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バルベリ出発
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バルベリにも草木芽吹く季節が訪れようとしていた。城下に差し込んだ朝焼けが、瓦屋根や水路にまばゆく照り返している。
ジュリエッタは窓辺に立ち、街並みを見下ろしていた。城館前広場には、旅の荷物が山となっている。
(バルベリの春を見られないのは残念ね)
城下のいたるところに咲いていた水仙が、これからチューリップに置き換わっていくことだろう。
(来年はバルベリの春を見られるかしら)
予知夢でのジュリエッタは、バルベリ領に一度も出向くことがないまま死んだ。領地に興味もなかった。
しかし、今のジュリエッタは、バルベリの春も、そして、夏も秋も見たいと思っている。もちろん、侯爵と一緒に。
それが叶う日が来るのだろうか。
背後で侯爵が起きたらしく、ベッドがきしんだかと思うと足音が近づいてきた。
「おはよう、ジュリエッタ」
「おはようございます、侯爵さま」
侯爵は、ジュリエッタの肩にそっと掛布をかけると、横に並んだ。腕にダニーを抱いている。
侯爵は、同じベッドで寝ているにもかかわらず、いつぞやの宣言通り、指一本触れてこようとしない。
ジュリエッタの気持ちを大切にしてくれているに違いなかったが、それは同時にジュリエッタを少々傷つけてもいた。
(私にその程度の魅力しかないってことは確かね)
「良い天気だ」
「わたくし、騎乗で行きますけど、よろしいですわね?」
「えっ」
侯爵はジュリエッタを見てきた。そして、「はあ……」とため息をついた。いつも唐突なことを言い出して、言い出したら聞かないのがジュリエッタだ。
「わかった……、あとで馬を選びに行こう。それと、あなたにプレゼントがある」
「まあ! 何ですの?」
「それは見てからのお楽しみだ。そろそろ結婚記念日だが、あなたはそれを祝いたくはないだろうから、来月のあなたの誕生日を祝う品にさせて欲しい」
夫不在の結婚式を挙げたのは、ちょうど一年前のこと。結婚して半年は、自分の夫なのに戦場でどうなろうと全く気にならなかった。しかし、今では侯爵に情が湧いている。
「私の誕生日知っていたのね?」
「妻の誕生日くらい把握している」
「では、私にもあなたの誕生日を教えてくださる? そのとき、まだ『家族』なら祝いたいわ」
「俺の誕生日は、十日前に過ぎた」
「では、あなたは30歳になったのね?」
「あなたとの年の差が一つ大きくなってしまった」
侯爵は溜息をついた。その声音は、侯爵がジュリエッタに対して、身分だけではなく、年齢でも引け目に感じていることを思わせた。
(本当に遠慮深い人なのね。英雄なのだからもっと欲張ってもいいのに。あなたにとっても、私は押し付けられた相手でしかないでしょうに)
ジュリエッタは侯爵に求められたわけではない。国王が勝手に与えたものだ。侯爵にとってはありがた迷惑な褒賞だったはずだ。少なくとも予知夢ではそうだった。しかし、現実ではそうなりたくない。侯爵の重荷にはなりたくない。
シャルロットにしか侯爵を幸せにできないのなら、ジュリエッタは身を引くしかない。予知夢のようにいつまでも妻の座にしがみついて侯爵を苦しめたくはない。
予知夢の記憶がジュリエッタを苦しめる。
(侯爵はきっとシャルロットに惹かれてしまう。でも、もしも、シャルロットに惹かれないでくれるならば)
ジュリエッタは、手をこまねいて見ているつもりはなかった。
(せいぜい悪あがきをするわ)
***
王都へ向かう一行は、軍団と呼べるほどの大きなものとなった。
もともとの護衛騎士に加え、侯爵とマルコが引き連れてきた護衛騎士、それに何故か二人にくっついている商人らの一団もいる。
公爵とマルコは、騎乗姿のジュリエッタを見て、ずっこけそうになった。見れば、ハンナまで騎乗している。
(馬車はどうした、馬車は?)
一行に馬車の姿はない。
二人の視線を涼やかな顔でやり過ごすジュリエッタを見るに、どうせジュリエッタが「騎乗で行きますが、よろしいですわね?」などと我が儘を言い、侯爵が受け入れてしまったに違いなかった。
(それにしても何だ、その馬は?)
ジュリエッタの乗った馬は、全身黒毛だ。とても良い馬であることがひと目でわかるが、それは『黒い猛将』である侯爵を思わせる。
二人の視線にジュリエッタは得意げに口を開いた。
「この馬、侯爵さまがくださったの。ダンって名付けたのよ!」
次に二人は鞍に目を移す。その鞍は、赤と緑のコンビで、ジュリエッタのために特別に作られたものであるに違いなかった。
「鞍も侯爵さまがくださったの。誕生日プレゼントよ」
(侯爵殿ぉ……)
侯爵の色を思わせる馬にジュリエッタ色の鞍を乗せて、手綱をジュリエッタに握らせるのだから、侯爵は『妻の言いなり』を公言しているようなものだ。
(尻に敷かれるにもほどがある……! いいぞ、もっとやれ……!)
それにしても侯爵夫妻は仲睦まじい。見ている方が気恥ずかしくなるほどだ。
「侯爵さま、あそこに黄色い花が咲いているわ!」
ジュリエッタが指させば侯爵が馬をそちらに向けて、馬を降りてみずから花を摘んでくる。
「セツブンソウだわ!」
侯爵は手にした花を、ジュリエッタの髪に挿す。
「ジュリエッタ、とても可愛いよ」
ジュリエッタは真っ赤になるも、今度はジュリエッタが侯爵の手の中のセツブンソウを取って、侯爵の髪に挿す。
「侯爵さまも、素敵よ」
お揃いの花飾りをつけて、二人とも顔を赤く染める。そして、もじもじと照れながらも視線を絡ませ合う。
(くっ、まぶしいっ。ふう、仲良きことは美しきかな)
「父上、年内にもお子ができそうですね」
「わしもついにじいじか! じいじ、じいじ、うはははーっ」
「私も、伯父さんです。うふっ、うふふふーっ」
まだ見ぬお子を思って喜びにあえぐ父子の会話に、割り込んでくる巨漢がいた。二人とすっかり意気投合している商人マクシだ。
マクシは片言のブルフェン語で言う。
「あのふたり、まだ、夫婦、じゃないヨ」
「えっ?」
マクシは侯爵とジュリエッタをあごで指す。
「あの二人、マダ、清い関係ネ、私には、ワカルヨ」
マクシはウンウン、と、うなずきながら断言した。
***
一行は宿場町で宿を取ることになった。
当然のように侯爵とジュリエッタは同室で、ハンナとジミー少年、公爵とマルコの部屋割りになる。その他は大部屋に雑魚寝だったり、外に張った天幕で夜を過ごすことになった。
夕食を終えて部屋に戻ったジュリエッタは、早速、侯爵に訊いた。
「侯爵さま、ノルラントに海から攻められたことはありますの?」
王都を外敵から守るための情報収集だ。
唐突な質問に驚いたようだったが、侯爵はちゃんと答える。
「ある。ノルラント軍の船はノルラント産の堅い木でできているから、とても丈夫だ。でも、地形が味方して、海から陸地へと攻められたことはない」
(やはり、ノルラントには軍船があるんだわ)
「地形が味方ってどういうことですの?」
「バルベリの西沿岸は、切り立った断崖だ。上陸するのは困難を極める」
「では、ブルフェンの西沿岸から、ノルラントが攻めてくることはないってことですの?」
「バルベリの真下に大公領がある。大公領で断崖は途切れて、浜になっている。なので、大公領にはブルフェンの軍船が厚く配備されているはずだ」
大公とは、国王と同じく、ジュリエッタの母の弟で、ジュリエッタにとっては叔父となる。
「大公殿下はノルラントの軍船に攻められたことはあるのかしら」
「あるだろうが、これも地形に恵まれて、大軍で攻めてくるのは無理だ。大公領の沖合は海底が複雑な地形で、水先案内なしで進むのは難しい。もたもたしている間に攻め返されて、陸地までたどり着ける軍船は少ないはずだ」
叔父のために、ジュリエッタはほっとした。ジュリエッタにとって、大公は『杖の叔父さま』だ。若いころ、みずから北方討伐軍の将軍として前線に立っていたが、戦場で足を痛めてしまった。
叔父は足が不自由な身でなお、ブルフェンを守る最前線にいるのだ。
ジュリエッタは初めてそのことを知った。
(私、本当に何も知らなかったわ。王都で贅沢することにしか興味がなかった)
「ノルラントの船はどれくらい丈夫なの?」
「どれくらいって?」
「凍土を超えられる?」
「それはない。凍土に人は入れない。海も凍っている」
「西の海と東の海って、本当につながってないのかしら? もしかして、大陸の南の先でつながってるってことはないのかしら?」
「それについては、公爵閣下と公子さまが新しい情報を持っているかもしれないね。それに商人ならもっと詳しいだろう」
ジュリエッタは侯爵の言葉にハッとした。
「そうね、商人なら外国の地理にも詳しいわね!」
ダメ鉱山を売りつけた商人と仲良くなって海に出た上に、バルベリまで連れてきた能天気父子にジュリエッタは呆れていたが、一転して、「でかした!」と言いたくなった。
***
翌朝、食堂に降りてきたレオナルダ父子の傍らには巨漢がいた。
(あの男が詐欺商人ね)
商人には、額から頬に袈裟懸の傷跡があり、獰猛に見える。肌は褐色で、目だけはサファイヤのように青く光り、うねうねと巻いた茶色みのある黒髪は腰に届くほど長かった。
商人のほうがよほど『黒い猛獣』の呼び名が似合う。
(はっ、この人は……)
ジュリエッタは商人について見抜くものがあった。
ジュリエッタは窓辺に立ち、街並みを見下ろしていた。城館前広場には、旅の荷物が山となっている。
(バルベリの春を見られないのは残念ね)
城下のいたるところに咲いていた水仙が、これからチューリップに置き換わっていくことだろう。
(来年はバルベリの春を見られるかしら)
予知夢でのジュリエッタは、バルベリ領に一度も出向くことがないまま死んだ。領地に興味もなかった。
しかし、今のジュリエッタは、バルベリの春も、そして、夏も秋も見たいと思っている。もちろん、侯爵と一緒に。
それが叶う日が来るのだろうか。
背後で侯爵が起きたらしく、ベッドがきしんだかと思うと足音が近づいてきた。
「おはよう、ジュリエッタ」
「おはようございます、侯爵さま」
侯爵は、ジュリエッタの肩にそっと掛布をかけると、横に並んだ。腕にダニーを抱いている。
侯爵は、同じベッドで寝ているにもかかわらず、いつぞやの宣言通り、指一本触れてこようとしない。
ジュリエッタの気持ちを大切にしてくれているに違いなかったが、それは同時にジュリエッタを少々傷つけてもいた。
(私にその程度の魅力しかないってことは確かね)
「良い天気だ」
「わたくし、騎乗で行きますけど、よろしいですわね?」
「えっ」
侯爵はジュリエッタを見てきた。そして、「はあ……」とため息をついた。いつも唐突なことを言い出して、言い出したら聞かないのがジュリエッタだ。
「わかった……、あとで馬を選びに行こう。それと、あなたにプレゼントがある」
「まあ! 何ですの?」
「それは見てからのお楽しみだ。そろそろ結婚記念日だが、あなたはそれを祝いたくはないだろうから、来月のあなたの誕生日を祝う品にさせて欲しい」
夫不在の結婚式を挙げたのは、ちょうど一年前のこと。結婚して半年は、自分の夫なのに戦場でどうなろうと全く気にならなかった。しかし、今では侯爵に情が湧いている。
「私の誕生日知っていたのね?」
「妻の誕生日くらい把握している」
「では、私にもあなたの誕生日を教えてくださる? そのとき、まだ『家族』なら祝いたいわ」
「俺の誕生日は、十日前に過ぎた」
「では、あなたは30歳になったのね?」
「あなたとの年の差が一つ大きくなってしまった」
侯爵は溜息をついた。その声音は、侯爵がジュリエッタに対して、身分だけではなく、年齢でも引け目に感じていることを思わせた。
(本当に遠慮深い人なのね。英雄なのだからもっと欲張ってもいいのに。あなたにとっても、私は押し付けられた相手でしかないでしょうに)
ジュリエッタは侯爵に求められたわけではない。国王が勝手に与えたものだ。侯爵にとってはありがた迷惑な褒賞だったはずだ。少なくとも予知夢ではそうだった。しかし、現実ではそうなりたくない。侯爵の重荷にはなりたくない。
シャルロットにしか侯爵を幸せにできないのなら、ジュリエッタは身を引くしかない。予知夢のようにいつまでも妻の座にしがみついて侯爵を苦しめたくはない。
予知夢の記憶がジュリエッタを苦しめる。
(侯爵はきっとシャルロットに惹かれてしまう。でも、もしも、シャルロットに惹かれないでくれるならば)
ジュリエッタは、手をこまねいて見ているつもりはなかった。
(せいぜい悪あがきをするわ)
***
王都へ向かう一行は、軍団と呼べるほどの大きなものとなった。
もともとの護衛騎士に加え、侯爵とマルコが引き連れてきた護衛騎士、それに何故か二人にくっついている商人らの一団もいる。
公爵とマルコは、騎乗姿のジュリエッタを見て、ずっこけそうになった。見れば、ハンナまで騎乗している。
(馬車はどうした、馬車は?)
一行に馬車の姿はない。
二人の視線を涼やかな顔でやり過ごすジュリエッタを見るに、どうせジュリエッタが「騎乗で行きますが、よろしいですわね?」などと我が儘を言い、侯爵が受け入れてしまったに違いなかった。
(それにしても何だ、その馬は?)
ジュリエッタの乗った馬は、全身黒毛だ。とても良い馬であることがひと目でわかるが、それは『黒い猛将』である侯爵を思わせる。
二人の視線にジュリエッタは得意げに口を開いた。
「この馬、侯爵さまがくださったの。ダンって名付けたのよ!」
次に二人は鞍に目を移す。その鞍は、赤と緑のコンビで、ジュリエッタのために特別に作られたものであるに違いなかった。
「鞍も侯爵さまがくださったの。誕生日プレゼントよ」
(侯爵殿ぉ……)
侯爵の色を思わせる馬にジュリエッタ色の鞍を乗せて、手綱をジュリエッタに握らせるのだから、侯爵は『妻の言いなり』を公言しているようなものだ。
(尻に敷かれるにもほどがある……! いいぞ、もっとやれ……!)
それにしても侯爵夫妻は仲睦まじい。見ている方が気恥ずかしくなるほどだ。
「侯爵さま、あそこに黄色い花が咲いているわ!」
ジュリエッタが指させば侯爵が馬をそちらに向けて、馬を降りてみずから花を摘んでくる。
「セツブンソウだわ!」
侯爵は手にした花を、ジュリエッタの髪に挿す。
「ジュリエッタ、とても可愛いよ」
ジュリエッタは真っ赤になるも、今度はジュリエッタが侯爵の手の中のセツブンソウを取って、侯爵の髪に挿す。
「侯爵さまも、素敵よ」
お揃いの花飾りをつけて、二人とも顔を赤く染める。そして、もじもじと照れながらも視線を絡ませ合う。
(くっ、まぶしいっ。ふう、仲良きことは美しきかな)
「父上、年内にもお子ができそうですね」
「わしもついにじいじか! じいじ、じいじ、うはははーっ」
「私も、伯父さんです。うふっ、うふふふーっ」
まだ見ぬお子を思って喜びにあえぐ父子の会話に、割り込んでくる巨漢がいた。二人とすっかり意気投合している商人マクシだ。
マクシは片言のブルフェン語で言う。
「あのふたり、まだ、夫婦、じゃないヨ」
「えっ?」
マクシは侯爵とジュリエッタをあごで指す。
「あの二人、マダ、清い関係ネ、私には、ワカルヨ」
マクシはウンウン、と、うなずきながら断言した。
***
一行は宿場町で宿を取ることになった。
当然のように侯爵とジュリエッタは同室で、ハンナとジミー少年、公爵とマルコの部屋割りになる。その他は大部屋に雑魚寝だったり、外に張った天幕で夜を過ごすことになった。
夕食を終えて部屋に戻ったジュリエッタは、早速、侯爵に訊いた。
「侯爵さま、ノルラントに海から攻められたことはありますの?」
王都を外敵から守るための情報収集だ。
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「ある。ノルラント軍の船はノルラント産の堅い木でできているから、とても丈夫だ。でも、地形が味方して、海から陸地へと攻められたことはない」
(やはり、ノルラントには軍船があるんだわ)
「地形が味方ってどういうことですの?」
「バルベリの西沿岸は、切り立った断崖だ。上陸するのは困難を極める」
「では、ブルフェンの西沿岸から、ノルラントが攻めてくることはないってことですの?」
「バルベリの真下に大公領がある。大公領で断崖は途切れて、浜になっている。なので、大公領にはブルフェンの軍船が厚く配備されているはずだ」
大公とは、国王と同じく、ジュリエッタの母の弟で、ジュリエッタにとっては叔父となる。
「大公殿下はノルラントの軍船に攻められたことはあるのかしら」
「あるだろうが、これも地形に恵まれて、大軍で攻めてくるのは無理だ。大公領の沖合は海底が複雑な地形で、水先案内なしで進むのは難しい。もたもたしている間に攻め返されて、陸地までたどり着ける軍船は少ないはずだ」
叔父のために、ジュリエッタはほっとした。ジュリエッタにとって、大公は『杖の叔父さま』だ。若いころ、みずから北方討伐軍の将軍として前線に立っていたが、戦場で足を痛めてしまった。
叔父は足が不自由な身でなお、ブルフェンを守る最前線にいるのだ。
ジュリエッタは初めてそのことを知った。
(私、本当に何も知らなかったわ。王都で贅沢することにしか興味がなかった)
「ノルラントの船はどれくらい丈夫なの?」
「どれくらいって?」
「凍土を超えられる?」
「それはない。凍土に人は入れない。海も凍っている」
「西の海と東の海って、本当につながってないのかしら? もしかして、大陸の南の先でつながってるってことはないのかしら?」
「それについては、公爵閣下と公子さまが新しい情報を持っているかもしれないね。それに商人ならもっと詳しいだろう」
ジュリエッタは侯爵の言葉にハッとした。
「そうね、商人なら外国の地理にも詳しいわね!」
ダメ鉱山を売りつけた商人と仲良くなって海に出た上に、バルベリまで連れてきた能天気父子にジュリエッタは呆れていたが、一転して、「でかした!」と言いたくなった。
***
翌朝、食堂に降りてきたレオナルダ父子の傍らには巨漢がいた。
(あの男が詐欺商人ね)
商人には、額から頬に袈裟懸の傷跡があり、獰猛に見える。肌は褐色で、目だけはサファイヤのように青く光り、うねうねと巻いた茶色みのある黒髪は腰に届くほど長かった。
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