40 / 55
人魚姫、誕生
しおりを挟む
いろんなことがあったが、昨日とは違う俺。
もう、逃げない。
決意を新たに病院へ赴く。
昨日退院したばかりで変な感じだが、数回通った病室へと急ぐ。
プレートを確認しながら一呼吸して病室へとのり込む。
変わりばえの室内にあの時と同じように背を起こしたベッドにもたれた知夏が居た。
「知夏」
そう呼んだ途端、そばでガタンという音がし、誰かが立ち上がる。
くせのある長い髪の女がすっと知夏を隠すように立ちはだかっていた。
「何か御用ですか?」
何となく見覚えのある女は知夏の姉貴だろう。
「先日はすみませんでした。俺に今後は知夏の付き添いをさせてください」
冷ややかな視線を受けながら頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けした責任を取らせてください。お願いします」
「あなた、言ってる意味が分かってるのかしら?」
抑揚の無い声が明らかに拒否しているのが分かる。
「はい、知夏が完治して退院するまで俺に面倒を看させてください」
そう伝えると女はフッと冷笑した。
「完治……? 退院……?」
「精一杯やりますからお世話させてください!」
俺はただただ深々と頭を下げるしかなかった。
知夏の家族が俺のことを良い風に思ってないことは重々承知の上。
大事な森谷家の娘であり、末っ子である知夏。
俺と関わったがためにあの事故に遭い、こんな怪我をしてしまったと思ってるに違いない。
そのせいで知夏の母親が殺意に満ちたように俺に敵意を抱いてるのだろう。
そうだからこそ俺は全てを承知で知夏のそばに居ようと決めたのだ。
知夏の怪我が治るまで、そして完治してからも、と。
「あなた、知夏が完治して退院できると思ってるの?」
鋭く尖った声が頭上に響く。
「えっ?」
「知夏が完治できると思ってるの?」
予期もしていない返事だ。
「……はい」
威圧的な質問に俺は力の無い返事をするしかなかった。
女はクスッとバカにしたように笑い、瞬時にキッと冷たい目を向ける。
「冗談じゃないわよ。神様だって治せりゃしないわよ!!」
ヒステリックに女は叫ぶと知夏の方へ振り向く。
肩越しに知夏の姿が見える。俺たちのやり取りを泣きながら見ているようだ。
「こんな姿にしたのはあなたよ! ……知夏は、知夏はね!!」
俺はただただ興奮した女の言葉を聞くしかなかった。
「もう歩けないし、話せないのよ!!」
「!!!」
「あの事故のせいで!! 一生ね!!」
どこかで何かが割れるような感覚に襲われた。
「……嘘だ」
そしてあの日感じた知夏の違和感がやっと解った気がする。
「もう解ったでしょう? 私たちはあなたに関わりたくないの!」
女は再び俺の前に立ちはだかり、開いたままのドアの方へと追いやった。
「今後、顔も見たくないし、近づいてほしくないのよ!!」
何も言えず、呆然となる。
「もう二度と来ないで!」
ドンと突き飛ばされて俺は廊下に尻もちをついた。
目の前ではゆっくりとドアがスライドし閉ざされていく。
まるで今後は受け入れないかのように…。
―――知夏が一生歩けない、話せない?―――
頭は真っ白だ。
その事実が信じられない。
あの日の違和感はこれだったのだ。
知夏の母親から襲われた時、ベッドから落ちた知夏。
ただただ訴えるかのように流した涙。
止めようにも止める事もできず、伝えようにも伝えられなかったのだ。
廊下に座り込んだまま、病室のドアをぼおっと見つめてることしか出来なかった。
もう、逃げない。
決意を新たに病院へ赴く。
昨日退院したばかりで変な感じだが、数回通った病室へと急ぐ。
プレートを確認しながら一呼吸して病室へとのり込む。
変わりばえの室内にあの時と同じように背を起こしたベッドにもたれた知夏が居た。
「知夏」
そう呼んだ途端、そばでガタンという音がし、誰かが立ち上がる。
くせのある長い髪の女がすっと知夏を隠すように立ちはだかっていた。
「何か御用ですか?」
何となく見覚えのある女は知夏の姉貴だろう。
「先日はすみませんでした。俺に今後は知夏の付き添いをさせてください」
冷ややかな視線を受けながら頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けした責任を取らせてください。お願いします」
「あなた、言ってる意味が分かってるのかしら?」
抑揚の無い声が明らかに拒否しているのが分かる。
「はい、知夏が完治して退院するまで俺に面倒を看させてください」
そう伝えると女はフッと冷笑した。
「完治……? 退院……?」
「精一杯やりますからお世話させてください!」
俺はただただ深々と頭を下げるしかなかった。
知夏の家族が俺のことを良い風に思ってないことは重々承知の上。
大事な森谷家の娘であり、末っ子である知夏。
俺と関わったがためにあの事故に遭い、こんな怪我をしてしまったと思ってるに違いない。
そのせいで知夏の母親が殺意に満ちたように俺に敵意を抱いてるのだろう。
そうだからこそ俺は全てを承知で知夏のそばに居ようと決めたのだ。
知夏の怪我が治るまで、そして完治してからも、と。
「あなた、知夏が完治して退院できると思ってるの?」
鋭く尖った声が頭上に響く。
「えっ?」
「知夏が完治できると思ってるの?」
予期もしていない返事だ。
「……はい」
威圧的な質問に俺は力の無い返事をするしかなかった。
女はクスッとバカにしたように笑い、瞬時にキッと冷たい目を向ける。
「冗談じゃないわよ。神様だって治せりゃしないわよ!!」
ヒステリックに女は叫ぶと知夏の方へ振り向く。
肩越しに知夏の姿が見える。俺たちのやり取りを泣きながら見ているようだ。
「こんな姿にしたのはあなたよ! ……知夏は、知夏はね!!」
俺はただただ興奮した女の言葉を聞くしかなかった。
「もう歩けないし、話せないのよ!!」
「!!!」
「あの事故のせいで!! 一生ね!!」
どこかで何かが割れるような感覚に襲われた。
「……嘘だ」
そしてあの日感じた知夏の違和感がやっと解った気がする。
「もう解ったでしょう? 私たちはあなたに関わりたくないの!」
女は再び俺の前に立ちはだかり、開いたままのドアの方へと追いやった。
「今後、顔も見たくないし、近づいてほしくないのよ!!」
何も言えず、呆然となる。
「もう二度と来ないで!」
ドンと突き飛ばされて俺は廊下に尻もちをついた。
目の前ではゆっくりとドアがスライドし閉ざされていく。
まるで今後は受け入れないかのように…。
―――知夏が一生歩けない、話せない?―――
頭は真っ白だ。
その事実が信じられない。
あの日の違和感はこれだったのだ。
知夏の母親から襲われた時、ベッドから落ちた知夏。
ただただ訴えるかのように流した涙。
止めようにも止める事もできず、伝えようにも伝えられなかったのだ。
廊下に座り込んだまま、病室のドアをぼおっと見つめてることしか出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる