UNLUCKY?

おりのめぐむ

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不安な疑惑の準備期間 8 ~賭けの代償~

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「ちょ~、助かったんだけど」

「ミクリン、マジありがと」

「この借り、忘れないから」

「ってゆーか、マジ友だし?」

 目の前で茶髪で化粧で制服改造姿の4人組が言う。
 全くご縁の無かったはずの田中美樹、中島麻耶、原田紗江、前川梨奈の彼女ら。
 ビューティー・カルテットと名のる、顔をまともに合わせたことの無い派手な連中。
 そんな彼女らと関わることになったのは1週間をさかのぼる。
 例の騒動があった月曜日がきっかけ。
 あの日の放課後、得意気な顔で高山が車に乗り込んだ。

「倉持、賭け、憶えてるよな?」

 もちろん忘れてはいなかった。
 私と高山との根拠の無い噂は全く無かったことに安心した後、脳裏に過ぎったもの。
 賭けた内容を思い出し、途端に青ざめる。
 …高山のことだ、ろくでもないことを言うに違いない。
 ミラー越しに微笑んでる顔を見てため息を一つ。
 高山との噂の件で気が晴れたものの、高山との賭けで再び気が重くなる。
 重い口調で憶えてますと答えた。

「それじゃあ、選択肢を与えよう。どっちがいいか選んで」

 駐車場に車を止めるとそのまま振り向いて高山がニコリと笑って言う。

「一つは倉持からオレに熱いキスしてくれること」

 はぁ? キス? 冗談じゃないっつーの!

「もう一つは倉持がオレの代わりに指導すること」

 指導? 何それ?

「…どっちがいい?」

 首を少しかしげながら私の返答を待つ。

「ちょっと待って! 指導って何なの?」

「ん、ある生徒らに勉強を教えてほしいんだけど」

 勉強を教える? そっちの方がマシじゃんか!

「…だったら指導の方がいいです!!」

「成立だな」

 意外にあっさりと決まり、素早く車を降りる高山。
 キスの強要をするのかと思いきや、私に選ばせるなんて。
 教えるのは関口良子で慣れてるから全然楽。
 だからこそ何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまう。
 指導ってのも引っかかるし。
 エレベーターに乗り込み、ちらちらと高山の顔を窺う私。

「何? やっぱりキスの方が良かった?」

 目が合った瞬間、顔を近づけてくる。

「いいえっ、全く!!」

 顔を背けると高山の笑い声が聞こえてくる。
 くっそ~、からかってやがるな、コイツ。
 家に入ると気を取り直して詳しい内容を聞き出す。
 それがビューティー・カルテットたちのことだった。

「正直、オレも困ってて」

 リビングルームのソファーに腰掛けて高山はため息混じりに呟く。

「アイツら、この間のテストで赤点だったわけ。このままじゃヤバイって思ってさ」

 近々追試が行なわれるからその勉強を教えて欲しいんだってさ。
 つーか、高山のあのテストでひと桁なんて信じられない。
 記号問題で軽く20点は取れただろうに!!

「だからヤバイって思ってるわけ。今のうちに手を打っとかないとアイツら留年しそうだからな」

 どうやら裏はなさそうだと納得し、着替えようとリビングから出ようとした時、腕を掴まれる。

「…ところで、今日の洋楽の解答、聞いてないんだけど?」

 ん、げっ! すっかり忘れてた!! それどころじゃなかったから!
 作成途中で集中できなくて放置。だけど、何とか答えることは出来るはず。

「い、今から答える!!」

「あれ? 締め切りは下校時までだったよな?」 

 悪魔のような微笑で確認する高山。
 その通りで何も言えない。

「ペナルティーだ」

 そう言ってギュッと抱きしめたかと思ったら唇にキス!!!
 固まる私から離れ、日課のシャワータイムでリビングから去っていく。
 ちくしょ~~!! 結局は唇、奪われてるじゃんか!!
 二兎を得た高山に腹を立てながらその日は終わった。
 そして彼女らの指導が始まることになる。
 淡々と教えてたはずなのに何故か次第に親しみを持たれ、ミクリンという変なあだ名まで付けられるまでになった。
 当初は生物だけの指導が出来の悪い他教科までにも身を乗り出す始末になり、どうやら追試をパスしたらしい。
 クリアできなかったら補習が待ってたらしく、有意義な夏休みが送れると感謝された。
 いよいよ来週からは夏休み。私の短期留学が始まる。
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