人魚姫の王子

おりのめぐむ

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真昼の名の夢?

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 今の俺には土日なんて存在しない。
 とにかく補講の日々だ。
 学校側も進級が係っている名目で春休み返上して補講を決行してるとか。
 とはいえ、俺一人ということもあり、担任らは交代で出勤だとよ。
 まあ、部活は土日関係なく行なわれてるから学校には誰もいないって事はない。
 去年も同じ経験をしたが毎度のことながら教室棟は閑散として静まり返っている。
 朝から夕方までたった一人で過ごす教室。
 サジを投げてる教師らは途中で見回りなど来ない。
 ただ黙々と課題を行い、書き込む音だけが響く。
 放置状態だがその場に閉じ込められている。
 その様子はまるで監禁されているようだ。

 時計の針が12時を指す。
 買いに行く手間を省こうと今日は持参。
 朝、コンビニで買った弁当を取り出した。
 みずぼらしい内容のおかずを見て、ふと昨日の出来事が過ぎる。
 お礼と言って弁当を持って現れたあの女。
 突然やってきて風のように消えた変なヤツ。
 コンビニ弁当を食べてる今から考えると信じられない時間。
 夢だったのか? とフッと笑いが込み上げてきた。
 そして我に返り、わびしい弁当をかき込んだ。
 その時だった。
 勢いよく後方の戸が開き、バタバタと足音が響いた。
 振り返ると慌てた様子のあの女が、居た。

「はぁ、はぁ……。おっ、遅れて……ゴメン」

 呼吸を整えながらゆっくりと俺の方へと近づく。

「生徒会の方が長引いちゃって……」

 聞いてもないのに申し訳なさそうに女が言う。
 そして昨日と同じように素早く持参弁当を用意すると食べるように勧めてきた。
 俺は何も言えず、目の前の光景をあんぐりと見ているだけだった。
 何て言うか、鳩が豆鉄砲食らう、そんなところか?

「やだ。昨日でお礼が済んだって思わないでよね?」

 女は真っ直ぐな瞳で訴えた。

「何なんだ、お前は一体?」

 そう聞くと女は驚いたような顔で言った。

「えっ……? 私のこと、知らない? 見たこと無い?」

「知るわけねぇだろ」

「ふーん、そっか……」

女は少し悲しそうな顔で俯いたが、すぐに俺を見つめ、

「私、森谷知夏。同じ学年で生徒会の書記とコーラス部の副部長やってるの。で、義理と人情には厚い女でしっかりとお礼させていただきます。男の子だからまだ食べれるでしょ? 味は別としてね」

 言いながら空になったコンビニ弁当をどけ、持参の弁当をドンと俺の目の前に置く。

「お前、勘違いしてねぇか?」

「勘違いじゃない! 私が助けられたって言ってんだから助けられたの。でもって恩を返さないと私の気がすまないの! いい? 分かった?」

 声を荒げて興奮のあまり立ち上がって念を押す強さにただ驚いた。
 長い髪を2つに束ね、ピシッとした制服を身にまとっていて、見た目は清楚で大人しそうなお嬢様って感じなのに……な。
 憤慨した様子で食べ出すのを見て、俺もとりあえず食った。
 味気ないコンビニ弁当だけじゃ物足りなかったのも確かだが、昨日の懐かしい感触を味わいたかったからだ。
 あっという間に食べ終わると素早く片付け、部活があるからとさっさと出て行った。

 変な女。森谷知夏―――。

 が、俺にとってかけがいのない女になるとは、この時は知る由もなかった。
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