旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

名だけの妻

セリーヌの側にアルベリックとエリザが一緒に歩きエリザはアルベリックの腕に手を回し笑みを見せていた。
「……」
「旦那様…」
三人の庭師は頭を下げセリーヌは腰を下ろしたままアルベリックとエリザを見上げていた。
「…作業の続きをしてくれ」
「「「はい」」」
庭師の三人はセリーヌの側を離れた…セリーヌが気になるが使用人の自分達は何も出来ない…
セリーヌは、下ろした腰を上げパタパタと服に付いた泥を落としアルベリックとエリザに頭を下げた。
「セリーヌさん、花の手入れではなかったの？そんなに服を汚して、誰か来たらどうするの？貴女は、まだアルベリックの妻なのよ」
「……」
セリーヌは、エリザの話しを黙って聞いていた。
「エリザの言うように君は僕の妻なんだ。庭の手伝いをしてもいいが誰が見ているか分からないんだその事を気をつけて欲しい」
「……わかりました…」
セリーヌは、何故二人がここへ来たのか自分に小言を言う為に来たのか…セリーヌは、アルベリックの妻と名だけでこんなに惨めな思いをしなくては成らないのか…エリザに子供が出来るまで自分は、二人の愛し合う姿を見なくてはならないのかと今は耐えるしかなかった。
「もうすぐ昼食だ。その前に着替えるように」
「わかりました…」
「セリーヌさん、食卓で会いましょう」
「…はい…」
「行きましょう、アルベリック」
「ああ…」
アルベリックとエリザは奥の道へと歩き出した時、執事が屋敷の方から走る姿が見えた。
「旦那様、旦那様！」
息を切らして執事はアルベリックを呼び止めた。
「どうした？」
「そ、それが…フェリクス様が…侯爵様が旦那様にお話しがありますと屋敷へ来られまして……」
「フェリクス侯爵が？」
「はい、急用でと申されて…」
「分かった直ぐに行く」
「あの…奥様もご一緒にと申されて…」
「セリーヌを？」
「え！？」とセリーヌは何故自分も呼ばれたのか分からなかった。
「しかし…」
アルベリックは泥と誇りまみれのセリーヌを連れて行けば侯爵の怒る顔が目に浮かんだ。
「あら、迷う事ないわ。わたくしが一緒に行くわ」
「！エリザ…しかし…」
「その侯爵様、結婚式には呼んでいないんでしょう？」
「ああ、そうだが…」
「もうすぐ貴方の妻になるのわたくしが侯爵様にお会いするわ」
笑顔を向けるエリザにアルベリックはセリーヌを見て納得した顔を見せエリザと一緒に侯爵に会う事にした。
「侯爵を待たせては悪い、行こうエリザ」
「ええ、旦那様。セリーヌさん、早く着替えて先に食事をしてもいいわ」
「……」
アルベリックとエリザは、侯爵を待たせている屋敷へと急ぎセリーヌは一人、花を見ては今母は何をしているのだろうかと…屋敷へ来てからセリーヌは母親の事を考えるようになっていた。