人魚姫の王子

おりのめぐむ

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掛け違いの駆け引き

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「……で、何で脅していたんだ?」

 目の前の担任が俺を問いただす。

「脅してねぇって言ってんだろ」

 あれからすぐ生徒指導室に連れて行かれた。
 何もしてねえ。そう言い張ってるのに、恐喝だと。

「桐嶋先生の話じゃ、お前が橋本を脅してた現場を見たと言ってるぞ。クラスの生徒もお前が橋本に何か言ってたと……」

「だから、違うって言ってんだろ。俺は何もしてねえ!」

「だがなぁ……」

「だったらアイツに聞いてみろよ、俺は何もしてねえから」

「う~ん、だがなぁ……、橋本は何も言わないんだよ……。まあ、ここは反省したということで反省文をな……」

「何でやってもねえことを反省しなきゃいけねぇんだよ」

「……そうか、分かった。もういいぞ」

 担任の半ば諦め顔の言葉に疑惑が晴れてないことは分かった。
 ……いつもこうだ。結局、疑われたままの状態。
 違うと主張しても信じてくれるヤツなんて、いやしない。 


 教室に戻ると既に昼休みの真っ只中だった。
 いつもならとっくの昔に飯を食い終えている頃なのだが、今日はそうもいかなかった。
 室内はバラバラと何人か居たが、もう飯を終えてくつろいでいた。
 ちっ、俺はまだ飯すら食ってねぇのに……。
 悪態をつきたいところだが、あの女、橋本ってヤツに聞きたいことがあるし。
 キョロキョロと見回すと自分の席でまだ弁当を食ってる橋本が居た。
 一番前の窓側の席で静かにひっそりと1人で。
 俺はつかつかと近寄り、くるりと真正面に回った。

「おい!」

 突然声を掛けられて驚いたのか、ビクッとした瞬間、箸を落とす音が響く。
 一瞬にして教室内の視線が集中する。
 傍から見るとまた脅しているかのように。
 が、そんなこと構っちゃいられねぇ。
 ただコイツの言い掛けた知夏のことだけが気になるだけだ。
 橋本は慌てて床に落ちた箸を拾う。
 そしてちらっと俺の方を見、そそくさと教室を出て行った。
 慌てて橋本の跡を追おうとしたが、女子トイレに入ったため断念した。
 仕方なしに飯を食うため俺は購買へと向かった。
 結局、橋本と接触が出来ぬまま、下校の時刻となった。
 最後のチャンスとばかりに待ち伏せたものの、俺が担任に呼び止められ、その隙に逃げるように姿をくらませていた。
 ちっ、明日聞き出すしかない……。


 翌日、寝坊してHRに遅刻し、1限目から出席した。
 橋本が発した知夏の名前が気になって眠れなかったためだ。
 教室に入り、アイツの席を見ると姿がない。
 誰も気にすることなく空席のまま授業は始まった。

―――もしかして、欠席か? 昨日の出来事で?

 午前中の授業が終わり、俺は購買に居た。
 聞き出そうと思っていた事も橋本が居なければ話にならない。
 俺自身何もしてないのだが、傍から見れば恐喝に見えた。
 そんな様子から橋本も俺にビクビクしたに違いない。
 昨日、昼休みに面と向かった事がさらに怖がらせたのか?
 それが欠席……という結果?
 俺ってそんなに怖いヤツなのか?
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