人魚姫の王子

おりのめぐむ

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精一杯の反抗

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 重い気持ちを抱えた翌日。
 今日も朝から雨が降っていた。
 もやもやする気持ちを抱えながら学校に。
 何かが違う。そう感じながら靴箱を開けるとノートが無い。
 ノートが無くても勉強しないって訳じゃないから構わないが何となく知夏の気配がしない。
 何故か学校にいない気がし、知夏の靴箱を覗くことにした。
 登校時間のギリギリで人が少なくなるのを見計らってAクラスの靴箱へ。
 知夏の名前を見つけ、そっと開けてみると……靴が無い。
 学校へ来てないのか? 休みなのか? といろんな考えが駆け巡る。

「橘川! 何してるんだ!!」

 荒々しげな声の先には担任といつぞや恐喝と公言した桐嶋が居た。

「何もしてねぇよ」

 俺は靴箱を閉めながら大声を出す。

「嘘つけ! 本当はこの件だってお前が関わっているんじゃ……」

 鋭い視線で睨みつけながら何かを言いかける桐嶋に担任が、

「SHRが始まる、急げ!」

 声をかき消すように張り上げる。
 言われるまま教室へと走っていた。
 息も荒げに席に着くとますます不安が募る一方。
 知夏に何かが起こってる?! そう思わずにはいられなかった。
 雨が降り続く中、授業が始まったが今日一日は嫌な感じがした。
 俺が何か隠してるんじゃないかと疑いげな桐嶋や生活指導の野郎が変に絡んでくるし、担任も何か言いたげな様子で俺を見ていた。
 不快な気持ちと不安な気持ちを抱えたままようやく放課後。
 激しく降り続く雨だったがさっさと学校から遠のく。
 何だってんだよ、あいつら! と嫌悪感を払い去りたかった。
 見慣れた家の玄関に入ろうと門を開けてる途中、

「……ヒロくん」

 どこからかか細い声が聞こえた。
 声の方へ振り向くとそこには知夏の姿。

「!!」

 傘をさした様子も無く、制服姿の知夏は全身ずぶ濡れ状態だった。

「ヒロくんの家って変わらずここにあるんだねぇ……」

 少しぼんやりとした感じで嬉しそうに知夏は呟く。
 俺は慌てて知夏の腕を掴み、玄関へと促した。

「ばか、なんでこんなにびしょ濡れなんだよ! 傘はどうしたんだ!!」

「えへ。どっかにいっちゃったみたい」

 ようやく雨をしのいだと思われる知夏の姿は雨の滴で足元が濡れていた。
 どれだけあの中にいたのか分からないが、随分と冷え切ってる。

「ちょっと待ってろ!」

 俺は靴を脱いで洗面所へと直行し、風呂のお湯をひねったあとバスタオルを掴んだ。

「とりあえず上がれ」

 バスタオルを渡し、そう言うと、

「廊下が濡れちゃうから……」

 変に気にする知夏に俺は廊下に新聞紙を敷き詰めた。

「そこ、風呂場だから。勝手にいろいろ使っていいからな。濡れた服は乾燥機で乾かせよ」

 ほぼ強制的に押し込むと自分の部屋へと向かった。
 そこで中学時代の体操服を見つけ出し、洗面所に戻る。
 俺はその場に知夏のいないことを確認し、風呂場にいる知夏に声をかけ、その場を離れた。
 台所で牛乳を温めていると、体操服姿の知夏が現れた。
 半乾き髪に少し大きめの体操服に身を包み、バスタオルを肩にかけていた。
 2人でダイニングテーブルに付き、ようやくホッと一息ってとこだ。
 風呂上りに温かい飲み物も何だが、カップに入れて知夏に渡す。
 知夏はこくっと一口含むと美味しいと呟く。

「……それでお前、何してたんだ?」

 向かい側に座る知夏をジッと見つめ、真剣に問う。
 知夏はカップをテーブルに置くとぼんやりとした様子で話し始めた。

「……昨日ね、何となく海が見たいなぁって思って。そしてあの頃みたいに海まで歩いたの。だけど雨が降ってたからあの日の海が見えなくて、雨が止むまで待ってたの。でも待っても待っても雨は止まないし、気がついたら朝になってた。それでもずっと降ってたし、ああ、もしかしてヒロくんと来ないとダメなのかなって。そしたらヒロくんの家へ歩いてた。変わらずにこの場所にあるのが嬉しかったな」

 虚ろげな表情で視線を斜めに落とし、弱々しく語る。

「昨日、何事も無かったかのように学校に行くのが何だか嫌になって。海に行けば父に会えるかも、なんて思ったりもして……。そんな場所にいるはずも無いのに、バカだよね? 私……」

 父親に会えなかったのがこんなにも知夏を落ち込ませているとは。
 何をする訳でもなくただ会うだけの行動を制限する家族って?
 俺は哀れな知夏をどうにかしてやりたいと思った。

「知夏、俺が必ず親父に会わせてやるから」

 そう言うのが精一杯だった。
 それなのに知夏は嬉しそうに、

「私の王子様は願いを叶えてくれるから……」

 にこっと笑ったまま、机にうつ伏せてしまった。

「知夏?」

 問いかけに反応しない知夏に慌てて近づくと驚く。
 玄関口では冷え切った身体をしていた知夏が今度は熱過ぎる。
 額に触れるとものすごく熱かった。
 俺は知夏を抱えると自分の部屋へと運んだ。
 とりあえずベッドに寝かせると熱を下げるため、氷枕を用意。
 小さい頃、俺が熱を出した時に母親がしてくれたことを思い出しながら。
 濡れタオルを何度も何度も額に当て、ただ熱が下がるように願った。
 昨日から家に帰らず外で過ごし、雨に打たれていた知夏。
 そんな行動に出た知夏の気持ちが痛いほど伝わった。
 必ず俺が親父に会わせてやるからと目の前で苦しむ知夏に誓った。
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