人魚姫の王子

おりのめぐむ

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閉ざされた教室

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 翌日、知夏を待ち伏せるため、昼には少し早い11時頃、学校へ。
 いつものように教室棟へ続く校庭を通り、中に入るための靴箱がある下足室へ向かった。
―――そこで異変に気づいた。

 ガラス戸となっている下足室に鍵がかかっていたのだ。
 横にスライドさせて開ける戸がびくともしない。
 慌ててその他の入り口に回った。
 とにかく教室棟へ続く入り口という入り口を探した。
 が、どこもしっかりと鍵がかけられ、中に入れる状態じゃない。
 多分、俺の補講が終了したから用が無くなったので締切ったんだろう。
 途方に暮れながら仕方無しに下足室の入り口へと戻る。
 もしかすると同じように知夏もここに来るかもしれない。
 俺は腰を下ろして待ってみることにした。
 その間に昼の12時が過ぎていく。
 ここ最近、遅れて教室に来ていた知夏。
 この現状で慌てていたらもっと遅れてくるに違いない。
 そう思っていたが、一向にくる気配が無かった。
 時刻は12時半を回っていた。

「おかっしぃな……」

 ふとある考えが過ぎる。
 実は知夏は朝、ここに来て締め切られてたことを知っててただ単に来ないだけなのかと。
 それとも他に何か遅れている原因があるとか?
 ……こればかりは本人に聞いてみなければ分からない。
 意を決して立ち上がる。
 知夏の活動の場である、部室へ行ってみよう、と。
 別に俺がそこまでする必要なんてどこにもない。
 知夏が勝手に来ててやってたことだから。
 今日だって別に学校なんてくる必要も無かった。
 弁当を作って待っていようと俺には関係のないことだ。
 ……ただ何も知らずにいるんじゃないかということが気になるだけだ!
 そう、それを確かめたい。
 それだけだ。


 知夏の所属するコーラス部と生徒会は芸術棟にある。
 芸術棟は1階が書道教室、2階が美術室、3階が音楽室となっていて選択授業の芸術教科の際、利用する場所だ。
 1階の空き教室が生徒会室になっていて知夏は普段1階と3階を行き来しているに違いなかった。
 俺にはご縁のない生徒会室に近づく。
 扉には錠前がかけられており、誰もいないことを訴えていた。
 ということは知夏がいるのはコーラス部の可能性が高い。
 そこで3階まで行くことにした。
 階段を一段一段昇るにつれ、不思議と緊張していくのが分かる。
 3階なんて近づいた事すらなかったからだ。
 せいぜい授業で2階の美術室に行くぐらいだ。
 だんだんと重い足取りとなりながら上がっていると、上から数人の女の話し声が聞こえてくる。
 ぎゃあぎゃあと騒いでいた女たちは俺の姿を見た途端無言になり、すれ違った。
 もちろんその中には知夏の姿は無かったが部活の奴らに違いない。
 ようやく3階に辿り着き、コーラス部を探す。
 教室の配置は一番奥が音楽室になっていて、その隣が準備室。
 そして少人数向けの教室として第1音楽教室といった風に第3まで並んでいた。
 廊下にも数人の女たちがいたが、知夏の姿はなかった。
 奥に向かって歩いていくと第2音楽教室に「コーラス部」と看板が提げられていた。
 思い切って扉を開けると10人前後の女たちが居た。
 弁当を食っている奴やお菓子をくわえている奴らがいて休憩中だと明らか。
 全員が突然の俺の来訪に驚いた様子でじっとこっちを見る。
 そんな状況下、無常にも知夏の姿は無い。
 いないと確かめた途端、芸術棟を後にした。
 そして再び教室棟の周辺を走って探した。
 結局、どこにも……、どこにも知夏の姿は見あたらなかった。
 不思議な存在に俺は戸惑うばかりだった。
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