人魚姫の王子

おりのめぐむ

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魔女との対面

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 あの荒れ狂った家で一晩過ごしたが誰も帰ってくる様子はなかった。
 今の現状がどうなってるのか気になったが知夏の方が先決だ。
 どっちにしろ連絡を取りようにも家の電話は見事に無い。
 もちろんあの事故から携帯もどこかへ無くしてたしな。
 とにかくヤツは俺が意識を取り戻した時以来、一度も顔を見せなかった。
 ほぼ1ヶ月前のことだ。
 まあ俺も会いたいとも思ってなかったし。
 ヤツの態度はいつものことだと気にしちゃいない。
 けど、この金は何だ? 家には何もないのに?
 訳の分からないまま過ごすのは何となく胸くそ悪い。
 とりあえず明日、ヤツの会社に行くことにした。
 翌日、約束どおり知夏に顔を見せ、朝食終了後、時間をくれるよう頼んだ。
 昨日の今日で悪かったがほんの数時間で済む用事だと説明した。

「昼飯までには戻ってくるから」

 知夏は頷きながら笑顔で見送ってくれた。姉貴たちは居なかった。
 少しでも早く用事を済ませて病院に戻ろうと直談判すべく、ヤツの会社へ向かった。
 じーさんの代から続いている会社で現役社長。
 自社ビルと子会社を持つそれなりの規模で荒稼ぎしているようだ。
 家を顧みない仕事人間な冷血な男、それがヤツ、俺の父親。
 見慣れたビルの自動ドアが開き、ずかずかと入り込む。
 受付嬢が一瞬、止めたが社長室に電話し、最上階の部屋へと向かう。
 ノックもせずに扉を開け、中へと乗り込む。

「おいっ、どういうことだ?」

 こちらに背を向けた椅子に向かって大声を上げた。

「家、めちゃくちゃになってるし、どうなってんだよ!?」

 ゆっくりと椅子がこっちに回転し、驚くべき人物が姿を現した。

「あらぁ、弘樹くんじゃない? もう会うことないと思ってたのに」

 赤い唇が不敵そうに笑い、冷ややかな視線が向けられる。

「は、何故? ここにいるんだ?」

「うふふぅ。社長の椅子って座ってみたかったのよねぇ……。まあここに座るのも時間の問題だろうけど? 期日までに買い戻さなきゃ、あなたの父親は一文無しよ。けど、無理な話よね」

「何言ってんだ?」

「嫌だぁ、本当に何も知らないのぉ? 本当に仲の悪い親子ねぇ。ふふ。ともかくあたしには関係がないけど。そうねぇ、しいて教えてあげるならこの会社はほぼあたしのモノになるっていうことかしら、ね?」

 嬉しそうに短い髪をかきあげ、机に肘を置き、頬杖を付きながら俺を見上げる。

「きっと金策に困ってどこかに行っちゃてんのよ。失踪ってやつ? ……無駄な悪あがきしたってどうせ時間の問題だしね。もうあの人もあなたもここには用が無いはず。……だから、さっさと帰ってちょうだい!」

 吐き捨てるように投げかけられ、警備員を呼んで捕まえられる。
 ビルの前に投げ出された俺はますます訳が分からなかった。
 アイツが言うにはヤツが失踪した?
 だけどアイツとヤツは別れたはずなんだろ?
 別れたはずのアイツが何でここにいるんだ?
 一体、知らないうちに何が起こってるんだ?
 日差しが多少弱くなったとはいえ、まだまだ暑い夏の終わり。
 アスファルトから照り返すむっとした空気にいても立ってもいられない。
 とにかく会社とヤツ自身に何かあったのは間違いない。
 ヤツが姿を消した今、俺の手元にあるのはこの現金のみ。
 そしてめちゃくちゃになってるあの家。
 これからの生活の術が俺自身に委ねられてくるってことなのか?
 ……だったらやるしかない。
 それに俺にはもう、知夏しかいない。
 今度こそホントに知夏と共に生きていくんだ。
 決意したことをもう一度確認しながら頷く。
 ビルをひと睨みした後、知夏の待つ病院へと急いだ。
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