追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル

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34、元聖女、体調を崩す

     ***


 メアリーが宰相を罷免したり、その他の処分や人事を終えるのを見届けて、ウィルフレッドと私はグライシード王国への帰国の途についた。


「ちょっと温情をかけすぎた気もするが、おまえは良かったのか?」


 国を出る船の中で、甲板で私を後ろから抱きしめながら、ウィルフレッドはそう問いかける。

 私たちの視線の先では、“聖女”を見送りに港に集まった人々が手を振っている。


「もっと酷い罰だって甘んじて受けただろうに」

「大丈夫よ。
 もうあなたやグライシードに危害をくわえてこないことが大事だもの」


 メアリーが私に『謝罪』し『絶対の忠誠』を誓ったとはいえ、彼女と私は元通りの関係というわけにはいかない。
 それでも敵に回らないだけ良かったと、私は思う。


「まぁ、ルイーズが良いならかまわんが。
 俺にとって良かったのは、短い間だったが、おまえの育った国、育った城が見られたことだな。
 それに、ルイーズの両親の墓にも結婚の報告ができた」


 私は笑む。


「そうね。それは私も嬉しかったわ。きっと天国で喜んでくれてると思う」


 ヨランディアにいる間に、私の両親の墓に花を供えたいと言い出したのはウィルフレッドだった。
 そういうところは意外と律儀だったりする。


「ただ……」


 港が遠ざかると、私を抱きしめたまま、少し甘えるようにウィルフレッドは私の肩に頭をのせる。


「おまえが慕われすぎていて、ヨランディアではなかなか2人きりになれなかったな」

「えっと……十分なってた気が……するけど?」

「全然足りなかったぞ、“聖女猊下”」


 ウィルフレッドは私の顔を覗き込む。
 魅力的きわまりない顔が至近距離。
 見つめられるといまだにドキドキする。


「ずっと我慢してた。やっとルイーズを独り占めできる」

 
 我慢って言葉を辞書で引いてみなさい、なんて軽口も、そんな瞳で見つめられると言えないじゃない。

 そうして重ねられた彼の唇には、私を欲しがる熱が込められていた。


     ***


 帰国して、こちらのミリオラ宰相と、すっかり元気になったイヴェット、その他の面々に迎えられ、私たちはいつもの日常に戻る。

 ただ、帰国後、ひとつ小さな異変が起きた。



「────やっぱり、城で休んでいた方が良かったか?」

「うーん……良くなったと思ったんだけど……」


 とある視察の帰り道。
 体調を崩した私は、馬車の中でウィルフレッドの膝に頭をのせて横になっていた。

 ヨランディアから帰ってきて以来、疲れが出たのか、ずっと微熱が出て、頭がふわふわして、なかなか仕事に集中できない日々が続いている。

 最近は極力外出を控えていて、ただ今日はちょっと体調が良いかなと思ってウィルフレッドの視察に同行させてもらったのだけど、結局こんな感じだ。


「今日のは、もしかして馬車酔いかも。乗り物に酔ったことなんてなかったのに、歳とったからかしら?」

「具合が悪い時に無理をしても、後で何倍にもなって返ってくる。
 思いきってしばらく休め」

「ええ……ありがとう」


 ウィルフレッドが私の頭を撫でてくれているその指が、気持ちいい。

 もうすぐウィルフレッドの誕生日もやってくる。
 その準備もあるから早く体調が戻ってほしい。
 贈り物を何にするかもまだ迷っているのに。

 ようやく馬車が城につき、私は身体を起こした。
 馬車をおりる。
 ……と。

 王城の中ぐらいだったら全然歩いても良かったのに、ウィルフレッドは私を抱き上げた。


「! 人前でしないって言ったわよね??」
「具合が悪いのに、そんなこと言ってる場合か?」


 あっさりウィルフレッドに却下される。


「だって……その……」
「行くぞ」


 軽々と抱き上げられたまま、私は王城の中を運ばれていく。
 みんなの視線がとっても痛い。顔が熱い……。

 寝室に戻ると
「王妃陛下! 大丈夫でいらっしゃいますか!?」
 とスタンバイしていた侍女たちが駆け寄ってくる。

「ルイーズの着替えを頼む」

 ウィルフレッドは私をベッドに下ろしながらそう指示を出して、一度1人部屋を出ていった。


「大変でございましたね。
 さぁ楽な格好に着替えて、ゆっくりおやすみくださいませ」

「身体を冷やさないようにいたしましょう。お水でなくお白湯の方が良いでしょうか」


 侍女たちは私を過保護に気遣いながら寝間着に着替えさせていく。


(重病とかすごくしんどいというわけじゃないのに、ちょっと大げさな気がするんだけどな……)


 着替えを終えて、身体に優しく布団をかけられた時、再びウィルフレッドが部屋に入ってきた。
 侍女の1人が、私の好きなお茶を2人ぶん淹れてくれる。

 ウィルフレッドはベッドサイドの椅子に腰掛け「少し眠るといい」と声をかけてくる。
 何だかこの間と立場が逆だわ。そう思いながら侍女の手からお茶を受け取った。


「何なのかしらね。早く治って欲しいんだけど……ん?」

「どうした?」

「何でもない……と思うんだけど。なんだか、においが」

「におい?」


 侍女が淹れてくれたお茶を飲もうとしたら、いつもは大好きなその香りが妙にきつく感じた。
 においが変わっているわけじゃないのに。

 しばらく飲もうと試してみて、やっぱりきつくてティーカップをサイドテーブルに置く。
 疲れって、こういう出方もするものかしら。

 ウィルフレッドの方に目をやると、眉根を寄せて、何か指折りして数えている?


「どうかした?」
「ああ、いや……ルイーズ」


 紅潮した顔で、それでも何かを抑えるように、ウィルフレッドはこちらに顔を向けた。


「前の月のものから、何日たっている?」

「………………へ?」


 私もつられてウィルフレッドと同じ様に指折り数える。
 間もなく私の口から「あ」という声が漏れた。

 ヨランディアへの行き来を挟んであわただしくて、意識していなかったけど、良く考えると日数がもう……?


「…………医師を呼ぼうか」


 結論を急ぐ気持ちを抑えるように、ウィルフレッドがそう言った。
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