22 / 32
22
高遠の屋敷に優月が戻ったことが伝えられれば、市太郎に美智子が出てきた。隆司までもいた。
市太郎はどかどかと足を踏み鳴らして出て来た。
昨日の暴力を思い出せば、優月の身がこわばる。そんな優月を励ますように由紀也が肩を抱いてきた。
市太郎は、優月を見据えて言った。
「優月、帰ってきたか。謝れば許してやらないでもない」
隆司も言ってくる。
「その人、叔父さんなんだってね。叔父さんなら優月ちゃんを心配するのも無理ないね。戻ってきたということは、叔父さんにも俺たちのことを理解してもらえたってことかな?」
市太郎も隆司も、優月に何をしでかしたのかも自覚がないようだった。昨日のようなことがあってまた戻ってくるとでも思っているのだろうか。婚約を継続するとでも思っているのだろうか。
優月は二人を見返した。
「わたし、帰ってきたんじゃないわ……。荷物を取りに来たの。もうこの家には帰らないわ」
「優月! 隆司くんは、お前の我が儘を許すと言ってるんだ!」
由紀也が優月に耳打ちする。
「この人たちは無視して入ろう」
優月と由紀也が靴を脱いで上がれば、市太郎が怒鳴る。
「入っていいのは優月だけだ! 由紀也、お前は去れ!」
優月は由紀也のシャツをぎゅっと握る。
(いやよ、行かないで。一人でここに残れば、何をされるかわからないわ)
由紀也は安心させるように優月の肩を抱く手に力を込めた。
「優月、大丈夫だ、俺がついてる」
「何だと?」
「市太郎さん、どくんだ」
市太郎は由紀也の低い声に気おされたのか、一瞬、たじろいだ。
その隙をついて、奥に向かう。
隆司の手が伸びて来れば、「優月に触るな」との由紀也の声に、隆司の手はビクッと引っ込んだ。
優月は自室まで駆けるようにして向かった。由紀也の存在がひたすら心強い。
二人が部屋に入ってドアを閉めると、ゴンゴンと打ち鳴らす音が聞こえてきた。
喚き声がする。
「優月、開けろ。その男に騙されるな。優月が心根を直せば、パパは許してやるんだぞ!」
「優月ちゃん! 開けて!」
ドアを由紀也が抑えている間に、荷物をまとめてしまわなければならない。
ハンドバッグにスマホと財布を入れる。
それから、部屋を見渡した。もうこの部屋に戻らないとなれば、何を持っていくべきなのか迷ってしまう。
「優月、買えるものは持って行かなくても良い。替えの利かないもの、愛着のあるものだけでいい」
由紀也の言葉に、優月は、卒業アルバムに母と祖父母の写真、短大のノートなどを、キャリーバッグに詰めていった。ハンドバッグを斜めに下げて由紀也のもとに向かう。
由紀也は優月のキャリーバッグを右手に持つと、左手で優月を引き寄せた。
まだドアの向こうからは喚き声は続いている。
「開けろ! 警察を呼ぶぞ!」
二人でドアの横に身を潜めるようにして立った。
由紀也の合図に優月はうなづき、由紀也はドアを開けた。勢い込んだ市太郎と隆司が、部屋の奥へとつんのめっていった。それをすり抜けて、廊下に出る。
美智子に前を塞がれるも押しのけて通り抜ける。
「優月さま」
「優月さま、お待ちください」
次々と使用人らが立ちふさがるも、それらを押しのけて玄関を出た。
自動車に乗ってもなお追いかけてきたが、すぐに姿は見えなくなった。
市太郎はどかどかと足を踏み鳴らして出て来た。
昨日の暴力を思い出せば、優月の身がこわばる。そんな優月を励ますように由紀也が肩を抱いてきた。
市太郎は、優月を見据えて言った。
「優月、帰ってきたか。謝れば許してやらないでもない」
隆司も言ってくる。
「その人、叔父さんなんだってね。叔父さんなら優月ちゃんを心配するのも無理ないね。戻ってきたということは、叔父さんにも俺たちのことを理解してもらえたってことかな?」
市太郎も隆司も、優月に何をしでかしたのかも自覚がないようだった。昨日のようなことがあってまた戻ってくるとでも思っているのだろうか。婚約を継続するとでも思っているのだろうか。
優月は二人を見返した。
「わたし、帰ってきたんじゃないわ……。荷物を取りに来たの。もうこの家には帰らないわ」
「優月! 隆司くんは、お前の我が儘を許すと言ってるんだ!」
由紀也が優月に耳打ちする。
「この人たちは無視して入ろう」
優月と由紀也が靴を脱いで上がれば、市太郎が怒鳴る。
「入っていいのは優月だけだ! 由紀也、お前は去れ!」
優月は由紀也のシャツをぎゅっと握る。
(いやよ、行かないで。一人でここに残れば、何をされるかわからないわ)
由紀也は安心させるように優月の肩を抱く手に力を込めた。
「優月、大丈夫だ、俺がついてる」
「何だと?」
「市太郎さん、どくんだ」
市太郎は由紀也の低い声に気おされたのか、一瞬、たじろいだ。
その隙をついて、奥に向かう。
隆司の手が伸びて来れば、「優月に触るな」との由紀也の声に、隆司の手はビクッと引っ込んだ。
優月は自室まで駆けるようにして向かった。由紀也の存在がひたすら心強い。
二人が部屋に入ってドアを閉めると、ゴンゴンと打ち鳴らす音が聞こえてきた。
喚き声がする。
「優月、開けろ。その男に騙されるな。優月が心根を直せば、パパは許してやるんだぞ!」
「優月ちゃん! 開けて!」
ドアを由紀也が抑えている間に、荷物をまとめてしまわなければならない。
ハンドバッグにスマホと財布を入れる。
それから、部屋を見渡した。もうこの部屋に戻らないとなれば、何を持っていくべきなのか迷ってしまう。
「優月、買えるものは持って行かなくても良い。替えの利かないもの、愛着のあるものだけでいい」
由紀也の言葉に、優月は、卒業アルバムに母と祖父母の写真、短大のノートなどを、キャリーバッグに詰めていった。ハンドバッグを斜めに下げて由紀也のもとに向かう。
由紀也は優月のキャリーバッグを右手に持つと、左手で優月を引き寄せた。
まだドアの向こうからは喚き声は続いている。
「開けろ! 警察を呼ぶぞ!」
二人でドアの横に身を潜めるようにして立った。
由紀也の合図に優月はうなづき、由紀也はドアを開けた。勢い込んだ市太郎と隆司が、部屋の奥へとつんのめっていった。それをすり抜けて、廊下に出る。
美智子に前を塞がれるも押しのけて通り抜ける。
「優月さま」
「優月さま、お待ちください」
次々と使用人らが立ちふさがるも、それらを押しのけて玄関を出た。
自動車に乗ってもなお追いかけてきたが、すぐに姿は見えなくなった。
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた
今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。
二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。
それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。
しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。
調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。
妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。