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2章 オダ郡を一つにまとめる
36話 子供ばかりを買う商人
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サブロー・ハインリッヒより、オダ郡で商いをしている商人の名簿を集めるように頼まれたロー・レイヴァンド。
話はロルフ・ハインリッヒが亡くなってすぐのことである。
ローは、悪名の噂のある商人の中に見知った人物がいることに困惑し、己の目で確かめるために、その人物の元に向かっていた。
「マルケス卿は、居られるか?」
「失礼ですがどの御主人様をお探しでしょうか?私がお仕えさせていただいております。この商屋には、複数の御主人様がいらっしゃいますので」
ローは、メイドの言葉を聞いて、深く考え込んでいた。
ローの良く知る人物には子供はおろか孫さえいなかったはずである。
だが、このメイドは、複数の御主人様と言った。
この商屋には、少なくとも2人以上のマルケスと名乗る者がいるという事である。
「これは失礼した。オダ郡の先先代領主、ラルフ様と懇意にされていたセーバス・マルケス卿は、御在宅だろうか?ロー・レイヴァンドが訪ねて来たとお伝えしていただきたい」
「ロー・レイヴァンド様ですね。大旦那様に御用でしたか。失礼致しました。確認して参りますので、少しお待ちください」
丁寧なお辞儀をして、その場を立ち去る使用人の女性。
扉を開けて中に入った女性は、セーバスを呼ぶ。
「大旦那様、ロー・レイヴァンド様と名乗る御方が訪ねて居られます」
「なんじゃと!?レイヴァンド卿が訪ねて参ったじゃと!こうしてはおられん。ミリーよ。レイヴァンド卿の様子はどうであった?」
「辺りを見回して、何かを探っているような御様子に見えました」
サーバスは、考えるようにして、考えを巡らせると頷いた。
「ふむぅ。あの事で訪ねてきたのなら誤解だと言いたいところじゃが。ロルフ様が死に新しく領主となったサブロー様を見極めるには、己の目で確かめたいのじゃが。いやはや。相変わらず昔の馴染みには甘い男のようじゃな。ミリーよ。会いたくないと伝えよ」
「大旦那様、良いのですか?御友人なのではありませんか?」
「どうしてそう思うのじゃ?」
「ロー・レイヴァンド様が先先代のと仰られましたので、大旦那様は、ラルフ様のことをよく子供達に聞かせておられますから」
「こりゃ一本取られたわい。ミリーは、よく見ておるな」
「使用人としてのイロハを徹底的にお婆様とお爺様に仕込まれましたので」
「そうじゃったか。あの2人には子供の頃から世話になった。辛かったな」
「いえ、2人とも最後まで大旦那様の事を第一に考えておられましたから、父と母共々、お任せを」
「頼りにしておる。では任せたぞ」
「はい。大旦那様」
ミリーは、ロー・レイヴァンドの待つ玄関に向かう。
ローは、先程の女性が戻ってきたのを見て、前に進もうとする。
「お待ちくださいロー・レイヴァンド様、大旦那様は、御気分が優れずに休んでおられます。わざわざ、お訪ね頂いたところ申し訳ございません。大旦那様に代わり、深く陳謝致します」
「いや、こちらも都合を考えずに失礼した。また日を改めて、訪ねさせてもらう」
「大旦那様が起きられましたら必ずお伝え致します」
「ありがたい。それでは」
ローは、帰り際に2人の青年とすれ違うがその場を後にする。
2人の青年は、話をしながらセーバスの家へと帰っていた。
「兄者。養父上は、新しい領主のことをどう思っているのだ!」
「大きな声を出しては、なりませんよ。まだ、ここは外なのですから」
「しかしだな。俺は、やはりハインリッヒ家を許せん!アイツらのせいで俺たちはこんな目に」
「そのお陰で、養父上と会えたのですからそう悪いことばっかりではありませんよ。ですがそうですね。養父上にしては、動きが遅い気はしています。いつもの養父上であれば、サブロー様のことを見極めるべく行動を開始してもおかしくない」
「やめろやめろ兄者まで、何がサブロー様だ。忌々しい、ハインリッヒ家のガキめ」
「では、貴方はどうしたいのですか?」
「兄者、そんなの決まってるだろ。俺たちが酷い目に遭わされた分、アイツにも痛みを伴ってもらうだけだ」
「はぁ。サブロー様を怨むのは、御門違いも良いところですよ。私たちが酷い目に遭わされたのは、サブロー様の父であって、サブロー様ではありません。それにサブロー様の心は、父を戦場で亡くして、あの時の私たちのように深く悲しんでおられるでしょう」
「ケッ。兄者は、良い子ちゃん過ぎるぜ。俺は無理だな。ザマァ見ろって思ってるしよ」
「人それぞれですから私と貴方の意見が違うのも無理はありませんが、あのそろそろ実の兄弟でも無いのですからその兄者というのはやめてもらえませんか?」
「何言ってんだ。同じ屋根の下で同じ飯を食って、その場に俺より先に兄者が居たんだからよ。兄者だろ?」
「はぁ。まぁ、良いでしょう。別に何か問題があるわけでもありませんし」
「そうだぜ兄者。細かいことは、気にすんなってな。今回もグラン商会の奴らの雇った傭兵どもを痛めつけてやったんだからよ」
「だからそういうところですよ。大声で言ってはならないと。はぁ、まぁここはもう私有地ですから問題ないでしょう」
この2人の青年の父は、ロルフの奴隷兵徴兵によって、父を亡くした戦争孤児であり、奴隷の子供は奴隷として、グラン商会によって、売られようとしていたところをセーバスに買われて、一般常識からマナーに至るまでの教養と読み書きに知識を教え込まれ、セーバスの養子となったのである。
セーバス・マルケス、子供の奴隷ばかりを買う商人の実態は、奴隷の子供達に安住の地と社会で生きていけるだけの教養を施している常識人である。
話はロルフ・ハインリッヒが亡くなってすぐのことである。
ローは、悪名の噂のある商人の中に見知った人物がいることに困惑し、己の目で確かめるために、その人物の元に向かっていた。
「マルケス卿は、居られるか?」
「失礼ですがどの御主人様をお探しでしょうか?私がお仕えさせていただいております。この商屋には、複数の御主人様がいらっしゃいますので」
ローは、メイドの言葉を聞いて、深く考え込んでいた。
ローの良く知る人物には子供はおろか孫さえいなかったはずである。
だが、このメイドは、複数の御主人様と言った。
この商屋には、少なくとも2人以上のマルケスと名乗る者がいるという事である。
「これは失礼した。オダ郡の先先代領主、ラルフ様と懇意にされていたセーバス・マルケス卿は、御在宅だろうか?ロー・レイヴァンドが訪ねて来たとお伝えしていただきたい」
「ロー・レイヴァンド様ですね。大旦那様に御用でしたか。失礼致しました。確認して参りますので、少しお待ちください」
丁寧なお辞儀をして、その場を立ち去る使用人の女性。
扉を開けて中に入った女性は、セーバスを呼ぶ。
「大旦那様、ロー・レイヴァンド様と名乗る御方が訪ねて居られます」
「なんじゃと!?レイヴァンド卿が訪ねて参ったじゃと!こうしてはおられん。ミリーよ。レイヴァンド卿の様子はどうであった?」
「辺りを見回して、何かを探っているような御様子に見えました」
サーバスは、考えるようにして、考えを巡らせると頷いた。
「ふむぅ。あの事で訪ねてきたのなら誤解だと言いたいところじゃが。ロルフ様が死に新しく領主となったサブロー様を見極めるには、己の目で確かめたいのじゃが。いやはや。相変わらず昔の馴染みには甘い男のようじゃな。ミリーよ。会いたくないと伝えよ」
「大旦那様、良いのですか?御友人なのではありませんか?」
「どうしてそう思うのじゃ?」
「ロー・レイヴァンド様が先先代のと仰られましたので、大旦那様は、ラルフ様のことをよく子供達に聞かせておられますから」
「こりゃ一本取られたわい。ミリーは、よく見ておるな」
「使用人としてのイロハを徹底的にお婆様とお爺様に仕込まれましたので」
「そうじゃったか。あの2人には子供の頃から世話になった。辛かったな」
「いえ、2人とも最後まで大旦那様の事を第一に考えておられましたから、父と母共々、お任せを」
「頼りにしておる。では任せたぞ」
「はい。大旦那様」
ミリーは、ロー・レイヴァンドの待つ玄関に向かう。
ローは、先程の女性が戻ってきたのを見て、前に進もうとする。
「お待ちくださいロー・レイヴァンド様、大旦那様は、御気分が優れずに休んでおられます。わざわざ、お訪ね頂いたところ申し訳ございません。大旦那様に代わり、深く陳謝致します」
「いや、こちらも都合を考えずに失礼した。また日を改めて、訪ねさせてもらう」
「大旦那様が起きられましたら必ずお伝え致します」
「ありがたい。それでは」
ローは、帰り際に2人の青年とすれ違うがその場を後にする。
2人の青年は、話をしながらセーバスの家へと帰っていた。
「兄者。養父上は、新しい領主のことをどう思っているのだ!」
「大きな声を出しては、なりませんよ。まだ、ここは外なのですから」
「しかしだな。俺は、やはりハインリッヒ家を許せん!アイツらのせいで俺たちはこんな目に」
「そのお陰で、養父上と会えたのですからそう悪いことばっかりではありませんよ。ですがそうですね。養父上にしては、動きが遅い気はしています。いつもの養父上であれば、サブロー様のことを見極めるべく行動を開始してもおかしくない」
「やめろやめろ兄者まで、何がサブロー様だ。忌々しい、ハインリッヒ家のガキめ」
「では、貴方はどうしたいのですか?」
「兄者、そんなの決まってるだろ。俺たちが酷い目に遭わされた分、アイツにも痛みを伴ってもらうだけだ」
「はぁ。サブロー様を怨むのは、御門違いも良いところですよ。私たちが酷い目に遭わされたのは、サブロー様の父であって、サブロー様ではありません。それにサブロー様の心は、父を戦場で亡くして、あの時の私たちのように深く悲しんでおられるでしょう」
「ケッ。兄者は、良い子ちゃん過ぎるぜ。俺は無理だな。ザマァ見ろって思ってるしよ」
「人それぞれですから私と貴方の意見が違うのも無理はありませんが、あのそろそろ実の兄弟でも無いのですからその兄者というのはやめてもらえませんか?」
「何言ってんだ。同じ屋根の下で同じ飯を食って、その場に俺より先に兄者が居たんだからよ。兄者だろ?」
「はぁ。まぁ、良いでしょう。別に何か問題があるわけでもありませんし」
「そうだぜ兄者。細かいことは、気にすんなってな。今回もグラン商会の奴らの雇った傭兵どもを痛めつけてやったんだからよ」
「だからそういうところですよ。大声で言ってはならないと。はぁ、まぁここはもう私有地ですから問題ないでしょう」
この2人の青年の父は、ロルフの奴隷兵徴兵によって、父を亡くした戦争孤児であり、奴隷の子供は奴隷として、グラン商会によって、売られようとしていたところをセーバスに買われて、一般常識からマナーに至るまでの教養と読み書きに知識を教え込まれ、セーバスの養子となったのである。
セーバス・マルケス、子供の奴隷ばかりを買う商人の実態は、奴隷の子供達に安住の地と社会で生きていけるだけの教養を施している常識人である。
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