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第二部

冥界食堂

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夜中の悪霊騒ぎで疲れていたからか、

向井は久しぶりに熟睡していた。

目が覚めるとお昼。

アラームもなく、

のんびりと休憩室に行くと、

牧野と佐久間が気持ちよさそうに寝ていた。

「朝まで食べて飲んでたんだって? 」

早紀が入ってくると、

入り口にいた向井に声をかけた。

「夜中に騒ぎがあったんでね。

そのあと食堂で軽く食べたんですよ」

「私は呼び出し来なかったから寝てた」

「まあ、いつもの事だから。

ただ丑の刻の怪とかって、

動画サイトの若者が悪霊呼んで、

騒ぎを大きくしちゃって。

牧野君は寝てたところを起こされたんで、

おへそを曲げてね」

向井が笑った。

「冥王と牧野は、

キーホルダーも全種類集められなかったし、

それもあるのかもね」

早紀もケラケラと笑った。

「なに? これから食事? 」

「そう。遅いモーニングを頂きにいってきます」

「今日はパニーニと定食の二つだったよ」

「そうなんだ。どっちにしようかな」

向井はそういうと食堂へ向かった。

食堂に行くとドセが厨房から出てきた。

「今日のメニューはこちらです。

ライスとパン、どちらにします」

メニューを置いて言った。

ここは未だ優香がパティシエとしているほか、

スタッフ二人で切り盛りしているので、

メニューは毎日決められたもののみ。

なので特例はテイクアウトして、

持って帰ることが多いのだが、

味はグルメの冥王に合わせているからか、

これがまた美味しい。

なので、特例も下界にいない時は、

ここで食べている。

「ライスは白身フライなのか。

じゃあ、それにしよう」

向井が言うと、

「分かりました。そういえば、

昨日のプリンの味どうでした? 」

「ああ、美味しかったですよ。

牧野君も二個食べてましたから」

「あれね。優香さんと一緒に、

安達君が作ったんですよ」

ドセが笑顔を見せた。

「最近デザート作りが楽しいみたいで、

優香さんに教わって、

レパートリーも増えてます。

少しずつですけど上達しているので、

優香さんも褒めてましたよ」

「へえ~」

向井も驚いて笑った。

ドセが厨房に戻ると、

冥王が食堂に入ってきた。

「休憩室に行ったら、

君はここにいるって言うから」

「何か用ですか? 」

「いや、ただ今日は安達君はお休みだから、

言っておこうと思って」

「聞いてます。今年は落ち着いているそうですね」

「うん。いい兆候です。

今もアートンと工房にいます」

「そうですか」

「私もデザートでも食べようかな」

冥王はそういうと厨房にいるセーズを呼んだ。

「今日はデザート何かありますか? 」

「フルーツタルトが残ってます。

モーニングで皆さん食べられてたので、

数は少ないですけど」

「ではそれと~

アッサムのミルクティーが飲みたいです」

「はい、分かりました」

セーズは頭を下げて戻っていった。

「お待たせしました」

ドセがやってきて定食を並べてくれた。

「今日のお茶はほうじ茶です。

珈琲が良ければ入れますけど」

「有難う。お茶でいいですよ」

向井はそういうと、

頂きますと手を合わせてから食べ始めた。

「そうだ。一つ聞こうと思ってたんですけど」

「何ですか? 」

冥王がそういったところで、

セーズがデザートを運んできた。

「有難う」

冥王が礼を言うと、

セーズは厨房に戻っていった。

「で、お話は何でしょう」

冥王がタルトを口に運びながら聞いた。

「実は休憩室にも、

御託宣室と同じような、

アメジストドームを置けないかと思って」

「ああ、あれですか。

別にいいですよ。ただ、

あの質のいいドームが見つかるかは分かりませんけど」

「緑川さんはまだ再生されていませんよね」

「そういえばいるね~

あちこちで色んな石を集めては、

ギャラリーに展示してます」

冥王が考え込むように言った。

「アメジストドームを飾ってどうするんですか? 」

「オブジェが目的じゃなくて、

アメジストドームの前に立つと、

体が軽くなるので、

安達君や特例、死神のメンテにも、

効果があるんじゃないかと思って」

「なるほど。

向井君に効くという事は冥界にいるものには、

ストレス緩和になりそうですね。

今まで考えたことはありませんでしたけど、

いいかもしれませんね」

「じゃあ、緑川さんに相談してみます。

ただ、価格の問題で、

経理部からクレームが来るかもしれませんけど、

そこは冥王の采配で何とかお願いします」

「え~私ですか。嫌だな……

フェムトンは煩いからなぁ~」

経理担当の死神を思い浮かべて言った。

「あれ? 冥王はここで一番偉いって、

言ってませんでした?」

向井はそれだけ言うと食事を続けた。

「………」

ム~とアヒル口にする冥王に、

「可愛くないからやめてください」

向井はそういいながらご飯を口に運んだ。
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