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偶然からなる救出
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「橘川、今日はもう帰っていいぞ。また明日な」
教室で課題をやらされていた俺に担任が声を掛ける。
ガランとした教室に夕日が差し込み、時刻はすっかり夕方。
さっさと教室を出、下駄箱へ向かった。
外からはまだ運動部の声が響いている。
部活をやってる奴らには終業式や春休みなんて関係ないようだ。
「よくやるぜ、全く」
クソ真面目に練習している姿を横目にペッとつばを吐きかけた。
「あ~あ、かったり~」
ますます腹立だしさが蓄積される。
学校を離れ、ただこのまま真っ直ぐ家に帰る気にもならないし、寄り道することにした。
どうせ家に帰っても誰も居やしないし、関係ない。
ゲーセンでも行ってボコってこないと気が済まない。
街路樹を抜ければ繁華街がある。
そんな風に街に向かって歩いていると前方に黒い学ランの団体が固まっていた。
他所の低俗な私立高校の奴らだ。
よく分からないが輪になって道を塞いでやがる。
邪魔だと思ったが幸い人が通れるスペースがある。
まあいいかと通り過ぎようとした瞬間、その中の一人が突然、飛び出してきた。
ドンという衝撃と共に俺の肩にそいつが当たる。
次の瞬間、何かが弾けたように爆発。
とっさにぶつかってきた奴に殴りかかる。
そうなるのを待っていたかのようにキレていた。
揉め事に気づいた奴らの仲間が慌てて参戦。
不思議なことにその時、女の悲鳴が聞こえた気がした。
5~6人居ただろうが覚えていない。
とにかく今までの憂さをどうにかしたかった。
殴る、蹴るの乱闘で人数が多かったのにも関わらず、場数をこなしている俺の方が優勢。
「こら~!! 何をしている!?」
遠くから笛を鳴らしながら怒鳴り散らしている男の声が響いてくる。
「やべぇ、サツだ」
奴らの一人が叫び、慌てて逃げ出す。
もちろん、俺も。
これ以上、ムシャクシャの原因となった奴らと関わりたくない。
ただ走って走って雑居ビルとビルの間に逃げこんだ。
全力疾走で息が切れ、両膝に手を当てながら呼吸を整えていると、目の前にスッとハンカチが現れた。
見れば同じ学校の制服の女。
「血、出てる……」
そう言うと俺の唇にハンカチを押し当てた。
――何だ、コイツ?
不審に思いながら睨みつけ、ハンカチを払う。
弾かれたハンカチは地面へと叩きつけられた。
「あっ」
女は慌てて拾うと俺の方へと向き直した。
「あのね。ただ、お礼が言いたかったの」
長い髪を2つに束ねた女は真剣な顔。
「は?」
何言ってるんだ、コイツ?
ますます不審に思い、無視しようと顔を逸らした。
「絡まれてるところを助けてくれてありがとう」
意外な言葉に驚く。
「助けた、だと?」
思わず声に出す。
「そう、助けてくれたの。あなたが私を助けてくれたの」
訳が分からず、黙って女の話に耳を傾ける。
「急に絡まれて通り過ぎる人に助けを求めても知らん振りされてて。必死で抵抗していたんだけど周りを固められて困っていたの。そこに現れて助けてくれたのよ」
どうやら女を囲んでた奴らが勢い余って飛び出してきて、その瞬間に俺とぶつかったんだな。
それが偶然にも助ける形となったらしい。
「あれは助けたわけじゃない」
吐き捨てるように言葉を投げる。
「ただ、俺にぶつかってきた奴に頭にきたんだ!」
俺の罵倒で一瞬、女の顔が固まる。
すぐに違うと首を振り、意を決したかのようにはっきりと告げる。
「暴力は良くないけど、結果、私は助けられたの。"橘川弘樹"くんに助けられたの!!」
「………!」
何でオレの名前を知ってるんだ?
「とにかく助けてくれてありがとう。遅くなると家族が心配するからごめんなさい。また改めてきちんとお礼するね」
怯んでる隙に女は腕時計を見ながら慌てたように路地から消えた。
よく考えると同じ学校の制服だし、俺が悪評高いので有名だからな。
空を見上げるとすっかり日が落ちたがまだうっすらと明るかった。
確実に日が長くなってるんだと感じる。
「変な女……」
そう呟くと俺は誰も居ない家に足を向けていた。
教室で課題をやらされていた俺に担任が声を掛ける。
ガランとした教室に夕日が差し込み、時刻はすっかり夕方。
さっさと教室を出、下駄箱へ向かった。
外からはまだ運動部の声が響いている。
部活をやってる奴らには終業式や春休みなんて関係ないようだ。
「よくやるぜ、全く」
クソ真面目に練習している姿を横目にペッとつばを吐きかけた。
「あ~あ、かったり~」
ますます腹立だしさが蓄積される。
学校を離れ、ただこのまま真っ直ぐ家に帰る気にもならないし、寄り道することにした。
どうせ家に帰っても誰も居やしないし、関係ない。
ゲーセンでも行ってボコってこないと気が済まない。
街路樹を抜ければ繁華街がある。
そんな風に街に向かって歩いていると前方に黒い学ランの団体が固まっていた。
他所の低俗な私立高校の奴らだ。
よく分からないが輪になって道を塞いでやがる。
邪魔だと思ったが幸い人が通れるスペースがある。
まあいいかと通り過ぎようとした瞬間、その中の一人が突然、飛び出してきた。
ドンという衝撃と共に俺の肩にそいつが当たる。
次の瞬間、何かが弾けたように爆発。
とっさにぶつかってきた奴に殴りかかる。
そうなるのを待っていたかのようにキレていた。
揉め事に気づいた奴らの仲間が慌てて参戦。
不思議なことにその時、女の悲鳴が聞こえた気がした。
5~6人居ただろうが覚えていない。
とにかく今までの憂さをどうにかしたかった。
殴る、蹴るの乱闘で人数が多かったのにも関わらず、場数をこなしている俺の方が優勢。
「こら~!! 何をしている!?」
遠くから笛を鳴らしながら怒鳴り散らしている男の声が響いてくる。
「やべぇ、サツだ」
奴らの一人が叫び、慌てて逃げ出す。
もちろん、俺も。
これ以上、ムシャクシャの原因となった奴らと関わりたくない。
ただ走って走って雑居ビルとビルの間に逃げこんだ。
全力疾走で息が切れ、両膝に手を当てながら呼吸を整えていると、目の前にスッとハンカチが現れた。
見れば同じ学校の制服の女。
「血、出てる……」
そう言うと俺の唇にハンカチを押し当てた。
――何だ、コイツ?
不審に思いながら睨みつけ、ハンカチを払う。
弾かれたハンカチは地面へと叩きつけられた。
「あっ」
女は慌てて拾うと俺の方へと向き直した。
「あのね。ただ、お礼が言いたかったの」
長い髪を2つに束ねた女は真剣な顔。
「は?」
何言ってるんだ、コイツ?
ますます不審に思い、無視しようと顔を逸らした。
「絡まれてるところを助けてくれてありがとう」
意外な言葉に驚く。
「助けた、だと?」
思わず声に出す。
「そう、助けてくれたの。あなたが私を助けてくれたの」
訳が分からず、黙って女の話に耳を傾ける。
「急に絡まれて通り過ぎる人に助けを求めても知らん振りされてて。必死で抵抗していたんだけど周りを固められて困っていたの。そこに現れて助けてくれたのよ」
どうやら女を囲んでた奴らが勢い余って飛び出してきて、その瞬間に俺とぶつかったんだな。
それが偶然にも助ける形となったらしい。
「あれは助けたわけじゃない」
吐き捨てるように言葉を投げる。
「ただ、俺にぶつかってきた奴に頭にきたんだ!」
俺の罵倒で一瞬、女の顔が固まる。
すぐに違うと首を振り、意を決したかのようにはっきりと告げる。
「暴力は良くないけど、結果、私は助けられたの。"橘川弘樹"くんに助けられたの!!」
「………!」
何でオレの名前を知ってるんだ?
「とにかく助けてくれてありがとう。遅くなると家族が心配するからごめんなさい。また改めてきちんとお礼するね」
怯んでる隙に女は腕時計を見ながら慌てたように路地から消えた。
よく考えると同じ学校の制服だし、俺が悪評高いので有名だからな。
空を見上げるとすっかり日が落ちたがまだうっすらと明るかった。
確実に日が長くなってるんだと感じる。
「変な女……」
そう呟くと俺は誰も居ない家に足を向けていた。
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