人魚姫の王子

おりのめぐむ

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脱がされた着ぐるみ

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 今の俺が偽りだって―――?

 知夏の言葉が突き刺さっていた。
 頭の中は混乱したまま、家に戻る。
 部屋に入ると突然の帰宅に驚いた様子で父親が居た。

「オイ、人の部屋で何やってるんだ?」

 いつもはほとんど顔を合わすことのないヤツ。
 そんな父親が俺の留守の間に部屋に入り込んでいたのだ。

「いや、何でもない」

 慌てた様子で部屋を出ようとしたから胸倉を掴む。

「用がねえのに人の部屋に入る訳ねえだろ?」

 するとヤツは俺の手をパッと払い、

「何でもないって言ってるんだ!」

 顔を真っ赤にしながら声を張り上げた。
 俺はちらりと自分の部屋を見回し、あからさまに荒らされてるのに気づく。

「人の部屋を荒らしといて何でもないって訳、ねぇだろ!!」

 ヤツはため息をつきながら呆れた口調。

「……私の大切な時計が無くなったからだ。お前、ここ最近出歩いてばかりだろ?」

「時計なんて知るかよ。それに俺が出歩くことと時計は関係ないだろうが」

「どこに出歩いてるか知らないが、よく遊ぶ金があるものだな」

 それでピンときた。ヤツは俺が時計を盗んだと思ってると。

「金を使わなくたって行く場所があるんだよ」

 そう言い返すとハンと鼻で笑ったままヤツは部屋から出て行った。

―――信じてないに違いない。

 確かに昔は遊ぶ金欲しさに一度財布から金を抜き取ったことがあるが通帳に毎月決まった金額が振り込まれるようになってからは手を出してない。
 が、一度こういう経験があると全て俺に嫌疑がかかる。
 怪しげな事が起こると矛先が俺にきて問題を解消される。

 いつもこんな状態だ。
 最初は否定をしていたが信じてもらえないこととが続くと面倒になる。
 だから”もういいや、それで”と諦めるしかない。

 俺は荒らされた部屋のベッドの上に寝転がった。

 ”本当の自分を偽っている”

 ふと知夏の言葉が再び浮かび上がる。
 急に可笑しくなって苦笑。
 偽っているというより偽らされてる自分がいることに気づいたから。
 否定すれば反発と言われ、肯定すると納得される。
 何を言っても信じてもらえず、問題児扱いされてる俺。
 母親が死んでからその調子でやってきた。
 周りが決めつけた形が本当の俺と思っていた。
 だから知夏の言う”本当の俺”が分からなくなっていたのも確かだ。

 ……何が正義感だ、何が勇気だ!
 そう思っていても心の片隅に消し去れない核心がある。
 もしかしたらどこかで待っていたのかもしれない。
 自分でさえ見失っていた俺に気づいてくれる、誰かを。
 そしてそれが、知夏、なのかもしれないと。
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