フェリペとアラゴン王家の亡霊たち

レイナ・ペトロニーラ

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21、僕が修道院に入れられた理由

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 15歳になった僕はニコラス先生の友人である医者の家に引き取られることが決まった。7歳から15歳までの8年間、修道院の中にある孤児院で暮らした。修道院は街から遠く離れた場所にある。ニコラス先生や護衛の人と一緒に馬車に乗り、新しい家族の住む街へ向かった。馬車は広い修道院の敷地から外に出た。見えるのは遠くの山と黄土色の大地、くすんだ緑の草や木だけである。雨が少ない土地なので川の水も茶色く濁っているし、たまに小さな村が見えても壁は茶色、単調な景色が続いて眠くなってくる。




 7歳の時、僕は同じような景色を見ながら、父さんと一緒に馬車で修道院に来た。僕の父さんはユダヤ人の商人でかなり金持ちであった。僕は大切に育てられたが、5歳の時に母さんが病気で死んでしまった。父さんはすぐに再婚したが、僕とは血が繋がらないこの継母が最悪だった。僕は毎日苛められ、何度も父さんに訴えたがうまく対処はしてくれなかった。やがて継母に子供が生まれ、僕は修道院に入れられることが決まった。

「フェリペ、今は母さんが子供が生まれて大変な時期だ。父さんも仕事が忙しくてお前のそばにいてやれない。だからしばらくの間これから行く修道院で暮らして欲しい」
「しばらくってどれくらい?」
「2,3年して落ち着いたら迎えに行く。これから行く修道院は広い敷地があり、修道士以外の村人もたくさん住んでいる。孤児院にたくさんの子供がいるからすぐ友達もできるし、礼拝堂でお祈りしたり、羊やヤギの世話をしたりと珍しい体験がたくさんできる」
「うん、わかった。楽しそうだね」

 馬車の中で僕はまだ新しい生活を夢見てウキウキしていた。でも実際に孤児院に暮らすようになってそれは絶望に変わった。孤児院にいる子は1人を除いてみんな年下ばかり、そこの生活しか知らないから食事がまずいこと、お祈りの時間が長いこと、畑仕事や家畜の世話が大変なことについて誰も文句を言わない。でも僕は7歳まで街で暮らしていたのだから、そんな暮らしにすぐにうんざりした。父さんと約束した2,3年、10歳になるまで我慢したが、それでも父さんは迎えには来てくれなかった。僕は死ぬことを考えた。修道院では規則を破った修道士が鞭打ちの罰を受けることがあった。大人の修道士でも悲鳴を上げるような罰なら、子供で体も小さい僕なら死ぬことができると考え、わざと仕事を怠けて鞭打ちの罰を受けるようにした。でもそんなことでは死ねなかった。僕はすべてに絶望して生きる気力をなくしていた。

 そんな僕を心配して、病院で働くニコラス先生が特別に勉強を教えてくれるようになった。その時間が待ち遠しくて、僕はまじめに仕事もするようになった。そして15歳になった今、先生の友人の家に引き取られることが決まった。結果として僕の人生はうまくいっている。でも最悪だった10歳のころを思い出すと、父さんを恨む気持ちも出てくる。僕はもう7歳になっていた。家にいて家族と一緒に暮らすのが難しいなら、親戚や学者の家に預けるとか方法はいくらでもある。両親がそろっていても、勉強を続けるために学者の家に子供を預けるというのはよくあることだった。そうしてくれれば僕の将来もずっと可能性があるはずだった。








 父さんはユダヤ人の中でも特別な教えを受け継いでいた。生まれ変わりを信じ、その中で魂を磨いて神に近付くことが最も価値あることだと考えていた。

「フェリペ、亡霊をむやみに怖がったり忌み嫌ってはいけない。彼らは特別な意味を持ってこの地上に残っている」
「特別な意味?」
「普通の人間は死んだ後、前世の記憶などすべて忘れて生まれ変わる。だが、深く傷ついた体験をしたり、その時代の価値観から大きく離れてしまった場合、魂はその記憶だけ切り離して生まれ変わることがある」
「・・・・・」
「切り離された魂は亡霊として長い時間さ迷うことになる。だがもしも、切り離された魂が生まれ変わった元の人間に出会うことができたなら、素晴らしい奇跡が起きる」
「素晴らしい奇跡?」
「切り離された魂と元の魂が1つになり、前世の記憶を持つ魂となれるのだ。それは神に近付くための大きな飛躍となる」
「よくわからない」
「お前にはまだ難しいかもしれない。だがお前はきっとそんな切り離された魂、亡霊と会うことができる」
「亡霊とはどこで会えるの?」
「そうだな、1番よいのは修道院かもしれない。修道院なら自然が豊かで修道士の祈りに満ちて悪いものが近づかない。亡霊と話をするには最適な場所だ」

 まさか!父さんは僕が修道院でアラゴン王家の亡霊、特に深い絆で結ばれているハインリヒ7世と会うことがわかっていて、わざと僕を・・・いや、そんなことはない。子供の将来を考える普通の親ならこの場合は親戚や学者の家に預けるだろう。亡霊と出会って人生が変わるなどという奇跡に近いことを期待するよりも・・・
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