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第三部

赤姫弁当

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「あっ、赤姫さん。弁当どうでした? 」

そういったあと、向井達の姿に気づき、

「向井さん達も来てたんだ」

と笑った。

「ああ、うまかったぞ。

特に魚の煮つけは味がいい」

赤姫は満足そうに頷いた。

「あれは玲子ばぁの得意料理なんだよ」

「そうか。玲子とやらにも礼を言っておけ」

楽しそうに話す二人を見て、

「あんた達いつから、

そんなに仲良くなったの? 」

トリアがあきれた様子で腕を組んだ。

「赤姫さんはいい神様ですよ。

この辺て、ちょこちょこ負のオーラが浮いてるから、

それが気になるって言ってたら、

赤姫さんが浄化してくれて、

おかげで空気も綺麗になって過ごしやすい」

「へえ~ボランティアもするんだ」

からかうようなトリアに、

赤姫は顔を赤くして横を向いた。

「べ、別に、私の領土を綺麗にしているだけじゃ」

「でも、気を付けな。赤姫に生気取られて、

倒れるかもしれないから」

「えっ? 神様って人間食うの? 」

黒谷が驚きの顔で赤姫を見た。

「食べぬとは言わんが、私は食わぬ。

食わずとも、人間どもは勝手に置いていくがな」

眉間にしわを寄せ、

口をへの字に曲げる黒谷を見て、

赤姫が笑った。

「そんな顔をするな。

お前は私が生気を取ったところで、

死にはせぬ」

「なぜですか? 」

向井が聞くと、

「こやつの魂はまっさらだからな。

不足した生気も、

自家発電のように満タンにしておる。

不思議なやつよの~

千年以上生きてきて、初めてじゃ」

三人は黒谷をじっと見た。

「な、何? 俺って普通じゃないの? 」

「普通じゃないと思いますよ。

神様と話せることからしても」

向井が頷きながら笑った。

「そうだ。黒谷。ちょっとこい」

赤姫が手招きした。

「面白いものを見せてやろう」

赤姫はそういって、

付近を浮遊している小さな黒い塊を掴むと、

それを黒谷に投げつけた。

すると、塊は黒谷の前で弾けて塵になった。

「なっ? 面白いであろう」

赤姫が笑った。

「これは……小さな悪霊は近づけない? 

ってことですか? 」

向井がいい、トリアは拍子抜けしたように、

ケラケラ笑いだした。

「冥王が欲しがるわけですね」

向井も腰に手を当て、苦笑いした。

「何? 俺って閻魔様にも命を狙われてるの? 」

驚く黒谷に、三人は声を出して笑った。

「私はこやつが気に入った。

だからここの穢れは浄化してやろう。

冥王にこの前の邪魔は水に流すといっておけ。

そうだな。新しい反物が欲しいともな」

赤姫がトリアの顔を見た。

「その着物も、

冥王に作らせたものだよね。

もう、いらないでしょう」

「何を言うか。着物はいくつあってもよい。

そのかわり一つ、いいことを教えてやろう」

「いいことですか? 」

向井が聞くと、

「そなたは健次郎には近づかぬ方が良いぞ。

記憶がないならなおさらな」

赤姫はそれだけ言うと、

黒谷に笑いかけ姿を消した。

その言葉に考え込む向井を、

トリアは何も言わずに見ていた。
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