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行方の糸口
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新学期が始まる。
クラス替えが行なわれ、晴れて高3の身。
まあ、クラス替えといっても万年Eクラスなんだが。
新クラスの名簿が張り出され、その中で”森谷知夏”の名前を目にする。
あの日以来、その存在に確信が持てずにいて名前を見つけた途端、何故かほっとした。
風のように現れて風のように去っていった知夏。
俺の前だけしか姿を現さなかった知夏。
もしかしたら幻を見てたのか……と思い始めていたからだ。
始業式が講堂で行なわれ、クラスごとに整列させられた。
そんな中、いつの間にか俺は知夏の姿を探していた。
校長や理事長のダラダラとした話など眼中に無い。
とはいえ、5クラス中で俺はEクラス、知夏はAクラスだ。
両端同士なので見渡せるはずも無い。
式も終わり、教室に移動。そしてすぐにHR。
「お前らもついに3年生。高校最後の1年だ。無事、全員の進路が決まり、卒業出来るよう、がんばっていこうな」
万年Eクラスである担任が在り来たりの言葉を述べる。
新クラスといってもクラスの3分の2は2年の時と同じ。
担任を含めてほとんど顔見知りだ。
俺の学校は成績によってランクが決められ、クラスが決まる。
Aクラスは学年でもずば抜けていてトップクラス。
それに伴いBクラス、Cクラス、Dクラスとレベルが下がっていく。
もっとも落ちこぼれているのがEクラスって訳だ。
「週末明けはテストだ。がんばりが進路に響くぞ。しっかりやれよ。……じゃあ、今日はこれまで」
1時間半程続いたHRが終わり、下校の時刻。
廊下に出、ふと一番奥の教室を見つめる。
教室棟の配置はA・Bクラス、階段、C・Dクラス、階段、Eクラスとなっている。
他のクラスはまだ終わってない様子。誰一人として廊下に出ていない。
それもそのはず、始業式の後、初日から授業が始まってるからだ。
つまりEクラスだけは別格扱いってやつ。
「橘川」
廊下で立ち止まっていた俺に担任が声を掛ける。
「何事も無く、無事に卒業してくれよ?」
半分笑いながら、頼むぞとその瞳は訴えているよう。
「知るかよ」
捨てゼリフを吐きながら、心残りがあるまま、下校した。
テストも終わり、通常授業が始まった。
初っ端だし、まだサボり癖は無かったが教室にいることが苦痛。
そこですぐ昼休みになると教室から飛び出していた。
他の奴らよりは長い昼休みで4限目の終わり辺りに抜け出して5限目に遅れてくるって感じだ。
そんな風に過ごしていた1週間が経ったある日の3限目と4限目の間の短い休み時間。
机でうつぶせて寝ていた俺に誰かが声を掛けてきた。
「……ぁ、ぁのぅ……、ぁ……。……ぁのぅ」
その声はか細く、おどおどしていたため、最初は気づかなかった。
「……ぁのぅ。……す、すみません……。あの……」
うわ言の様に聞こえるその声に気づき、見上げれば見慣れない女。
そいつはこのクラスに変わったばかりの小太りで眼鏡をかけていて明らかに大人しそうな奴。
前までBかCクラスに居たと噂の女はこの間のテストでクラスで1番を取った。
何でこんな奴がEにいるのかと俺とは別に浮いた存在になっていた。
「……んぁ?」
俺と眼が合うと一瞬、戸惑いながらも言葉を続ける。
「……ぁ、あ、ぁの……ですね。……ぇ、え……っと」
動揺していて口が回らないようだ。
「……ぁ? 何だよ」
めんどくさくなって目の前にいる奴を睨みつけるとますます動揺し、口調がしどろもどろになる始末。
「……何だよ、早く言えよ!」
その一言でビクビクしながらもある名前を口にする。
「……ぁ。……ぇ。も、ぉ。……も、りぃ……、モリタニ、さ、ん、が……」
その名前を聞いた瞬間、大きな音が響く。
勢いよく立ち上がった為、椅子がバタンと倒れる。
その音で俺も女も驚いて一瞬、時間が止まった。
ハッとなり、その先を聞きだそうとした途端、
「コラァー!何をしている!!」
タイミングよく、4限目のうっとおしい教師が入ってきやがった。
クラス替えが行なわれ、晴れて高3の身。
まあ、クラス替えといっても万年Eクラスなんだが。
新クラスの名簿が張り出され、その中で”森谷知夏”の名前を目にする。
あの日以来、その存在に確信が持てずにいて名前を見つけた途端、何故かほっとした。
風のように現れて風のように去っていった知夏。
俺の前だけしか姿を現さなかった知夏。
もしかしたら幻を見てたのか……と思い始めていたからだ。
始業式が講堂で行なわれ、クラスごとに整列させられた。
そんな中、いつの間にか俺は知夏の姿を探していた。
校長や理事長のダラダラとした話など眼中に無い。
とはいえ、5クラス中で俺はEクラス、知夏はAクラスだ。
両端同士なので見渡せるはずも無い。
式も終わり、教室に移動。そしてすぐにHR。
「お前らもついに3年生。高校最後の1年だ。無事、全員の進路が決まり、卒業出来るよう、がんばっていこうな」
万年Eクラスである担任が在り来たりの言葉を述べる。
新クラスといってもクラスの3分の2は2年の時と同じ。
担任を含めてほとんど顔見知りだ。
俺の学校は成績によってランクが決められ、クラスが決まる。
Aクラスは学年でもずば抜けていてトップクラス。
それに伴いBクラス、Cクラス、Dクラスとレベルが下がっていく。
もっとも落ちこぼれているのがEクラスって訳だ。
「週末明けはテストだ。がんばりが進路に響くぞ。しっかりやれよ。……じゃあ、今日はこれまで」
1時間半程続いたHRが終わり、下校の時刻。
廊下に出、ふと一番奥の教室を見つめる。
教室棟の配置はA・Bクラス、階段、C・Dクラス、階段、Eクラスとなっている。
他のクラスはまだ終わってない様子。誰一人として廊下に出ていない。
それもそのはず、始業式の後、初日から授業が始まってるからだ。
つまりEクラスだけは別格扱いってやつ。
「橘川」
廊下で立ち止まっていた俺に担任が声を掛ける。
「何事も無く、無事に卒業してくれよ?」
半分笑いながら、頼むぞとその瞳は訴えているよう。
「知るかよ」
捨てゼリフを吐きながら、心残りがあるまま、下校した。
テストも終わり、通常授業が始まった。
初っ端だし、まだサボり癖は無かったが教室にいることが苦痛。
そこですぐ昼休みになると教室から飛び出していた。
他の奴らよりは長い昼休みで4限目の終わり辺りに抜け出して5限目に遅れてくるって感じだ。
そんな風に過ごしていた1週間が経ったある日の3限目と4限目の間の短い休み時間。
机でうつぶせて寝ていた俺に誰かが声を掛けてきた。
「……ぁ、ぁのぅ……、ぁ……。……ぁのぅ」
その声はか細く、おどおどしていたため、最初は気づかなかった。
「……ぁのぅ。……す、すみません……。あの……」
うわ言の様に聞こえるその声に気づき、見上げれば見慣れない女。
そいつはこのクラスに変わったばかりの小太りで眼鏡をかけていて明らかに大人しそうな奴。
前までBかCクラスに居たと噂の女はこの間のテストでクラスで1番を取った。
何でこんな奴がEにいるのかと俺とは別に浮いた存在になっていた。
「……んぁ?」
俺と眼が合うと一瞬、戸惑いながらも言葉を続ける。
「……ぁ、あ、ぁの……ですね。……ぇ、え……っと」
動揺していて口が回らないようだ。
「……ぁ? 何だよ」
めんどくさくなって目の前にいる奴を睨みつけるとますます動揺し、口調がしどろもどろになる始末。
「……何だよ、早く言えよ!」
その一言でビクビクしながらもある名前を口にする。
「……ぁ。……ぇ。も、ぉ。……も、りぃ……、モリタニ、さ、ん、が……」
その名前を聞いた瞬間、大きな音が響く。
勢いよく立ち上がった為、椅子がバタンと倒れる。
その音で俺も女も驚いて一瞬、時間が止まった。
ハッとなり、その先を聞きだそうとした途端、
「コラァー!何をしている!!」
タイミングよく、4限目のうっとおしい教師が入ってきやがった。
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