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おりのめぐむ

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<番外編1>不屈で鬼畜な復讐劇? ~風邪にはご用心~(高山視点)

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「高山、もしかして風邪ひいた?」

 未来が探るようにオレに問いかけた。

「ああ、そうかもしれないな」

 なるべく心配は掛けまいと平気なフリをしながら笑ってみる。
 本当は昨日から喉が痛くて声の調子がいまひとつ。
 ひき始めかもしれないと予感はあったがつい薬を飲むのを忘れてしまった。
 さすがに未来との進展を掛けた行動で肉体的にも精神的にも力を使い果たし、免疫力が低下していたのだろう。
 まだ残暑が厳しいからとリビングでクーラーを付けっ放しでうたた寝してしまったのが原因だ。

「ま、未来が熱いキスをくれたらすぐに直るだろうけど」

 そう言って未来の腕を引き寄せる。瞬時にムッとした表情へと変わる。

「それだけ元気があるなら世話無いつーの!」

 オレの手を振り払うとリビングから怒った様子で出て行った。
 ここ最近の未来は怒りっぽい。それもそのはず、婚約騒動を納得してないからだ。
 しかも最近オレと一緒に住んでいることまでもバレてしまい、心中はよろしくないだろう。
 周りが前より騒がしくなってペースを乱されてるだろうからな。
 ソファーにも垂れ込んだまま、姿を消した未来に感傷を抱く。
 一緒に住んでいてもまだまだ踏み込めない領域。
 警戒心の強い未来は何かにおびえているかのよう。
 人との関係に距離を置くんじゃなくて縮めていく付き合い方。
 その最も近い位置にいるのがオレであって欲しい。
 いや、そうしたい。もっともっと未来を知りたい。
 未来の全てを受け入れる覚悟は出来ているのだから。
 いつからだろうか? 未来に惹かれていったのは。
 最初は興味本位だったのに本気になってしまった。
 そして時間をかけて未来を振り向かせてやると決め込んだ。
 が、オーストラリアの一件でもうグズグズしてられないと思った。
 他の男に狙われたんじゃ意味が無い。
 それに空回り気味だった未来の気持ちがオレに向けられている気がした。
 ここで勝負に出なければまた平行線の延長になりそうだ。
 うやむやしたままじゃ未来だっていつまで経っても気づきそうも無い。
 すごい才能の持ち主のくせに自分を苦しめている不器用な未来。
 持て余した未来を解ってやれるのはオレしかいない。
 オレのエゴかもしれないが他の誰にも奪われたくない。
 未来をこれから先もずっとそばに置いておきたい。
 そう思ったら将来のパートナーとしてしか考えられなくなった。
 だけどまずは未来の気持ちを確認することが先決だ。
 清水の舞台から飛び降りる気持ちで思いのたけをぶつけた。
 いろいろあったが何とか未来を手中に収めた。絶対に離さない。
 未来との関係を維持していきたいが置かれた現状は教師と生徒。
 研究助手に戻れば何の障害も無いはずとそのつもりだった。
 ところがあの大告白が全校生徒の共感を得、同僚らもコソコソするよりは潔いと納得。
 そして何より学園の発展になるためなら何でも来い的校風がモノを言ってる。
 本来なら辞職するはずだったのに逆に引き止められた状況にはオレ自身も驚いた。
 ま、それに便乗して居残りを決めるオレもどうなんだと言えるが。
 こうなった以上は未来をしっかりと掴んでおかなくては。それしかないだろう。
 とはいえ、ようやく好きだと認めさせたばかりだから先は長いだろうな。
 段階を踏んでいずれはきちんと伝えたかったことが先回りしている現状。
 困惑するのも解るが悪い虫がつかない点では好都合。
 未来には悪いがそういう気になることを願ってる。
 オレのことをもっともっと意識してオレしか見えなくなるぐらいに。
 その唇も身体も全てがオレしか受け付けなくなるぐらいに。
 未来にも自ら早くそうなって欲しい。
 何だか熱い想いを抱いたせいか身体が火照ってきているようだ。

「やっぱりキスすれば良かった…」

 ぼんやりと未来の姿を思い浮かべる。レンズ越しの黒目がちな瞳。
 何でも真っ直ぐにひたむきに見つめる視線は昔から変わっていない。
 眼鏡で覆われた分、あの頃の無邪気さや素直さを塞いでる気がした。
 息苦しく過ごしていたらいつかは壊れる感覚に気づいていないのか?
 だが、唇を奪うたび、未来の素顔が垣間見れる。
 その一瞬に出会う度、何度も何度もキスをしたくなる。
 深いキスを落とした時の未来は堪らなく愛おしい。
 ピンと張り詰めたような緊張感から解き放たれ、無防備で夢を見てるかのような無垢な顔。
 気を張って意地張って隠している素が見える瞬間。
 いつだってオレの前ではそうなればいいのに。

「惜しいことしたよな…」

 そして願わくばキス以上の機会を望んでいる。
 横に眠る未来を襲いたい衝動に何度駆られたものか…。
 と言ってもキスで腰砕けになる状態だから無理強いすると嫌われかねない。
 オレの腕の中にすっぽりと納まる柔らかな身体。
 決してグラマーでもセクシーでもないその体型。
 だけど未来の全てを奪いたい。未来にオレのしるしを焼き付けたい。
 …って何考えてんだ、オレ。身体が熱くてどうかしている。
 理性がぶっ飛びそうな勢いに頭がくらくらする。
 …ダメだ、頭がぼおっとしてきた。どうやら熱が出始めたらしい。
 薬を飲んで頭を冷やさなければ…。
 脳内でぼんやりそう考えても身体がだるくなって動けない。
 オレは朦朧としながら熱に意識を奪われていた。

「ん?」

 額にヒンヤリとした感触で目が覚める。すぐそばに未来の顔があった。

「どんな感じ? 少しは楽になった?」

 眼鏡越しの瞳が優しく笑っている。さっきは怒ってたのに心配してるのか?

「ああ、冷たくて気持ちがいい」

「ふうん、そう。疲れてるんだよ、ゆっくり寝てれば」

 顎に手を当てて頷きながらオレを見つめる。口元をニッと上げて。
 どうしたんだろう? 妙に優しい。やはり病人を目の前にすると違うのか。
 もしかして少しはオレのことに深入りしだしたのか?
 どっちにしろいつになく気遣う未来の変化に感動。
 ぼんやりとした意識の中、オレは未来の暖かさを噛み締め再び眠りへとおちていった。
 どれくらい経ったのか、再び気がつく。
 何だか生臭い。それに額が引っ張られているようだ。
 この違和感は何だ。変だと思い、意識がはっきりする。
 ガバリと身を起こすとボトボトと何かが降ってきた。
 掛けられた肌布団の上には臭いの原因であろう焼いた長ネギと干からびたコンニャク。

「な、何なんだ、これは?!」

 謎の物体の出現に驚きながらもツンとするような臭いが身体に染み付いている気がする。
 肌布団はいいとして焦げ目のついた長ネギと水分を失ったコンニャクは何だ?
 どう考えても未来の仕業だよな、これは。どういうつもりか聞く必要がある。
 オレはヨロヨロと起き上がると寝室へと向かう。
 スペアキーはいくつも用意してあるんだと鍵の掛かったドアを開ける。

「あれ、高山、もういいの?」

 パジャマ姿の未来は読んでいた本をパタンと閉じる。

「もういいのって、アレは何だよ?」

「ああ、民間療法の一種。高山が起き上がれるってことは効果有りってことね」

 未来はニコリと笑うと持っていた本を掲げあげる。

「コンニャクは熱さまし、長ネギは喉に効くんだって」

「オレは実験台か?」

 重い頭を抱えて小さくため息。

「違う、モ・デ・ル、だよ」

「大して変わらないじゃないか」

「全然違うけど?」

「…はあ?」

 何なんだ、一体? 何が言いたいんだ?
 オレはネギ臭く、汗をかいた身体を洗い流すため、部屋を出た。
 翌日になり、未来がヤケにこだわってた理由が解った。

「高山センセー、普段寝る時はこんな趣味を持ってるんですね」

 未来と同じクラスの女生徒たちが嬉しそうに声を掛ける。

「センセーのファンとしてプライベートが垣間見れることが出来て幸せです♪ それも協力してくれる彼女がいてくれるからこそ。うふふ」

 目の前に差し出された一枚の写真。
 それはオレが昨日、熱出して寝込んでいた時のもの。
 しかも額にはコンニャクを当て、喉元には焼いた長ネギが巻かれた姿!!!
 どう見ても普通じゃ考えられないだろオレのあんな姿。

「み、未来のヤツ~~!!」

 いつの間に撮ったんだ、全く。
 オレは頭を押さえつつも次第に笑いが込み上げてきた。
 ま、仕方ないか、今回ばかりは。
 未来の気が晴れるなら乗っかっといてやるさ。
 …けど写真だけ、は回収しておこう。

(番外編1・完結)
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