佐吉と観音像

光野朝風

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佐吉と観音像1

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 昔々ある村に佐吉という若者がおりました。
 佐吉はお酒を飲むことや遊びが大好きな一人息子として知られていました。
 佐吉は畑仕事があまりできませんでした。
 なぜなら、佐吉は畑を耕そうにも、花を見つけてはくわを入れることをためらったのです。
 佐吉はいちいち花を傷つけないように土をすくっては、別の場所へと植えます。
 ですから、畑仕事がまったくはかどりません。
 佐吉の父親の藤助は、そんな佐吉の姿を見て、「まったく役に立たない放蕩(ほうとう)息子だ」と我が子の姿を嘆いていました。
 周りの家々も、父親が佐吉のことをよく言わないし、佐吉がまったく働かないのを知っていたので、「藤助のところの息子はバカ息子だ」と笑いものにしていました。
 しかし佐吉のことを、とてもよく言う人もいました。
 それは佐吉と一緒に遊んだ人たちでした。
「あんな心優しい、いいやつはなかなかいない。佐吉が困ったときなら、なんだってやれる」
 そう言う人もおりました。
 藤助はことあるごとに畑仕事のできない佐吉を叱りました。
「佐吉!このバカ息子が!畑仕事もできないでどうやって暮らしていくつもりだ!自分で食べることもできなければ生きることもできないんだぞ!」
 なんとかして佐吉に畑仕事をしてもらおうと必死です。
 昔から藤助は一方的に佐吉を叱り付けて、畑仕事をさせたかったのですが、佐吉は逃げてばかりで藤助の言うことなんて聞こうともしませんでした。
 しかしなんとかして藤助は佐吉が一人で生きていけるようにしたかったのです。
 藤助もこの頃年のせいか、体の節々が痛み、畑仕事をするにも苦労するようになってきました。
 藤助は佐吉がちゃんと生きていけるのかと不安を募らせる毎日でした。
 藤助は時折がっくりと肩を落としながら、佐吉の母親のトミに言いました。
「せめてあいつが一人前になってくれりゃあ、わしもちゃんと安心して余生を送れるだがな……」
 トミも同じように佐吉のことを心配して説教をしておりましたが、佐吉は変わろうともしません。
 トミは藤助に言いました。
「佐吉の気持ちもちゃんと聞いてやらねばなるめぇ。わしらは佐吉が一人前になってくれればそれでいいべ」
 藤助はしぶしぶ頷きながら佐吉を呼ぼうとしました。
 しかし外にいたはずの佐吉の姿が見当たりません。
 藤助は誰へとなく怒鳴りました。
「またあのバカ息子め!夜中にほっつき歩きおって!トミ!また佐吉のやつが遊びにでかけおったぞ!もうわしは知らんからな!」
 せっかく心配しても佐吉は露知らず、どこかへふらっと出かけていたのです。
 怒りの収まらない藤助は佐吉を自分の息子であることが情けなくなってきていました。
「どうしてあんな息子ができてしもうたかのぉ……」
 藤助の力のない言葉にトミもがっくりと肩を落としました。
 朝方になって佐吉が酔っ払ってしずしずと帰ってきます。
 藤助たちにばれないように入ってきているようでしたが、すぐにわかりました。
 物音を聞いて藤助が起きると、佐吉に向かって怒鳴りました。
「また飲んで遊んできたのか!畑仕事もろくにできないで!このろくでなしが!お前みたいな息子を持ってとうちゃんは恥ずかしいぞ!」
 佐吉は藤助の怒鳴り声にびっくりして、千鳥足をもつれさせてドタンと転ぶありさまでした。
 トミもびっくりして起き上がり、藤助をなだめようとします。
「まあまあおとうちゃん。佐吉の話もちゃんと聞きましょう。佐吉、一人で食べられなくてこれからどうしていくつもりだい。わしらだって先はもう長くないんだよ」
 すると佐吉は黙り込みました。
 藤助は佐吉が黙り込むのは、いつも将来のことを何も考えていないからだと決め付けていました。
 佐吉からは酒の臭いがぷんぷんして、藤助はまた怒りたくなりましたが、ぐっとこらえていました。
 佐吉がしゃべるまで藤助がじっと待っていると、佐吉はぼそりと弱々しい声で言いました。
「おら……人を救いてぇんだ。立派な仕事をしてぇんだ……」
 藤助はそれを聞いて堪忍袋の尾が切れました。
「ああ!トミ……こいつはついに頭がおかしくなった!ろくに生活もできねぇで、どうやって生きていくんだ……畑仕事もできねぇで立派な仕事なんてできるわけがねぇ」
 あまりにも情けない気持ちになって藤助は泣きそうになりました。
 トミも佐吉を説得しようとします。
「佐吉、悪いことは言わね。真面目に働いてくれ。じゃないとわしらも安心してあの世にいけねえだよ」
 佐吉は悲しい気持ちになりました。
 佐吉は親に迷惑をかけていることぐらいよくわかっていました。
 佐吉は家の手伝いをして、少々お金が手に入ったら、何に使っているのか、全部綺麗に使い切ってしまいます。
 藤助は、そのお金はすべて遊ぶお金に使っていると思っていました。
 じつは佐吉は困っている人を見ると放っておけない性格でした。
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