人魚姫の王子

おりのめぐむ

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安らぎの日々

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 知夏と付き合い始めてから3週間が経つ。
 普段から忙しい知夏とは今までと同様、週末のランチタイムを二人で過ごすのみ。
 知夏は平日には門限があり、携帯も持っていない。
 それ以外では会えず、連絡も取れない状態。

 なのにそれだけでも満足だった。
 何故だろう、心の底から信頼できる存在を見つけたせいか?
 週末が待ち遠しいとかそういった焦りだとか苛立ちとかも起こらず、その日になれば必ず会えるといった安堵感があった。

 それに実際に会っても前より会話が少なくなっていた。
 コンクールが近いからと歌を聴いている時間が増える一方。
 居場所を見失っていた俺にとってに存在するだけで良かった。
 ただそばに居るという安心感で満たされていた。
 知夏という信頼できる場所さえ在りさえすれば……。
 不思議だがその心の安定からか何もかも集中できた。

 本来、今頃は進路について決めなければならない時期。
 落ちこぼれクラスのほとんどが就職といった進路になるがそれさえも頭に無かった。
 ただただ周りに決めつけられた自分が流されていただけ。
 何にも無い空虚感の中での日々。
 が、そのことについても真剣に考えるようになった。
 知夏の方は家族の強い勧めもあり、名門の大学を目指していた。
 同じ大学は無理だが、兄弟校として提携している大学に頑張ってみてもいいかなと。
 ほぼ無理だと思える目標に知夏は応援すると力を貸してくれた。
 参考資料やら参考書やら課題やらと山のように俺に渡し、

「これ、週末までに全部読んで解いておくようにね」

 嫌味なくらいの笑顔で。
 何だよこの量……と驚いてみたが春休みで慣れてたこともあったし、今まで無くしていた時間を取り戻すかのように集中できた。
 そのおかげか中学から高校の遅れを日々取り戻しつつある。
 それでも解らないところが出てくると参考ノートと称するものが登場。

「靴箱の中に入れておくからどんどん利用してね」

 ほぼ毎日ノートを利用するはめになり、まるで幼稚園の頃の連絡ノートみたいだ。
 それに会えない時間、話せない時間がかえって結びつきを強める気がした。

 そんな日々の最中、久々にアイツと顔を合わせた。
 前までだったら顔を見るだけでも嫌になる3度目の母親。
 相変わらず濃い化粧で俺の顔を見るや否やプイッと無視し、さっさと自分の部屋へと入って行った。
 別に苛立ちも無く、眼中に無かったがその日は違った。
 普段なら自分の部屋で音楽をガンガンに鳴らし、階下にいる人間なんて知ったこっちゃ無いと過ごしてきたが、ここ最近は知夏からの課題もあることから静かに勉強に集中していた。
 すると下からガタガタと大きな音が響いてくる。

ーーーうるせ~な、何やってんだよアイツは?
 気になったが関わるのが面倒なので無視。
 それから何日か置きにそういった物音が聞こえていたがあえて無視していた。
 そんな風に日々が過ぎ、5月が終わりを迎えようとしていた。
 コンクール目前の知夏は緊張しているのかと思いきや、意外にリラックスした日々でカウントダウンを過ごす。

「これもヒロくんのおかげ。伸び伸びと歌えそう」

「俺も知夏のおかげで学力レベルが上がってるし」

「じゃ、お互い様ってことかな?」

 2人で笑いあった後、見つめ合い、何度目かのキスをした。
 こんな幸せがずっとずっと続くだろうと俺たちは思っていた。
 何人たりと奪ってはいけない、この2人の時間を。
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