人魚姫の王子

おりのめぐむ

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不安定な感覚の狭間

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「お役目終了なのかな……ぁ?」

 知夏は食べ終えた弁当を片付けながらぼそっと呟く。
 俺は聞こえなかった振りをして答えなかった。
 すると突然知夏は立ち上がり、日の当たる屋上の真ん中へと走っていく。
 それからこっちに振り向きながら叫ぶ。

「ねぇ~、前から聞きたかったんだけど、お弁当、美味しかった?」

 澄み切った青空に通る声が響いたが俺は黙ってまま。

「それとも、口に合わなかった? ……ねぇ、聞いてる?」

 一向に返事がない状態に業を煮やしたのか俺の元へと戻ってくる。

「……黙ってるってことは不味かったってこと?」

 少し神妙そうに声のトーンを下げ、不安げに問いかける。

「いや……」

 答えながら立ち上がる。

「そう、じゃあ、美味しかったってことね?」

 満足げにニコリと笑う知夏を見て急に感じた、こと。
 お礼と告げた行動が終わりを迎えようしている予感。
 繋がっていたものが途切れるような不安感。
 さらには締め付けられる様な寂しさが一気に襲ってくる。
 まるで大事なものを無くすような……?

「どうしたの?」

 明るく問いかける知夏を見ていられなくなり、目を反らしながら呟く。

「お前のおにぎり……、懐かしい味がする……」

「えっ?」

 いつも作ってきた弁当に必ずある俵型のおにぎり。
 一口で食えてしまう海苔の巻いたおにぎり。

「おにぎりってさあ、お母さんって感じがしない?」

 俺の横に移動した知夏はそっと囁いた。
 その言葉でふとした記憶が蘇る。
 死んだ母親がよくおにぎりを作ってくれてたことを。
 幼稚園の弁当で三角の小さなおにぎりを……。
 が、それ以外にもまだ何か、あったような気がする。
 何か他にも思い出せそうなことが……。
 頭の中にもやがかかっていて分からない。

「あ~~!! やばいっ。とっくに1時過ぎてちゃってる!」

 知夏が時計を見ながら叫ぶ。

「2時から生徒会の反省会なの。……まあ、これでやっとお役目ゴメンの終了なんだけどね」

 周辺を何事もなかったかのように片付ける知夏。

「一応、生徒会は任期満了。だけど部活はまだ引退できないんだよね~」

 屋上の入り口に戻り、扉を閉め、エヘヘと笑いながら鍵を閉めた。

 ……とうとうこの時がきてしまった。
 俺は明るく振舞う知夏の声を背に階段を降り始めていた。
 一段一段降りる度、気持ちが沈んでいくのを感じる。
 そして頭の中で問いかける声が響く。

 ……このまま知夏と離れてしまうのか、と。
 ……離れてしまっていいのか、と。
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