UNLUCKY?

おりのめぐむ

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不穏な短期留学紀行 8 ~上書きされた感触~

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 留学生活もついに終わりを迎えた。
 あっという間の1ヶ月。最悪な名残を抱えつつ、テイラーたちともお別れ。

「じゃあ、ミク。気をつけて元気でね」

 彼女の遠慮がちな軽いハグを受けながらさよならを告げる。

「テイラーこそ元気でね。ありがとう」

 テイラーの腕に力が入り、そして小さくごめんなさいと聞こえた。
 ・・・分かってる。彼女には悪気は無かったってことが。
 あの逃走事件の後、涙ながらに謝罪してきた彼女を思い出す。
 マットが大の日本人好きだと知っていたテイラーは私とのデートを勧めた。
 夕方までに帰る約束でうまくいけばいいと思ってたのも分かってる。
 でもまさかあんな騒動になるなんて考えもしなかっただろうけど。
 時間になっても帰ってこないし、マットが血相を変えて彼女の元に訪れたらしく、すぐに高山に連絡して一緒に探してくれたのも知ってる。
 だから私を本気で陥れようとした訳じゃないって確信している。
 だけど高山はそれを許さなかったみたいだ。詳しくは分からないけどかなり怒られたと泣いていた。
 それから研究は終わったからと最後の1週間は私に付きっきりだった高山。
 寒さのせいで高熱が出て寝込んでた時も復活して足の怪我でうまく歩けない時もずっと。
 オレの監督不行き届きだって悲しそうな表情で。
 私の方も心も身体も参ってる時だったから漠然としながらそれに従ってた。
 けど、けどさっ! もういい加減、止めたっていいんじゃないの?!
 膝の傷だって塞がっちゃってるし、熱だって無いからきちんと歩けるっつーの!
 なのにさ、習慣づいた様子で両腕に抱きかかえられてタクシーへと運ばれる。
 自分で移動できるのに有無を言わさず行なう高山のヤロー!
 高山ってば調子付いちゃってこのままだとつけ上がってしまう。
 そう思って空港に着いた時には高山を突き放していた。

「いい加減にしてよっ! もう大丈夫なんだから!」

「何を今更。遠慮しなくていいんだぞ、未来」

「え、遠慮だとぉ?! そんなものないっつーの。私はもう大丈夫だから言ってるの!!」

「何言ってるんだ? あの時は自らオレの元へと抱きついてきたくせに」

「だ~か~ら、あれは無意識の行動だって!」

 あの時は心細さの中で急に救われた気がしただけ! 勘違いにも程度があるでしょうが!
 全くいつまでもあの状況を引っ張んないでほしいっつーの!
 埒が明かないと頭を抱えながら飛行機に乗り込んだ。
 離陸し、安定した飛行が始まった途端、高山の胸へと強引に引き寄せられる。
 ふざけやがってっ! 絶対につけ上がってやがる!!
 文句を言ってやろうと身を起こした時、高山の顔が至近距離だと気づく。
 見つめる視線に一瞬、躊躇。だけどすぐに何か言ってやろうと口を開きかけたその時。
 高山の手が私の顔を覆い、素早く口付けられていた!!
 全身にぞくっとした感触が過ぎり、気づけば力の限りに突き飛ばしていた。
 ・・・嫌だ。鳥肌が立ってる。高山から顔を背けると私は自分を抱きしめていた。
 どうやらマットとのキスのせいで凄まじい嫌悪感が焼きついていた。
 いきなり入ってきた舌の感触を今でも忘れられないでいる。
 もう嫌だ。あんなこと忘れたいのに。変なところで記憶力の良い私の頭を呪ってしまう。
 あんな体験をしただなんて誰にも言えやしない。ましてやコイツには。
 つーか、キス慣れさせた高山が悪いっ!! 確かに挨拶的なものもあるけどさ。
 それ以外のあんな唇だけでないキスがあるなんて知らなかったし・・・。
 キスは挨拶だけじゃないんだって身を持って知ったんだからね。
 だから今後は一切、接触を図らないようにしなきゃ!!
 そんな風に決意した私の背後から高山はそっと抱きしめる。

「未来、ごめん。オレが絶対に忘れさせてやるから」

 予想もしない言葉にドキン。高山、もしかして知ってる?
 振り向いた直後、真っ直ぐな瞳が飛び込んでくる。
 そしてぎゅっと抱き寄せられ、再び顔を近づけてキス。
 だけど今度はさっきと違う。閉じた唇に割って入ってくる舌。
 全身から拒否反応が起ころうとした瞬間、口の中に清涼感が広がる。
 な、何これ? 高山の舌以外に小さな固形物があるんですけど?
 高山の優しく動かす舌とス~とする感覚が織り交ぜられ、感触が麻痺していく。
 身体が熱くなってきて次第に力が抜けていく。
 気がつくと高山の胸にもたれていてぼんやりとしていた。

「・・・オレが消毒してやったから忘れられただろ?」

 ミントタブレットと書かれたケースを目の前に出され、ニッコリと笑う高山。
 そういえば確かにマットとの嫌悪キスは上書きさせたように忘却されたかも?
 気持ち悪いと脳裏に焼きついていたはずの感触は消えていた。
 ・・・つーか、それより、高山、今、私に何をした?!

「こ、このエロ教師が~!!」

 全身が熱くなるのを誤魔化すため、私は高山を叩くのが精一杯だった。
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