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1章
2話
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今日は、入学式から数日が経ち、一年生初の授業の日だ。
朝、五月蝿い目覚ましを止める。
スマホのアラーム。
特に設定を変えず、初期のものを使っている。
目を覚ますと遠くで両親の話声がする。
枕元に置いたヘッドホンを耳にかけ、音楽を流す。
朝にぴったりなアップテンポの音楽。
静かなこの部屋を華やかにするような、元気な曲だ。
むくりと布団から起き上がる。
大きく伸びをし、欠伸を一つ。
頭を触ると少し寝ぐせが気になる。
部屋を出て、まずはゆっくりとした足取りで洗面台を目指す。
備え付けの三面鏡には、とても眠そうな私の姿があった。
横のタオル置きの上にヘッドホンを置く。
目を擦りながら、水を出す。
手で水をひと掬いして、顔を洗う。
とても冷たいが、目を覚ますにはいい材料となる。
改めて洗顔料で顔を洗い、拭く。
さっぱりした後は、アイロンで寝癖を何とか伸ばす。
鏡の前には、いつも通りのさらりとした髪をした私が映る。
ヘッドホンを手に取り、続きの音楽を聴きながらリビングに向かう。
リビングでは、母が料理をしている。
父は、朝の日課である新聞を静かに読む。
父親は、普段から特に反対することも賛成することもない人で口数が多い方ではない。
母親は、私の味方になることが多いが、基本は自分の好きなように生きるタイプだ。
二人とも、それぞれの優しさと厳しさを持つ。
私の耳がこんなになる前は、素直にこの空気が好きだった。
きっと今、私は笑えていないのだろう。
目の前には、母の作る料理が並べられる。
ベーコンと目玉焼き、ソーセージ。
味噌汁に炊き立ての白いご飯。
朝にしては少し量が多い気がするが、いつものことだ。
まだ少しぼやける目で、目の前の料理を掴み、口に運ぶ。
若干、手に力が入らないが、いつものことだ。
今日は、あまりゆっくりしていられない。
学校がある。
食べ終えると自室に向かった。
時計は、六時半を指している。
まだ、少し余裕のある時間だ。
昨日のうちにまとめておいた鞄を持ち、家を出る。
玄関を開けると、遠くから小さな母の声がする。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
ぼそりと、玄関で言葉を吐き、歩き出す。
私は、ゆっくりと最寄り駅へと向かった。
最寄りの星崎駅。
そして電車に揺られ、十数分で学校のある桜咲駅に着く。
そこから少し歩き、校舎のある緩やかな山道を登っていく。
その道程、少しずつ増える同じ制服を着た生徒たち。
それを見ながら、片手でヘッドホンを強く抑えた。
耳に流れる音楽は、私を応援するかのような力強い曲だ。
男性歌手で、私には到底まねできない腹の底からみなぎるような歌い方をしている。
少し重たい鞄を持ち、学校へと上っていく。
距離は、短いようで長い、そんな気がする。
人波の中の有象無象に溶け、ゆったりと進む。
周りの声が若干聞こえる程度で、鳥の声も聞こえない。
私だけの空間を保つ。
数日ぶりに見る校門。
力強い二本の柱がそびえ立ち、鋳物製のフェンスを支えている。
入学式の時も思ったが、少し威圧感を感じる。
校門を潜り、桜並木から続く校舎を見る。
校門に劣らないほどの立派な校舎。
簡単には倒れないだろう。
私は、音楽に集中し、人波に従い進む。
下駄箱で上履きに履き替え、教室に向かう。
教室ではすでに、ほとんどが入学式で知り合ったはずのクラスメイトが、仲良さ気な雰囲気を漂わせている。
静かに、自分の席に向かう。
窓から少しの日差しが差し込む。
鞄から小説を取り出し、授業が始まるまでの数分間はそれに没頭した。
若干のチャイムの音を合図に見上げる。
教卓には、田中先生が立っていた。
音量を少し下げ、話を聞く。
今日は授業初めということで、改めて簡単な自己紹介があった。
それが終わると、待ってましたと言わんばかりにクラスメイト達からの質問タイムとなった。
趣味や、彼氏の有無など。
質問されている姿を見ると、教師という職業の大変さを実感する。
「軽音楽部の顧問をしてるので、もし、よかったら見学に来てね。」
丁度良く、チャイムが鳴りそれが最後の締めくくりとなった。
今日の予定に部活紹介があるため、より話題にしたのだろう。
次は学年集会のため、体育館に移動だ。
入学式に少し見た程度の顔ぶれが揃う。
ひと学年、四クラス。
それにしても、圧倒的に体育館は広い。
ざわつく体育館を鎮めるような声が、スピーカーから流れる。
「おはようございます。」
男性の声だ。
壇上を見ると、ジャージ姿の男の先生が立っている。
これから、この学年の担当教員たちの説明が始まるようだ。
科目ごとの担当教員や担任なんかの紹介をし、あっという間に時間は進む。
休憩をはさみつつ、学校についての説明や校則について伝えられた。
そして、お昼の時間となる。
教室では、各々グループを作って楽しそうに弁当を食べ始める。
私は、鞄からチョコを一つ取り出し口に入れる。
それを昼食とし、残りの時間は音楽を聴きながら小説を読んで過ごす。
小説では、この教室とは違い、ゆったりとした哀し気な時間が流れる。
耳に流れる音楽はバラードになり、小説とマッチしている。
ゆっくりと文字を追い、自分のペースで読み進めた。
昼休みも終われば、さっそく部活紹介の時間だ。
体育館に集まり、それぞれの部活の発表を傍観する。
特に魅力は感じるものはなかったが、担任が顧問をしているという軽音楽部は少しだけ注視してみた。
ヘッドホンの音を止め、軽音部の演奏を聴く。
学生らしい音で少し荒いが、それでも頑張りが見られる。
ギターボーカルの女性は、ピアスを片耳に着け、いかにもロック調な見た目で今流行りのJポップをカバーする。
私には、出せないその歌声に少しの憧れを抱いた。
しかし、この身のハンデを思うと、手が届かない所に彼女たちはいた。
その思いも覚めないままに、次の部活の紹介に移る。
再び、ヘッドホンの音量を上げることを忘れていた私は、周りにいる生徒たちの負の感情に押しつぶされそうになり、急いで音量を戻した。
呼吸が、荒くなる。
深呼吸をし、耳に流れる音楽に集中する。
何とか、私を取り戻すことができた。
そして、何もかもが終わり、今日の予定は終了する。
私は、ゆっくりと支度を整え教室から出る。
途中、部室棟のほうに向かう一年生を見かけ、羨ましく思った。
下駄箱で靴を履き替え、校門のほうに向かう。
やっと一日が終わったという安堵感に浸りながら、帰った。
朝、五月蝿い目覚ましを止める。
スマホのアラーム。
特に設定を変えず、初期のものを使っている。
目を覚ますと遠くで両親の話声がする。
枕元に置いたヘッドホンを耳にかけ、音楽を流す。
朝にぴったりなアップテンポの音楽。
静かなこの部屋を華やかにするような、元気な曲だ。
むくりと布団から起き上がる。
大きく伸びをし、欠伸を一つ。
頭を触ると少し寝ぐせが気になる。
部屋を出て、まずはゆっくりとした足取りで洗面台を目指す。
備え付けの三面鏡には、とても眠そうな私の姿があった。
横のタオル置きの上にヘッドホンを置く。
目を擦りながら、水を出す。
手で水をひと掬いして、顔を洗う。
とても冷たいが、目を覚ますにはいい材料となる。
改めて洗顔料で顔を洗い、拭く。
さっぱりした後は、アイロンで寝癖を何とか伸ばす。
鏡の前には、いつも通りのさらりとした髪をした私が映る。
ヘッドホンを手に取り、続きの音楽を聴きながらリビングに向かう。
リビングでは、母が料理をしている。
父は、朝の日課である新聞を静かに読む。
父親は、普段から特に反対することも賛成することもない人で口数が多い方ではない。
母親は、私の味方になることが多いが、基本は自分の好きなように生きるタイプだ。
二人とも、それぞれの優しさと厳しさを持つ。
私の耳がこんなになる前は、素直にこの空気が好きだった。
きっと今、私は笑えていないのだろう。
目の前には、母の作る料理が並べられる。
ベーコンと目玉焼き、ソーセージ。
味噌汁に炊き立ての白いご飯。
朝にしては少し量が多い気がするが、いつものことだ。
まだ少しぼやける目で、目の前の料理を掴み、口に運ぶ。
若干、手に力が入らないが、いつものことだ。
今日は、あまりゆっくりしていられない。
学校がある。
食べ終えると自室に向かった。
時計は、六時半を指している。
まだ、少し余裕のある時間だ。
昨日のうちにまとめておいた鞄を持ち、家を出る。
玄関を開けると、遠くから小さな母の声がする。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。」
ぼそりと、玄関で言葉を吐き、歩き出す。
私は、ゆっくりと最寄り駅へと向かった。
最寄りの星崎駅。
そして電車に揺られ、十数分で学校のある桜咲駅に着く。
そこから少し歩き、校舎のある緩やかな山道を登っていく。
その道程、少しずつ増える同じ制服を着た生徒たち。
それを見ながら、片手でヘッドホンを強く抑えた。
耳に流れる音楽は、私を応援するかのような力強い曲だ。
男性歌手で、私には到底まねできない腹の底からみなぎるような歌い方をしている。
少し重たい鞄を持ち、学校へと上っていく。
距離は、短いようで長い、そんな気がする。
人波の中の有象無象に溶け、ゆったりと進む。
周りの声が若干聞こえる程度で、鳥の声も聞こえない。
私だけの空間を保つ。
数日ぶりに見る校門。
力強い二本の柱がそびえ立ち、鋳物製のフェンスを支えている。
入学式の時も思ったが、少し威圧感を感じる。
校門を潜り、桜並木から続く校舎を見る。
校門に劣らないほどの立派な校舎。
簡単には倒れないだろう。
私は、音楽に集中し、人波に従い進む。
下駄箱で上履きに履き替え、教室に向かう。
教室ではすでに、ほとんどが入学式で知り合ったはずのクラスメイトが、仲良さ気な雰囲気を漂わせている。
静かに、自分の席に向かう。
窓から少しの日差しが差し込む。
鞄から小説を取り出し、授業が始まるまでの数分間はそれに没頭した。
若干のチャイムの音を合図に見上げる。
教卓には、田中先生が立っていた。
音量を少し下げ、話を聞く。
今日は授業初めということで、改めて簡単な自己紹介があった。
それが終わると、待ってましたと言わんばかりにクラスメイト達からの質問タイムとなった。
趣味や、彼氏の有無など。
質問されている姿を見ると、教師という職業の大変さを実感する。
「軽音楽部の顧問をしてるので、もし、よかったら見学に来てね。」
丁度良く、チャイムが鳴りそれが最後の締めくくりとなった。
今日の予定に部活紹介があるため、より話題にしたのだろう。
次は学年集会のため、体育館に移動だ。
入学式に少し見た程度の顔ぶれが揃う。
ひと学年、四クラス。
それにしても、圧倒的に体育館は広い。
ざわつく体育館を鎮めるような声が、スピーカーから流れる。
「おはようございます。」
男性の声だ。
壇上を見ると、ジャージ姿の男の先生が立っている。
これから、この学年の担当教員たちの説明が始まるようだ。
科目ごとの担当教員や担任なんかの紹介をし、あっという間に時間は進む。
休憩をはさみつつ、学校についての説明や校則について伝えられた。
そして、お昼の時間となる。
教室では、各々グループを作って楽しそうに弁当を食べ始める。
私は、鞄からチョコを一つ取り出し口に入れる。
それを昼食とし、残りの時間は音楽を聴きながら小説を読んで過ごす。
小説では、この教室とは違い、ゆったりとした哀し気な時間が流れる。
耳に流れる音楽はバラードになり、小説とマッチしている。
ゆっくりと文字を追い、自分のペースで読み進めた。
昼休みも終われば、さっそく部活紹介の時間だ。
体育館に集まり、それぞれの部活の発表を傍観する。
特に魅力は感じるものはなかったが、担任が顧問をしているという軽音楽部は少しだけ注視してみた。
ヘッドホンの音を止め、軽音部の演奏を聴く。
学生らしい音で少し荒いが、それでも頑張りが見られる。
ギターボーカルの女性は、ピアスを片耳に着け、いかにもロック調な見た目で今流行りのJポップをカバーする。
私には、出せないその歌声に少しの憧れを抱いた。
しかし、この身のハンデを思うと、手が届かない所に彼女たちはいた。
その思いも覚めないままに、次の部活の紹介に移る。
再び、ヘッドホンの音量を上げることを忘れていた私は、周りにいる生徒たちの負の感情に押しつぶされそうになり、急いで音量を戻した。
呼吸が、荒くなる。
深呼吸をし、耳に流れる音楽に集中する。
何とか、私を取り戻すことができた。
そして、何もかもが終わり、今日の予定は終了する。
私は、ゆっくりと支度を整え教室から出る。
途中、部室棟のほうに向かう一年生を見かけ、羨ましく思った。
下駄箱で靴を履き替え、校門のほうに向かう。
やっと一日が終わったという安堵感に浸りながら、帰った。
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