25 / 55
ひと時の休息
しおりを挟む
どれくらい時間が経ったのだろう?
ふと気づくと少し眠っていたようだ。
目の前にはベッドで横になっている知夏の姿。
額に手を当てると当初の熱さより熱が下がっていることに気づく。
一息つくとぬるくなった氷枕と洗面器に張った水を替えることにした。
多少熱が下がったとはいえ、まだまだ油断は出来ない。
徹夜覚悟で知夏の様子を見つつ、眠らないようにと参考書を開いた。
荒々しかった知夏の呼吸が少しずつ落ち着いているのを確認しながらノートに文字を走らせていく。
頃合いを見計らってタオルを替え、気分転換を図りつつ問題を解く。
が、集中力がそんなに続くものでもなく、ただ知夏を見つめる時間の方が多かった。
ほんの少し顔を紅潮させ、落ち着いた様子で目を閉じた知夏の姿を。
「……ヒロくん?」
突然そう呼ばれて俺はハッとなった。
あれだけ徹夜をとがんばっていたのにまた眠ってしまったようだ。
知夏はベッドから身を起こして少しぼんやりとした様子。
時計を見ると朝の5時を回っていた。外は相変わらず重い雲で薄暗かった。
「もう大丈夫なのか?」
とっさに知夏の額に手を当てる。熱はすっかり下がっていた。
知夏は相変わらずぼんやりしていて状況を分かっていないようだった。
「一晩中、雨の中にいるから熱出すんだよ! もう少し寝てろ!」
少し憤慨気味にそう言うと俺は部屋から出て行く。
何か食うものはないかと台所で物色。
レトルトご飯があったのでそれでおかゆを作ることにした。
こんなもんかな? と適当に作った卵入りのおかゆ。
自分の部屋に運ぶと知夏は目を開けたまま横たわっていた。
部屋に入って来た俺に気づくと申し訳無さそうな顔で謝る。
「ごめんね。ヒロくん」
「バカ! 心配させやがって。とりあえず起きてこれでも食っとけ!」
小鍋に作ったおかゆをお椀によそって知夏に渡す。
「誰かさんと同じく、味の保障はしないからな?」
俺は嬉しそうな顔をした知夏と目を合わせずに言った。
知夏は病明けとは思えないほどに鍋に作ったおかゆをペロリと平らげた。
「だってお腹空いてたし……、美味しかったし……」
照れながら言い訳する知夏を見てやっと元気になったなと安心した。
「それじゃあ、学校に行くか?」
時計を見ると登校時間を迎えていた。今から出れば始業に間に合う。
俺との気持ちと裏腹に知夏は首を振る。
元気になったとはいえ、まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。
「よし、じゃあ今日は俺も休もう!」
高3になってから俺にとって初めてのサボり。今までに比べたらどうってコトない。
ただ優等生としてそして特待生でもある知夏のサボりは気になった。
丸2日も学校に行ってないし、家にも帰っていない状況だ。
不良と呼ばれた俺がこんなことを心配するなんて笑えるのだが。
このままずるずるとしたままじゃヤバイ。だから今日1日、とことん付き合おうと決めた。
いつもの知夏らしい生活に戻るように説得し、堂々と父親に会わせてやるためにはそうするしかない。
……だがこのことがのちに知夏と俺とを引き離すことになろうとは思いもしなかった。
ひと時の知夏との時間は会話と勉強とであっという間に過ぎていった。
その日の夕方、重い足取りの知夏を家まで送った。
ほぼ3日間も姿を隠していたことになる状態での帰省は辛いようだった。
俺は家族に何か言ってやろうとアパートのチャイムを鳴らした。
すると慌てた様子でドアが開き、乱れがちの髪の年老いた女が出てきた。
「知夏!!!」
目は血走って疲れ切ったその女が声を荒げた。
近くにいた俺に気づくとキッと睨み、何も言わず知夏の腕を掴み、中へ引き入れた。
ガチャリとしっかりとカギのかかる音が聞こえ、何かを言われてる声だけが響いてきた。
嫌な感じを受けながらここにいても仕方がないと思い、その場を後にした。
ふと気づくと少し眠っていたようだ。
目の前にはベッドで横になっている知夏の姿。
額に手を当てると当初の熱さより熱が下がっていることに気づく。
一息つくとぬるくなった氷枕と洗面器に張った水を替えることにした。
多少熱が下がったとはいえ、まだまだ油断は出来ない。
徹夜覚悟で知夏の様子を見つつ、眠らないようにと参考書を開いた。
荒々しかった知夏の呼吸が少しずつ落ち着いているのを確認しながらノートに文字を走らせていく。
頃合いを見計らってタオルを替え、気分転換を図りつつ問題を解く。
が、集中力がそんなに続くものでもなく、ただ知夏を見つめる時間の方が多かった。
ほんの少し顔を紅潮させ、落ち着いた様子で目を閉じた知夏の姿を。
「……ヒロくん?」
突然そう呼ばれて俺はハッとなった。
あれだけ徹夜をとがんばっていたのにまた眠ってしまったようだ。
知夏はベッドから身を起こして少しぼんやりとした様子。
時計を見ると朝の5時を回っていた。外は相変わらず重い雲で薄暗かった。
「もう大丈夫なのか?」
とっさに知夏の額に手を当てる。熱はすっかり下がっていた。
知夏は相変わらずぼんやりしていて状況を分かっていないようだった。
「一晩中、雨の中にいるから熱出すんだよ! もう少し寝てろ!」
少し憤慨気味にそう言うと俺は部屋から出て行く。
何か食うものはないかと台所で物色。
レトルトご飯があったのでそれでおかゆを作ることにした。
こんなもんかな? と適当に作った卵入りのおかゆ。
自分の部屋に運ぶと知夏は目を開けたまま横たわっていた。
部屋に入って来た俺に気づくと申し訳無さそうな顔で謝る。
「ごめんね。ヒロくん」
「バカ! 心配させやがって。とりあえず起きてこれでも食っとけ!」
小鍋に作ったおかゆをお椀によそって知夏に渡す。
「誰かさんと同じく、味の保障はしないからな?」
俺は嬉しそうな顔をした知夏と目を合わせずに言った。
知夏は病明けとは思えないほどに鍋に作ったおかゆをペロリと平らげた。
「だってお腹空いてたし……、美味しかったし……」
照れながら言い訳する知夏を見てやっと元気になったなと安心した。
「それじゃあ、学校に行くか?」
時計を見ると登校時間を迎えていた。今から出れば始業に間に合う。
俺との気持ちと裏腹に知夏は首を振る。
元気になったとはいえ、まだ気持ちの整理がついていないのかもしれない。
「よし、じゃあ今日は俺も休もう!」
高3になってから俺にとって初めてのサボり。今までに比べたらどうってコトない。
ただ優等生としてそして特待生でもある知夏のサボりは気になった。
丸2日も学校に行ってないし、家にも帰っていない状況だ。
不良と呼ばれた俺がこんなことを心配するなんて笑えるのだが。
このままずるずるとしたままじゃヤバイ。だから今日1日、とことん付き合おうと決めた。
いつもの知夏らしい生活に戻るように説得し、堂々と父親に会わせてやるためにはそうするしかない。
……だがこのことがのちに知夏と俺とを引き離すことになろうとは思いもしなかった。
ひと時の知夏との時間は会話と勉強とであっという間に過ぎていった。
その日の夕方、重い足取りの知夏を家まで送った。
ほぼ3日間も姿を隠していたことになる状態での帰省は辛いようだった。
俺は家族に何か言ってやろうとアパートのチャイムを鳴らした。
すると慌てた様子でドアが開き、乱れがちの髪の年老いた女が出てきた。
「知夏!!!」
目は血走って疲れ切ったその女が声を荒げた。
近くにいた俺に気づくとキッと睨み、何も言わず知夏の腕を掴み、中へ引き入れた。
ガチャリとしっかりとカギのかかる音が聞こえ、何かを言われてる声だけが響いてきた。
嫌な感じを受けながらここにいても仕方がないと思い、その場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる