UNLUCKY?

おりのめぐむ

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<番外編2>不利で奇妙な操作法 ~二人の記念写真~(前編)

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「ほら、未来、プレゼント」

 9月上旬、夏休み明けのテストが終わったばかりの日。
 リビングのソファーで本を読んでいると目の前のテーブルに置かれた紙袋。
 高山がにっこりと笑いながら私に向かってそう言った。

「は? 何よこれ」

 不審に思いながら眼鏡越しに見上げると突っ立ったままだった高山が私の隣にちゃっかり移動。

「ま、とにかく開けてみれば?」

 促す高山にムッとしながらも紙袋に手を伸ばす。
 中を覗いてみれば包装紙で覆われた箱らしきものが見え、それを取り出してみる。
 何なんだこれは?
 いかにも贈り物だと言わんばかりの物体にますます疑心暗鬼。
 もしかして開けてビックリ玉手箱、ってヤツじゃないのか?
 チラリと高山を見るとソファーの背にもたれながら私の様子を伺ってる感じ。
 フッ、そんな子供だましに引っ掛かるかっつーの!
 裏をかいてやれと用心深く慎重に包みをとくことにする。
 見事にラッピングされた代物が露になっていくにつれて私は意表をつかれる。
 ま、まさかこんなものとは・・・。

「た、高山、こ、これって!」

 思わず興奮気味に声を荒げてしまう。
 だってさ、むき出しになったモノの正体を見て驚いたっつーの!
 黒いボディーにゴツイ形状。片手で持つとズシリとした重み。手のひらを覆い隠すでかい物体。
 サイドボタンを押せば正面がパカッと開いてレンズやフラッシュが姿を現す。
 下部には薄く細長い隙間があり、そこからシートが排出する仕組み。
 そう、高山が差し出したモノの正体はポラロイドカメラ、だった。
 やばい、やばすぎる。これが手元にあるなんて!
 私は瞬時にカメラの虜になる。
 つーのも、実はこれ、欲しいと思っていたから。
 もう手にすることがないかもと少し諦めてた経緯もあるし。
 なのに、それが今、目の前に!!
 しかもこんなに立派なポラロイドカメラがよ?
 ただただ信じられない、の極致。この手の中のカメラの存在。
 でも何で知ってんだ、高山め。そんなことひと言も言ってないっつーの!
 私が勝手に情感に浸ってただけ、それだけなのにさ。
 そのきっかけは数日前にさかのぼる。あの高山の写真騒動。
 高山ファンに頼まれてプライベートショットが欲しいとか何とか。
 丁重にお断りをするはずだったつーのに、カメラを見た瞬間、即決してしまったことから始まった。
 1枚だけと撮ってみたものの、その感覚から懐かしさがこみ上げてしまった。
 それは中学入学のお祝いとしてもらった私のポラロイドカメラ。
 貸してくれたカメラとは比べ物にならないくらいのおもちゃみたいな存在。
 ペンケースのように薄っぺらくてコンパクトな割に本格的に撮れる代物。
 その思い出のカメラを再び実感させられたという訳。
 約束の写真撮影が済み、後ろ髪ひかれる思いでカメラを返した後、気になってしょうがない。
 そこで机の引き出し奥にしまってあった懐かしの細長い物体を取り出してみたんだ。
 ネガフィルムサイズしか対応しないちっぽけなものだったけど、私には十分だった。
 いつでも持ち歩いて気軽にどこでも撮れてその場で現像できてしまうという優れもの。
 周囲との距離が開いた中で支えのひとつになった貴重な思い出の品。
 何せ世界で1枚だけの写真が手に入れられるんだし、それだけで私の心を惹きつけた。
 そんな風に愛着していたカメラだったから消耗も早かったわけで…。
 中2の夏辺りでとうとうお蔵入りになってしまったというオチ。
 それ以来、触れることなく引き出しに眠らせたままになったという経緯ってやつ。
 傷んだカメラをそうやって懐かしんでいると不意に声が掛かった。

『懐かしいな、それ。まだ使えるのか?』

 風邪から完全復活したらしい高山がカメラをつかんで眺める。

『もう壊れてるしね。今じゃ思い出の品ってやつかな』

 ・・・ただそれだけのやりとりだったのに、高山のヤツめ。
 再びチラリと見れば満面の笑みで私を見てやがる、くそっ。
 こんなタイミングにこんなプレゼントなんてさ。 
 この手にあるのは借りてたカメラよりもさらに性能が優れたポラロイドカメラ。
 確かにのどから手が出そうなほど欲しいものだけど、怪しすぎる。
 つーのもこの間の写真の一件で恨んでてもおかしくないはず。
 あんな醜態をさらすようなものをわざと撮ったんだから。
 それなのに何も触れることなく今日まで経過してるわけだし、明らかに怪しすぎる。
 こいつのことだ。絶対に裏があるに違いない。
 私はぐっと堪えながら横で笑ったままの高山に突き出す。

「か、返す。受け取る理由なんてないから」

「理由? それならこの間の看病のお礼と思えば?」

 か、看病だと?!
 仮にも人体実験まがいのことをしてしかもあんな写真を撮ったのに?!
 看病つったって大したことをしたわけではない。
 風邪を引いたらしい高山に民間療法の治療を行なった。
 ちょうど借りていた本の内容の一部が実証できるチャンス。
 薬を使わない昔の知恵が人体に及ぼす効果。
 この目で確かめたいとうなされた高山を診ただけだっつーの。
 ついでに写真の件を思い出し、寝ている隙に撮影した。
 それがあっという間にファン内にばら撒かれ、いつの間にか拡大されて貼り出されるというすごい騒動になっていた。
 ま、私的にはいい気になってた高山が恥ずかしい思いをしていい気味だとは思ったけど。
 ますます怪しい。絶対に変だ。

「そ、そんな理由、信じられるかっつーの!」

「じゃ、公認祝いとか? テスト明け記念とか?」

「ば、ばっかじゃないの?!」

「・・・とにかく理由は何であれ、オレは未来に贈りたい気持ちなんだって。それさえも信じてもらえないのか?」

 そう言われても嫌な予感が過ぎるんだよな。
 絶対に裏があるに決まってるってさ。

「せっかく未来が喜ぶと思って用意したのに」

 躊躇する私に高山がため息混じりに呟く。
 だけど鵜呑みに出来る術もないっつーの!
 いや、まだ理解できないのかもしれないけど。

「・・・信じられない」

「悲しいこと言うなぁ。オレは純粋に未来が喜ぶ顔が見たいだけなのに」

 ほんの少し寂しそうな瞳をした高山は小さく笑った。
 そんな顔を見てズキンと衝撃が走る。
 胸の奥がぐっと締め付けられるような気がした。
 悪いこと、言ってしまったかも。
 告白された時も同じことを言って同じ顔をされた。
 でも結局、私から信じてもらうためにあんなことをしでかしたんだけどさ。

「わ、わかったつーの!」

 私はそう答えると出した手を引っ込めて顔をそむける。

「し、仕方なしに受け取ってやるんだから」

 そう言い放ちつつも本当は心から待ちわびている手の中の存在を握り締めた。
 手が妙に湿っぽいのはきっとカメラのせいだ。
 欲しいものがここにあるから気持ちが高揚してるだけと言い聞かせながら。

「・・・にしても未来は面白いものを欲しがるよな」
 高山はソファーから身を起こしながら呟く。
 面白い、もの? う、うるさい。ほっとけ、この野郎。
 どうせ女の子は服だの、何だのって言いたいんだろーが。
 私はそういうのには全く興味がないんだっつーの!
 
「ま、そこもいいんだけど」

 クスリと笑う高山を尻目に少し赤くなる。
 今更ながら好きだと告白されてからようやく気づいてしまった。
 会話の中にさりげなく私に対してラブ・アピール。
 こっそり組み込みながら意識してたんだなって。
 全く抜け目のないこの男。
 そうは言っても流されちゃいけない。
 確かに高山を好きだって気持ちはある。
 ある部分で妙にときめいたり、ドキドキさせやがる。
 今までに感じたことのない感情が押し寄せてる証拠だ。
 けど、その比率が100%とは言いがたい。
 気持ちが通じ合っていてどうにか意識し始めているという序の口の私。
 なのにコイツや周りは先走って結婚騒動にまで発展してやがる。
 勝手に盛り上がって騒ぎ立て収拾がつかなくなってるっつーの。
 そんな状況下の中、私はあえて相手にしない。
 学園公認カップルだろうが何だろうが知るもんかっ!
 だからこそ以前と変わりない態度で高山に接してるんだ。
 時折、こんな風に気持ちを高揚させられる場面があるけどそれを押さえつけて誤魔化すのみ。
 ズルズル進めばコイツの思う壺。
 絶対にそれだけは阻止せねばってね。
 つってもこの手にあるポラロイドカメラ。
 一応、貰った物だからお礼ぐらいは言っておかなきゃいかんだろうし。
 そう思ってた矢先だったつーのに。

「お礼はおあずけ?」

 いつの間にかさっきより近づいてきた高山。
 ったく油断も隙もありゃしない。しかも雰囲気的にキスしてきそうな予感。
 さりげなく肩に手を回してどことなく甘い空気を醸し出してやがるし。
 私の危険信号が点灯しだす。やばいぞって。

「ちょ、高山・・・」

 反射的にカメラを持ち上げるとゴツと鈍い音。

「・・・未来。それがオレに対する感謝の気持ちか?」

 高山はおでこを押さえながら恨めしそうに私を見る。
 つーか、おのれがよからぬ行動を起こそうとしたんだろーがっ!

「自業自得だっつーの」

 私は軽く睨み付けると高山に背を向ける。
 ホントはちゃんとお礼を言おうって思ってたのにさ。
 そのタイミングを見事に外してくれやがって。
 握り締めたカメラの重みを感じて何だか急に切なくなる。
 こんな態度、良くないんだろうってね。

「ま、気に入ってるんならいいけどさ」

 背後で高山がポツリと呟く。
 あ~っ、もう腹が立つ。コイツはほとんど怒ったりしないから。
 写真の件にしろ、傷つけたことにしろ、怒りがないのかよっ。
 私は気持ちを落ち着けると高山の様子を伺う。
 すると気にした様子もなくソファーにもたれてくつろいでやがる。
 人が気にしてやってるのにこのノー天気野郎が。
 チラッと見たのに目が合って慌てて顔を背ける。
 そして視界に入るポラロイドカメラ。
 ・・・たく、一応さ、言っとかなきゃいけないよね。
 私は覚悟を決めると振り返った。

「・・・あのさ、ありがとう」

 言ってすぐに目を逸らす。どうせ笑ってる顔が想像つく。

「どういたしまして」

 笑いを含んだ高山の言葉を耳にしながら私はカメラを触る。
 くっそう、やっぱり笑ってやがったな。
 高鳴り出す鼓動を抑えるため、カメラの説明書を取り出す。
 熱身帯びそうな体を冷やそうと素知らぬふりして読むことに専念した私だった。
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