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塗り薬

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フランシスとシャロンが会っている事を知らないフォスティヌは学生バッチを落とした青年を捜していた。
「えっ?え…さっき別れたのに…もうっ、何処に行ったの~~っ!?」
キョロキョロとすれ違う学生達の傍を通りすぎ青年を捜し続けていた。
ドンッ!
「痛っ!?…す、すみません、前を見て…あっ!!」
フォスティヌは、また鼻を手にあて顔を見上げると先ほどの青年が目の前に立っていた。
「……何か用か?」
「えっ…」
じっと見下ろす青い目に笑顔がなくフォスティヌに尋ねていた。
「あ…あの…バッチを落としませんでしたか?」
青年は制服にバッチが付いていない事に気付き、フォスティヌが手に持っているバッチに目を向けた。
「…俺のだな…」
「良かったです…すみません、私がよそ見をしていたので…」
(まさか、二回もあたるなんて…鼻がジンジンする…真っ赤になっていたらどうしょう…兄様に心配かけてしまうわ)
フォスティヌは青年にバッチを渡し、受け取った青年は制服の胸ポケットにバッチを付け終えフォスティヌの方へ顔を向けた
「……」
フォスティヌはバッチを渡し用が済んだので帰ろと頭を下げかけた時だった。
「…その鼻はどうした?」
「え?鼻!?」
顔を上げたフォスティヌは両手で鼻を隠し顔が真っ赤になっていた。
(ええ~~っ!?何、何?…まさか鼻が真っ赤になっていたって事~~っ!?)
今にも泣きそうなフォスティヌに「はぁ…」と青年がため息を吐く声が聞こえ、真っ青になっているフォスティヌはすぐにでもこの場から走り出したいと思っていた。
(私、この人嫌い!兄様だったらため息なんて吐かないし、心配してくれるし…兄様、何処に行ってしまったの…)
「おい、鼻を見せてみろ」
「え?……どうしてですか?」
「薬を塗るからだ」
「薬?!」
青年の手に小さな丸い塗り薬の容器をフォスティヌに見せていた
「……あの…この薬はなんですか?」
「植物から作った薬だ。俺も使っているやつだ」
「え?!」
両手が鼻から離れた時、ヌルッと鼻の頭を冷たい液がペタッと塗られたフォスティヌは驚き後ろへ後退りをした。
「動くな」
「え…」
動くなと言われたフォスティヌは鼻の頭に塗り薬を付ける青年の顔がまともに見る事が出来ずにいた。
(え、え?なんで私この人から薬塗って貰っているの?それに…近いし…兄様と…)
初めてのキスを思い出したフォスティヌは真っ赤な顔と冷や汗が出ていた。
「……フランシスの婚約者…か?」
「え…あっ、はい。フォスティヌと言います」
薬を塗り終えた青年はフォスティヌの手に塗り薬の容器を渡した。
「…あの、これは…」
「残り少ないが使うと良い、鼻が赤いままだとフランシスが心配すると困るだろう」
「……」
青年はフォスティヌに容器を渡し傍を離れた。
「あ!…名前…あ~あ、聞きそびれちゃった…」
フォスティヌは青年の姿が見えなくなると薬の容器を開けた。
「……本当だ…残りあと一、二回分…塗り薬を持ち歩いている人初めて見た…」
フォスティヌは鼻に指先を触るとボソッと呟いていた。
「……少し兄様に似ていたかも…」



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