人、見覚えあるんだけどなあ。
一体、誰だったっけ?
そんな私の疑問に気づいたのだろうか。
彼は少し悲しそうに眉尻を下げて名乗った。
「失礼しました。私はノア。公爵家の長男で……王子の、側近です。」
あっ!と思った。
そうだ、この人、いつも王子の横にいる人だ。
王子と仲良さげに話している姿を見たこともある。
なんですぐに思い出さなかったんだろ…
「姫は王子しか見ていませんでしたからね。私のことを覚えていなくても無理はありません。」
ボボボッと熱が再発した。
こ、この人、私が王子のこと好きだって、知ってる!?
いや、隠していたつもりは、ないんだけど、こう面と向かって言われると恥ずかしいというか…
…それに、終わってしまった恋、だし。
胸に突き刺さるような痛みを感じて、私は俯いた。
ああ、痛いなあ。
痛くて、切ない。
恋した人が、同じ気持ちを向けてくれない。
そんなこと、きっと珍しいことじゃない。
逆に、相思相愛になれることの方が稀なのに。
なのに、この痛みが辛くて。
胸を抑えるように手を添えると、ポン、と優しい温もりを頭に感じた。
「痛い、ですよね。」
「…」
切なさが感じられる口調に、思わず顔を上げた。
ノアは、ただじっと、私を見つめていた。
「分かります。大好きな人がすぐ側にいるのに、その想いが自分ではなく、他の人に向いているのを見るのは、とても辛い…」
声が痛々しくて、芯に迫っていて、この人も同じような気持ちを感じたことがあるのだと、なんとなく悟った。
「私は…俺は、ずっとそうだった。」
一人称が、私から俺に。
敬語が崩れて。
その変化の真意は、分からない。
けど。
「あなたの瞳には、いつも、王子しか映っていなかった。」
それがどれほど苦しく、切なかったことか…
そう言ったノアの瞳には、気のせいでは済ませられないほどの熱が込められていた。
ノア…?
「ここは私の屋敷です。しばらくあなたには、ここで暮らしてもらいます。」
「…!?」
え…
「王子にも、許可はもらってあります。」
王子、のたった3音に胸が痛くなる。
王子は…私のことが、邪魔だったのかな。
だから、私をここに?
「言っておきますが、王子はあなたを邪魔だなんて微塵も思っていませんよ。」
そんな私の心を読んだかのようにノアが微笑んだ。
「私が無理に頼み込んだんです。」
「?」
なんで、ノアが?
私をここで暮らさせるようにと、頼み込んだ?
「姫を口説き落としたいから、チャンスをくれ、と。」
「!?」
え?は、え?
口説き落とすって、何?
チャンスって、どういうこと?
絶賛混乱中の私にノアはクスリと笑みを溢し、
「しばらく私も休暇をもらいました。この屋敷で一緒に過ごしましょう。
その間に、あなたを俺に惚れさせる。覚悟しとけよ?」
ゾワッと鳥肌がたった。
低い声が腰に響く。
さっきとは比にならないほどの熱が全身を駆け巡って。
「その反応を見る限り、まだ俺にも望みはありそうですね。」
そんな私を見て、ノアは満足げに笑ったのだった。
瞼の裏に、光を感じる。
体の周りに、空気を感じる。
呼吸してる。
心臓が、ドクン、ドクンって胸を叩いてる。
もう、こんな感覚、2度と味わうことないと思ってたのに。
わたし、泡になったんじゃなかったの?
…私、生きてるの?
試しに指を動かしてみる。
ピクリ、と僅かだけど、確かに動いた。
目を、開けてみる。
瞼が重くて動かない。
んー!力をいれて、もう一度チャレンジ。
そして。
暖かな世界が、私を出迎えた。
「っ……」
ここ、は、どこ…?
豪華な、見知らぬ部屋だった。
え、どういうこと?
ゆっくりと上体を起こす。
頬をつねってみる。うん、痛い。
夢、じゃない。
私、生きてるんだ!
信じられない気持ちで、自分の体を見回す。
そして、気づいた。
私の膝元辺りに、誰かの頭がある。
だ、誰…?
明るい茶髪には、見覚えがある。
あの海の中、泡となる、その前に。
この髪をした人が、私を抱き寄せた。
この人が、助けてくれたのかな…?
「ん…」
あ。
その人は微かにみじろぎをして、そのまま目を開けた。
優しげな蒼の瞳があらわになって、私を捕らえる。
ふわり、と。
その綺麗な瞳が細められて、寝起きの無防備な笑みに心臓が飛び跳ねた。
ドキドキドキドキ…!
「姫。よかった。目覚められたんですね。」
目を、そらせない。
心臓が、痛いくらいに高鳴って。
私、どうしちゃったの?
固まっていると、ふっと彼が目を逸らした。
ほっとしたような、寂しいような、不思議な気持ちになりながら、その視線の先を追いかける。
「……!」
たどり着いた先には、私の手と…それに絡まった、彼の手。
手、繋いでる!
い、いつのまに?
一気に右手に意識がいく。
繋いだ手が、熱い。
じわじわと熱が全身に浸食してきて、顔に熱が集まる。
彼はまた、私に視線を戻して、一瞬目を見開いた。
けど、すぐに笑顔になって。
「顔、真っ赤ですね。」
愛しくてたまらない、なんてふうに言うものだから、ますます熱が高まった。
っていうか、この人誰だろう…?
我に帰れば、あれだけ冷めやらなかった熱も簡単にひいていった。
この人、見覚えあるんだけどなあ。
一体、誰だったっけ?
そんな私の疑問に気づいたのだろうか。
彼は少し悲しそうに眉尻を下げて名乗った。
「失礼しました。私はノア。公爵家の長男で……王子の、側近です。」
あっ!と思った。
そうだ、この人、いつも王子の横にいる人だ。
王子と仲良さげに話している姿を見たこともある。
なんですぐに思い出さなかったんだろ…
「姫は王子しか見ていませんでしたからね。私のことを覚えていなくても無理はありません。」
ボボボッと熱が再発した。
こ、この人、私が王子のこと好きだって、知ってる!?
いや、隠していたつもりは、ないんだけど、こう面と向かって言われると恥ずかしいというか…
…それに、終わってしまった恋、だし。
胸に突き刺さるような痛みを感じて、私は俯いた。
ああ、痛いなあ。
痛くて、切ない。
恋した人が、同じ気持ちを向けてくれない。
そんなこと、きっと珍しいことじゃない。
逆に、相思相愛になれることの方が稀なのに。
なのに、この痛みが辛くて。
胸を抑えるように手を添えると、ポン、と優しい温もりを頭に感じた。
「痛い、ですよね。」
「…」
切なさが感じられる口調に、思わず顔を上げた。
ノアは、ただじっと、私を見つめていた。
「分かります。大好きな人がすぐ側にいるのに、その想いが自分ではなく、他の人に向いているのを見るのは、とても辛い…」
声が痛々しくて、芯に迫っていて、この人も同じような気持ちを感じたことがあるのだと、なんとなく悟った。
「私は…俺は、ずっとそうだった。」
一人称が、私から俺に。
敬語が崩れて。
その変化の真意は、分からない。
けど。
「あなたの瞳には、いつも、王子しか映っていなかった。」
それがどれほど苦しく、切なかったことか…
そう言ったノアの瞳には、気のせいでは済ませられないほどの熱が込められていた。
ノア…?
「ここは私の屋敷です。しばらくあなたには、ここで暮らしてもらいます。」
「…!?」
え…
「王子にも、許可はもらってあります。」
王子、のたった3音に胸が痛くなる。
王子は…私のことが、邪魔だったのかな。
だから、私をここに?
「言っておきますが、王子はあなたを邪魔だなんて微塵も思っていませんよ。」
そんな私の心を読んだかのようにノアが微笑んだ。
「私が無理に頼み込んだんです。」
「?」
なんで、ノアが?
私をここで暮らさせるようにと、頼み込んだ?
「姫を口説き落としたいから、チャンスをくれ、と。」
「!?」
え?は、え?
口説き落とすって、何?
チャンスって、どういうこと?
絶賛混乱中の私にノアはクスリと笑みを溢し、
「しばらく私も休暇をもらいました。この屋敷で一緒に過ごしましょう。
その間に、あなたを俺に惚れさせる。覚悟しとけよ?」
ゾワッと鳥肌がたった。
低い声が腰に響く。
さっきとは比にならないほどの熱が全身を駆け巡って。
「その反応を見る限り、まだ俺にも望みはありそうですね。」
そんな私を見て、ノアは満足げに笑ったのだった。
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