人魚姫の王子

おりのめぐむ

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月の光の導き

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 暑さが日増しに強くなって太陽がギラギラしていたかと思っていた夏休み。
 その日差しが一変して薄曇り始めていた7月最後の週末が近づく。
 明後日には音楽祭が行なわれるという、木曜日の夕方。
 突然俺の父親が血相を変えて部屋へ入って来た。

「お前というヤツは……!」

 胸倉を掴まれ、イキナリ頬を殴られた。

「何すんだ!」

「また停学になったそうじゃないか!いいかげんにしろ!」

 再度の停学から1週間は経っていた。今頃なんだよと少し呆れていた。

「今度は停学じゃ済まないと言われたんだ。もう私の手に負えないところまできているんだ!」

 怒りが収まらないともう一度胸倉を掴むと再度殴る。
 ヤツはいつも俺の悪行とされてきたことをもみ消すため金で解決していた。
 今回もどうせ金にモノを言わせるような行動で抑え付けようとしたんだろうが!!

「だったら学校辞めれば済む事なんだろう」

 ヤツを睨みつけながらずっと言えなかった事を口にした。
 今まで不思議に思えたこと。これだけ迷惑をかけている息子を退学にしない。
 どんなに際どい事になってもあらゆる投資をして存続させるヤツの態度が。

「ふざけるな! お前までこれ以上、迷惑をかけるな!」

 激しく閉められたドアを見つめながら口の中で血の味を感じた。
 思い切り殴りやがって! 俺のことが嫌いなら何故縛り付けるんだ?
 ほとんど顔を合わすことの無いヤツ。家にもほとんど居ないヤツ。
 用がある時は俺に激怒した時のみの現れるヤツ。
 血は繋がっているだろうが父親らしいとは言えないヤツ。
 物心付いたときから俺のことをうとんがって忌み嫌ってたヤツ。
 ヤツにとって俺って何だ? いい憂さ晴らしの道具なのか?
 高校に入ってから正直、学校なんてどうでもいいと思っていた。
 いつ辞めたってどこでどうしようと関係ないと。
 ただ居場所の無い俺はそこに縛り付けられるしかなかったのだ。
 だけど今は違う。俺は居場所を見つけた。知夏という居場所を。
 たとえ学校を辞めたとしても今度は自分を見失わない。
 知夏という存在が俺を変えたのだ。
 だから知夏さえ居れば何でも出来ると思っていた。


 激しくドアを叩く音で目が覚めた朝。
 玄関に出てみれば担任などの教師らが居た。

「橘川、悪いが上がらせてもらう」

 担任が低い声でそう言うと他の教師らが家へと侵入。

「何だよ、お前ら!」

 勝手に探索する奴等の行動に腹が立つ。
 2階の俺の部屋をメインにいろんな戸という戸を開け閉めした。

「居ないようですな」

「どこへやったんだ?」

 激しい口調で会話する奴等に俺は殴りかかる。

「勝手に人の家に上がり込みやがって!」

 素早く担任に抑え付けられたが怒りが収まらなかった。
 もがく俺を背に奴等は家を後にして担任だけが残った。

「森谷がまたいなくなったんだ」

「……何だと?」

 明日には音楽祭に向けて出発するだろうと思っていた知夏が?

「それでまた俺を疑いにきた訳か……」

「悪いが少しここに居させてもらう」

 担任は毅然とした態度で俺に言った。


 時刻は夕方を迎えていた。知夏は相変わらず見つからないらしい。
 俺の監視役の担任はその任務を終了させられたようで、

「今日はこれで帰るが明日また来るからな」

 随分と疲れた様子で帰っていく。
 知夏が居なくなったという情報を耳にした俺は気が気じゃなかった。
 いつものように担任のすぐそばで勉強していたが全く頭に入ってなかった。
 知夏にとって明日は大事な日になるはずだったのに何でまた?
 しばらく大人しい振りをして当日船に乗ってれば会えてたのに。
 それともまた知夏の身に何かあったのか?
 考えれば考えるほど頭は混乱していた。
 ふと時計を見ると夜の10時を差していた。
 気がついたらこんな時間かとカーテンを閉めようと何気に窓の外を見る。
 薄暗い雲の切れ間からちらりと月が垣間見れた。

ーーー月?!

 次の瞬間、外へ走り出していた。
 知夏はきっとあそこにいるに違いないと!
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