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閑話

やっぱりバトルが好きらしい

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  金剛が『KONGO☆』と『C』の兼任で会長になり、涼聖は『C』の専属モデルになった。そして、天狗の伯耆坊も『C』のモデルになったのだ。
「顔だけはええ男ですからな」
金剛は伯耆坊をイケメンだという。二メートルを超えた大男がモデルとはどうなんだろうと疑問に思っていた涼聖だったが、格闘技団体『KONGO☆』の衣装協力を『C』がすることで一石二鳥な関係が結べたらしい。
とにかく大男にはお洒落な洋服が必要らしいのだ。涼聖も洋服を欲する気持ちは痛いほどわかる。
 斗樹央は天狗の小僧になったことを陰陽師協会に伝えた。すぐさま会議が開かれ出席させられたらしいが、牡丹を連れて行ったのが良かったらしい。
「始末は付けた」と報告した陰陽師を誰もが称えた。陰陽師協会は『善』の気が強く、未来永劫生き続ける妖の陰陽師を囲ったことになる。陰陽師協会も半永久的に邪な意向はできないだろうと金剛は言っていた。
 怨霊から狐の妖に戻った牡丹は、前よりも明るい性格になり、夜の仕事を辞めてしまった。そして、昼間に陰陽師協会で働くことになった。すでに牡丹の手によって協会内部からの『掃除』が行われている。
 友伸は相変わらずだ。最初は斗樹央に怯えていたようだったが、すぐにいつも通りの親友に戻った。斗樹央が陰陽師協会で高位な立場になったことから、報酬が増えたと喜んでいた。
 華は公には涼聖の恋人だ。歌姫という名で顔を隠して歌っていたが、最近では曲も作り、海外の仕事もあるようで忙しくしている。
 狼牙は陰陽師協会所属の呪術講師になった。涼聖が尊敬するほど呪術の腕は良かったが、実はかなり難易度の高い呪術師だったらしい。若い妖たちに受けが良く、わかりやすいと協会のホームページで書かれていた。
 
『TIME』へ金剛と涼聖がお茶を飲みに行くと、いつもの席で美沙が涼聖に手を振った。
「おはようございます。ココアください」
昼間は暇すぎて潰れてしまうんじゃないかと思われていた『TIME』だが、ここのところは天狗も来店していて売り上げが上がっているらしい。
「涼聖くん、こないだテレビでてやろ? 見たで。カッコよかったわー」
「テレビは嫌なんですよ。何しゃべっていいかわからないから、変なこと言ってしまいそうなんです。あ、美沙さん、僕の宝物は斗樹央さんのお爺さんに預けられてたそうです。ここで撮った写真を見せてもらいました」
店の二階を片づけた斗樹央に写真を一枚もらった。それは、斗樹央の祖父、泉佐野、横溝、綾辻、美紗の若かりし頃の写真だった。
女優のように綺麗だったと美紗に言うと背中をバシンッと叩かれた。恥ずかしいのかもしれないが、容赦はなかった。ジンジンする背中を撫でながら涼聖は斗樹央が持ってきた写真をまた見る。
「斗樹央のお爺さんの時慈《ときじ》さんは渋いしカッコええからモテたんやで。ここでジャズのレコードかけたりお洒落やったわ。それがアンタ、孫の世代になってまでこの店に通うんやから、私も優しくなったもんや」
懐かしそうに写真を見る美沙の手元を、横溝と綾辻も「どれどれ」と覗き見た。
「時慈さんのハンサムなんは奥さんを大事にしてたからやろ。遊び人やったらこうは女性にモテへんで」
「斗樹央がもうちょっと美味しいコーヒー淹れられるようになったらええんやけどなぁ」
苦笑する斗樹央に、堅太があんまり美味しくないという噂のコーヒーを淹れた。堅太はパフェを作らせてもセンスが悪いらしく、パフェは『TIME』のメニューから消えた。
「狼牙くんが淹れてくれるコーヒーは美味しかったんやけどな」
美紗は残念そうに溜め息をつく。
狼牙が店を辞めてしまい、涼聖もサクサクトロンな甘酸っぱいアップルパイが食べられなくなってしまった。
「牡丹さん、アップルパイって作ってくれるでしょうか……」
涼聖がそう言うと、斗樹央が鼻で笑った。
「華に言えや。美味しい有名店の買ってくれるやろうが」
「華ちゃんは忙しいんです。今日ニューヨークから帰ってくるんです」
「……へぇ」と斗樹央がニヤリと笑う。
「それは涼聖、迎えに行かなあきませんな」と金剛は金の臭いがしたようだった。
「関空まで迎えに行くように言われてます。僕、車の免許を取ろうと思ってるんですよ。華ちゃんにそう言われてて、黒い車をプレゼントしてくれるらしいです」
「自分で免許取らへんところが華らしいな」
「時代は自動ブレーキ運転ですからな。免許取りに行くんやったら雑誌の特集組んでもらいましょか。『涼聖が自動車免許を取るまで』って車のスポンサーが付いてCM出演が来るかもしれませんな。ちょっと電話してきます」
そう言って金剛はスマホを出して外へ行ってしまった。
「カシラは相変わらず、涼聖で儲けることばっかり考えてるんやな」
天狗の僧正坊の小僧になった斗樹央は、金剛の事をカシラと呼ぶようになった。それが少し嬉しそうなのは斗樹央に兄弟がいないせいらしい。友伸は弟のような親友として育てたようだったが、ずっと兄が欲しかったのだと金剛が言っていた。
妖最強八天狗の親分だ。申し分はないだろう。
「会長やのにマネージャーみたいですね。金剛は僕に稼がしたいんですよ。通帳見せたら叱られました」
「服屋の店員やったからなぁ。あ、牡丹が今日はハンバーグって言ってたで」
ということは、今夜、バトルなのかもしれない。
涼聖は「楽しみにしてます」と五百円を斗樹央に手渡した。
美紗に「また明日」と手を振り、敏腕マネージャーのいる外に出る。
「今夜、バトルみたいですよ」
「猫股が言うてましたわ。大物らしいですな」
「友伸さんです」
「はいはい」
腕時計を見ると、三時。そろそろ関空へ行かないとまずい時間だ。金剛を施しながら駐車場まで歩いた。
皆が集まるのはいつぶりだろうと思い出す。あれから何度もバトルは行われた。
「卜占を辞めたら斗樹央さんが明るくなりました」
「斗樹央は陰陽師ですけど、もともとが神社に関わりのある家系ですやろ。神職の大学出てますし、涼聖の後ろ盾もあって神事のほうが相性ええんですわ。天狗にしたんも神の意向かもしれませんな」
悪人面で、悪者オーラで、「毎度ぉ! 陰陽師やでぇ」とバトルを始めてしまう男だ。神職と聞いて涼聖は驚いた。
「……ほんまに神さまの意向ですか? あんまり僕は信じられへんのですけど。きっとバトルは趣味なんですよ」
そう、趣味なのだろう。楽しそうに神獣を出し、涼聖に祝詞を詠む。妖になった斗樹央の念は以前の倍はあるらしい。もう日本最強なのだとか。それでも、神の眷属には逆らえないし、カシラである金剛にはもっと逆らえないのだと言う。
道標として涼聖の縛りが出来上がってしまったが、妖を集めて開催されるバトルは、彼にとっては善行という名の趣味なのだ。
「もう寂しい思いはしませんなぁ」
金剛に言われて涼聖は頷いた。金剛は涼聖のことを全部知っている。
「こんな身近にたくさんの妖がおるのに、何で僕は一人きりやったんでしょう。仕える神様もおらん世の中は淋しかった。僕はもう自分で自分を封印したりしませんよ。斗樹央さんがいてますから」
「ワシも皆もおりますがな。あの時、泣く泣く陰陽師に涼聖の憑代を預けましたが、これで良かったんですわ」
金剛が預けた先は斗樹央の先祖の陰陽師だった。未来永劫、涼聖は封印されたままのはずだった。封印解除の予感がした斗樹央の祖父が泉佐野に憑代を預けたらしい。優しい人に育てられるようにと。
 涼聖が憑代から出ると、完全解除ではなかったため、憑代はまた時慈に預けられたのだ。
「平安時代の涼聖は耳と尻尾は常にありましたから、現代では完全解除されんほうがええんですわ」
豪快に笑った金剛は赤い車を運転してくれる。金剛の車だ。
「黒い車も涼聖に似合いますよ」
そうだろうか。
「華ちゃんが服を買ってくれたそうです。また黒い服が増えます」
「ともかづきは弱い妖とちゃうんですけどなぁ」
涼聖もそれはわかっている。海で海女さんに悪さをする凶悪な妖だ。
でも、二人とも何も言わないが、要は照れくさいのだ。
もっとゆっくりでいい。人と同じで一人では生きられないのだから。
そんな妖の時間は未来永劫つづくのだから。
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