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心からの開放
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あんな別れ方をしたのに重い足取りで例の場所へと向かった翌日。
上階に近づくにつれ、どんな顔で知夏と会ったらいいのかと速度が鈍る。
憂鬱な気持ちで屋上に到着。
そこには手すりにもたれながら地上を見つめてる知夏がいた。
「来てくれるって信じてた」
知夏はすぐに俺に気づき、いつものようににっこり笑って出迎えた。
その瞬間、俺の中ではっきりと確信した。
―――見失った俺を待っているのは知夏だと。
不思議とその日、俺は知夏に今までのことを打ち明けていた。
知夏も俺と離れてからの経緯を教えてくれた。
お互いがお互い、大人の都合で過ごしてきたんだと理解し合えた。
もともと知夏の父親は有名なピアニストで母親と姉2人の5人家族で幸せに暮らしていた。
ところが父親が大怪我をしてピアニストを失脚。
知夏は父親の演奏するピアノが大好きで父親の作った曲を歌うのが日課だった。
もちろんピアノが弾けなくなってもその思いは変わらなかった。
生活のため、今度は母親が働くようになる。
働き手のいなくなった家庭では邪魔扱いとなった父親。
反対する知夏をよそに離婚へと踏み切ったらしい。
それから女4人でやってきたという。
俺は俺で母親が死んでからというもの、父親の秘書をやっていた女が次の母親面してやってきた。
若い女だったから自分の思い通りにならないと俺を叱った。
金遣いも荒かったが男癖も悪く、俺が小5の時、別れた。
それから中2の頃、今の女がやってきた。
世間体と仕事のことしか考えてない女。
都合が悪いことが起こると全て俺に罪をなすりつける女。
そして元々母親が生きていた頃から俺に関心のない父親。
……壊れた家庭はずっと続いていた。
周りから決めつけられた俺の存在も。
そうすることで誰とも関わらずに裏切られることはない。
「俺はふて腐れた人生を送ってたけど、知夏は変わらなかったんだな」
横にいる知夏に全てを話したせいかすっきりしていた。
信頼できるものを見つけて気づかないうちに素直な自身に気づく。
「ううん。私は自分を押し殺してたのかもしれない。母も姉も末っ子の私を可愛がってくれるけど、父のことをいうと血相を変えるの。だから会いたいなんて絶対に言えなかった。ただ、迷惑をかけちゃいけないって思ってた」
「今も会いたいのか?」
「……うん」
「だったらコンクールに出ろよ。そして堂々と親父に会えばいい」
心からそう思った。
独唱の部の特別審査員として元ピアニストの父親が来るらしい。
家族思いの知夏はそのことを知られてしまうと心配させると気にしていた。
コンクール出場を躊躇したのはそのためだ。
「離れてから何年経ってるんだ? 今更心配する歳でもないだろう?」
知夏はしばし考えて目を輝かせ始めた。
「そうだよね? 私たちもうすぐ18歳だし、自分で決断してもいい年頃だよね?」
納得したかのように知夏は申し込むと決意。
「ヒロくん。やっぱりヒロくんは私の王子様だよ」
知夏は照れながらへへへと笑う。
「……俺、王子じゃないけど、ずっと知夏のそばに居たい」
「えっ?」
「これからもこの先もずっとずっと離れずに知夏のそばに居たいんだ」
口から信じられないような言葉がポンポンと飛び出した。
今言っとかないといけない気がして思っていた気持ちが溢れ出す。
「ほ、本当に?」
知夏は少し驚きながら真剣に耳を傾ける。
「……多分、あの頃から離れたくなかったのかもしれない。そして今も俺のことを信じてくれるたった一人の知夏と離れたくないんだ」
「ヒロくん……」
「こんな俺だけど、知夏は……」
そう言い掛けた時、突然知夏は俺の頬にキスをした。
「私もあの頃から変わってないよ、ずっとずっとヒロくんを探していたんだ」
―――頬の感触でふと蘇った記憶。
引越前日にやっとのことで海に到着したあの日。
『ありがとう、大好きだよ』
そう言って同じように俺の頬にキスした出来事。
「知夏……」
「これからもこの先もずっとずっとよろしくね」
優しく微笑む知夏に俺はそっとキスをした。
上階に近づくにつれ、どんな顔で知夏と会ったらいいのかと速度が鈍る。
憂鬱な気持ちで屋上に到着。
そこには手すりにもたれながら地上を見つめてる知夏がいた。
「来てくれるって信じてた」
知夏はすぐに俺に気づき、いつものようににっこり笑って出迎えた。
その瞬間、俺の中ではっきりと確信した。
―――見失った俺を待っているのは知夏だと。
不思議とその日、俺は知夏に今までのことを打ち明けていた。
知夏も俺と離れてからの経緯を教えてくれた。
お互いがお互い、大人の都合で過ごしてきたんだと理解し合えた。
もともと知夏の父親は有名なピアニストで母親と姉2人の5人家族で幸せに暮らしていた。
ところが父親が大怪我をしてピアニストを失脚。
知夏は父親の演奏するピアノが大好きで父親の作った曲を歌うのが日課だった。
もちろんピアノが弾けなくなってもその思いは変わらなかった。
生活のため、今度は母親が働くようになる。
働き手のいなくなった家庭では邪魔扱いとなった父親。
反対する知夏をよそに離婚へと踏み切ったらしい。
それから女4人でやってきたという。
俺は俺で母親が死んでからというもの、父親の秘書をやっていた女が次の母親面してやってきた。
若い女だったから自分の思い通りにならないと俺を叱った。
金遣いも荒かったが男癖も悪く、俺が小5の時、別れた。
それから中2の頃、今の女がやってきた。
世間体と仕事のことしか考えてない女。
都合が悪いことが起こると全て俺に罪をなすりつける女。
そして元々母親が生きていた頃から俺に関心のない父親。
……壊れた家庭はずっと続いていた。
周りから決めつけられた俺の存在も。
そうすることで誰とも関わらずに裏切られることはない。
「俺はふて腐れた人生を送ってたけど、知夏は変わらなかったんだな」
横にいる知夏に全てを話したせいかすっきりしていた。
信頼できるものを見つけて気づかないうちに素直な自身に気づく。
「ううん。私は自分を押し殺してたのかもしれない。母も姉も末っ子の私を可愛がってくれるけど、父のことをいうと血相を変えるの。だから会いたいなんて絶対に言えなかった。ただ、迷惑をかけちゃいけないって思ってた」
「今も会いたいのか?」
「……うん」
「だったらコンクールに出ろよ。そして堂々と親父に会えばいい」
心からそう思った。
独唱の部の特別審査員として元ピアニストの父親が来るらしい。
家族思いの知夏はそのことを知られてしまうと心配させると気にしていた。
コンクール出場を躊躇したのはそのためだ。
「離れてから何年経ってるんだ? 今更心配する歳でもないだろう?」
知夏はしばし考えて目を輝かせ始めた。
「そうだよね? 私たちもうすぐ18歳だし、自分で決断してもいい年頃だよね?」
納得したかのように知夏は申し込むと決意。
「ヒロくん。やっぱりヒロくんは私の王子様だよ」
知夏は照れながらへへへと笑う。
「……俺、王子じゃないけど、ずっと知夏のそばに居たい」
「えっ?」
「これからもこの先もずっとずっと離れずに知夏のそばに居たいんだ」
口から信じられないような言葉がポンポンと飛び出した。
今言っとかないといけない気がして思っていた気持ちが溢れ出す。
「ほ、本当に?」
知夏は少し驚きながら真剣に耳を傾ける。
「……多分、あの頃から離れたくなかったのかもしれない。そして今も俺のことを信じてくれるたった一人の知夏と離れたくないんだ」
「ヒロくん……」
「こんな俺だけど、知夏は……」
そう言い掛けた時、突然知夏は俺の頬にキスをした。
「私もあの頃から変わってないよ、ずっとずっとヒロくんを探していたんだ」
―――頬の感触でふと蘇った記憶。
引越前日にやっとのことで海に到着したあの日。
『ありがとう、大好きだよ』
そう言って同じように俺の頬にキスした出来事。
「知夏……」
「これからもこの先もずっとずっとよろしくね」
優しく微笑む知夏に俺はそっとキスをした。
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