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嵐の前触れ
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「とりあえず、旅支度」
海から近いコンビニに立ち寄り、ATMで下ろせるだけの金を下ろして準備を整える。
それからファミレスで腹ごしらえをした後、駅へと向かう。
「港に行かないの?」
不思議がる知夏に俺は頷いた。
「あの島に行く便は他の経由から行った方がいい」
正攻法でのルートからだと待ち伏せされている可能性があるかもしれない。
「遠回りかもしれないが確実に船に乗るためだ」
遅い時刻で何とかぎりぎり深夜特急に乗ることができた。
目的の駅で降り、港までタクシーで向かった頃には夜中3時過ぎだった。
ここで朝一の船に乗り、2時間半の道のりで島へ到着できるはずだ。
出発までにはまだ時間がある。
まだ開いていないチケット売り場の前で待つことにした。
ふと見上げた空は月の見え隠れしていた雲が重圧になり、すっぽりと空を覆っていた。
夏の夜だというのに何故だか少し肌寒い。
二人でピッタリと寄り添いながらそこで休息をとった。
空からの雨の気配で何気に目が覚めた時は朝の6時を過ぎていた。
運送用の車の行きかう音が徐々に増えていき、朝が来たんだと感じる。
7時過ぎにチケット売り場が開き、購入後、待合室に移動した。
始便は8時半。あと少しで出発できる。ただただ待ち遠しい。
睡眠不足と疲労感が多少あったが、船に乗る時間が近づくことで気持ちは高ぶっていた。
「ねえ、台風が近づいてるみたい」
待合室にあるテレビ画面を指差しながら知夏は言った。
天気予報によると大型の台風のルートがこれから向かう地域とは微妙にずれていた。
一応、強風域の範囲に重なるものの、それは午後からの予想。
念のためにと、受付でこの便は出航すると確認した。
どうやら用心のため、次の便からは欠航となったので危ないところだった。
やがて乗船準備が始まり、俺らはすぐさま飛び乗った。
これから出発する船は旅客定員70人程度のフェリー。
島への物資を運搬することもあり、トラックも何台か乗船できるらしい。
そんなに客はいないだろうと思っていたのに時間が下がるにつれて増えていった。
この便を逃したら欠航になることや音楽祭目的の人がいるためかも知れない。
そのため、定刻になっても乗船に手間取っているためかなかなか出航しなかった。
他の欠航が決まると出航される便を最大限に生かすんだなと実感。
15分遅れで出航した時、本当にほっとした。
もう邪魔が入ることは無いと。
あとは目的地に辿り着くのみだと荒れた波で多少船が揺れても気にならなかった。
眠っている間に到着するだろうと俺らは自然と休息を取っていた。
すごい衝撃とともに身体が座席から浮き上がり目が覚めたのは出航して1時間は過ぎた頃だと思う。
すっかり眠り込んでいた俺らは何が起こったのか全く分からなかった。
ぼおっとした頭で船内を見回す。
俺たちが座っている約30の座席には数人しか座っておらず、不安そうな顔をした乗客が寄り添いながら隅の方に固まっていた。
「どうしたのかしら?」
同じように目を覚ました知夏が不思議そうに言った。
「さあ?」
さっぱり分からなかった。
ただ、船の揺れが乗った頃より激しくなってる気がする。
「私、聞いてくるね」
知夏は隅にいる年老いた女たちの方へ歩いていく。
予定ではあと30分ちょいで到着する頃なのに一体どうしたんだ?
「ヒロくん、大変みたい。トラブルが発生して船のエンジンが止まってるんだって。かれこれ30分は経ってるのに音沙汰なしで波が荒れてるからそのまま揺れを受けてるみたい」
「マジかよ。じゃあちょうど海のど真ん中ってところか?」
「多分」
俺は立ち上がり、ガラス窓に近づき、外を見る。
どうやら雨も激しく降ってるようで海の表面を見ることは出来なかった。
とはいえ、揺れの激しさで荒れ具合が肌で分かる。
椅子に座っている時は気がつかなかったがバランスを取らないと立っていられない。
「とにかく早く着くことを願う」
待つ時間というのはすごく長く感じる。
早く動き出して欲しいと思えば思うほど時間がすごく経っている気がした。
その間に船の揺れが右、左とだんだんと大きくなっている気もしてくる。
他の乗客らにもだんだんと不安の色が濃くなっていると感じた。
「まだ動かないのか?」
「もう1時間は経ってるわよ!」
「何やってるんだ!」
船内では不安がイライラに変わりつつあった。
気の短そうな男が船内を出ようとドアを開けるのに手こずっている時、アナウンスが流れた。
「大変申し訳ありません。復帰のめどがつきましたので出航いたします」
時刻は午前11時を回っていた。
ようやく動き出した船は前にも増して揺れが大きくなっていた。
ガラス窓に叩きつける雨に風が混ざり一層激しさが深まる。
何かに掴まってないと身体が持っていかれそうな勢いだ。
次第にガラス窓に叩きつけるものが雨ではなく波だというのに気づいた頃、船の揺れが尋常ではなかった。
きちんと閉まってなかったのか船外へと繋がるドアが突然バタンと開いた。
それが発端となり、船内に波しぶきが入り、海からの攻撃が始まった。
荒れ狂う波が容赦なく室内に入り込み、水しぶきがあがる。
あっという間に水浸しどころか、左右に揺れる船を煽っていて掴まっていないと海に飲まれる勢いだ。
風も大きな音を立て吹き荒れた様子で中の荷物がガラス窓にぶつかり破片が散乱していた。
突然そんな状態に陥り、船内はすっかりパニクっていた。
泣き叫び、悲鳴を上げ、うろたえる姿。
そんな中、激しい衝撃でとうとう開いたドアから海に投げ出される人が出てきた。
何が何だか分からない。とにかく海の上でこの船が大変なことになっているのは理解できた。
必死で知夏を抱きしめながら椅子に掴まり支える。
「ヒロくん、怖い」
知夏はすごく怯えていた。ただ強く抱きしめることしか出来なかった。
あと少し、もう少しすればこの状態から脱却できるはずだと自分自身に言い聞かせながら。
海から近いコンビニに立ち寄り、ATMで下ろせるだけの金を下ろして準備を整える。
それからファミレスで腹ごしらえをした後、駅へと向かう。
「港に行かないの?」
不思議がる知夏に俺は頷いた。
「あの島に行く便は他の経由から行った方がいい」
正攻法でのルートからだと待ち伏せされている可能性があるかもしれない。
「遠回りかもしれないが確実に船に乗るためだ」
遅い時刻で何とかぎりぎり深夜特急に乗ることができた。
目的の駅で降り、港までタクシーで向かった頃には夜中3時過ぎだった。
ここで朝一の船に乗り、2時間半の道のりで島へ到着できるはずだ。
出発までにはまだ時間がある。
まだ開いていないチケット売り場の前で待つことにした。
ふと見上げた空は月の見え隠れしていた雲が重圧になり、すっぽりと空を覆っていた。
夏の夜だというのに何故だか少し肌寒い。
二人でピッタリと寄り添いながらそこで休息をとった。
空からの雨の気配で何気に目が覚めた時は朝の6時を過ぎていた。
運送用の車の行きかう音が徐々に増えていき、朝が来たんだと感じる。
7時過ぎにチケット売り場が開き、購入後、待合室に移動した。
始便は8時半。あと少しで出発できる。ただただ待ち遠しい。
睡眠不足と疲労感が多少あったが、船に乗る時間が近づくことで気持ちは高ぶっていた。
「ねえ、台風が近づいてるみたい」
待合室にあるテレビ画面を指差しながら知夏は言った。
天気予報によると大型の台風のルートがこれから向かう地域とは微妙にずれていた。
一応、強風域の範囲に重なるものの、それは午後からの予想。
念のためにと、受付でこの便は出航すると確認した。
どうやら用心のため、次の便からは欠航となったので危ないところだった。
やがて乗船準備が始まり、俺らはすぐさま飛び乗った。
これから出発する船は旅客定員70人程度のフェリー。
島への物資を運搬することもあり、トラックも何台か乗船できるらしい。
そんなに客はいないだろうと思っていたのに時間が下がるにつれて増えていった。
この便を逃したら欠航になることや音楽祭目的の人がいるためかも知れない。
そのため、定刻になっても乗船に手間取っているためかなかなか出航しなかった。
他の欠航が決まると出航される便を最大限に生かすんだなと実感。
15分遅れで出航した時、本当にほっとした。
もう邪魔が入ることは無いと。
あとは目的地に辿り着くのみだと荒れた波で多少船が揺れても気にならなかった。
眠っている間に到着するだろうと俺らは自然と休息を取っていた。
すごい衝撃とともに身体が座席から浮き上がり目が覚めたのは出航して1時間は過ぎた頃だと思う。
すっかり眠り込んでいた俺らは何が起こったのか全く分からなかった。
ぼおっとした頭で船内を見回す。
俺たちが座っている約30の座席には数人しか座っておらず、不安そうな顔をした乗客が寄り添いながら隅の方に固まっていた。
「どうしたのかしら?」
同じように目を覚ました知夏が不思議そうに言った。
「さあ?」
さっぱり分からなかった。
ただ、船の揺れが乗った頃より激しくなってる気がする。
「私、聞いてくるね」
知夏は隅にいる年老いた女たちの方へ歩いていく。
予定ではあと30分ちょいで到着する頃なのに一体どうしたんだ?
「ヒロくん、大変みたい。トラブルが発生して船のエンジンが止まってるんだって。かれこれ30分は経ってるのに音沙汰なしで波が荒れてるからそのまま揺れを受けてるみたい」
「マジかよ。じゃあちょうど海のど真ん中ってところか?」
「多分」
俺は立ち上がり、ガラス窓に近づき、外を見る。
どうやら雨も激しく降ってるようで海の表面を見ることは出来なかった。
とはいえ、揺れの激しさで荒れ具合が肌で分かる。
椅子に座っている時は気がつかなかったがバランスを取らないと立っていられない。
「とにかく早く着くことを願う」
待つ時間というのはすごく長く感じる。
早く動き出して欲しいと思えば思うほど時間がすごく経っている気がした。
その間に船の揺れが右、左とだんだんと大きくなっている気もしてくる。
他の乗客らにもだんだんと不安の色が濃くなっていると感じた。
「まだ動かないのか?」
「もう1時間は経ってるわよ!」
「何やってるんだ!」
船内では不安がイライラに変わりつつあった。
気の短そうな男が船内を出ようとドアを開けるのに手こずっている時、アナウンスが流れた。
「大変申し訳ありません。復帰のめどがつきましたので出航いたします」
時刻は午前11時を回っていた。
ようやく動き出した船は前にも増して揺れが大きくなっていた。
ガラス窓に叩きつける雨に風が混ざり一層激しさが深まる。
何かに掴まってないと身体が持っていかれそうな勢いだ。
次第にガラス窓に叩きつけるものが雨ではなく波だというのに気づいた頃、船の揺れが尋常ではなかった。
きちんと閉まってなかったのか船外へと繋がるドアが突然バタンと開いた。
それが発端となり、船内に波しぶきが入り、海からの攻撃が始まった。
荒れ狂う波が容赦なく室内に入り込み、水しぶきがあがる。
あっという間に水浸しどころか、左右に揺れる船を煽っていて掴まっていないと海に飲まれる勢いだ。
風も大きな音を立て吹き荒れた様子で中の荷物がガラス窓にぶつかり破片が散乱していた。
突然そんな状態に陥り、船内はすっかりパニクっていた。
泣き叫び、悲鳴を上げ、うろたえる姿。
そんな中、激しい衝撃でとうとう開いたドアから海に投げ出される人が出てきた。
何が何だか分からない。とにかく海の上でこの船が大変なことになっているのは理解できた。
必死で知夏を抱きしめながら椅子に掴まり支える。
「ヒロくん、怖い」
知夏はすごく怯えていた。ただ強く抱きしめることしか出来なかった。
あと少し、もう少しすればこの状態から脱却できるはずだと自分自身に言い聞かせながら。
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