大酒飲みは虎になったことを忘れてしまう

うしお

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39、渇望リップス

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「……あー、やっちまったなぁ」

「うん、うっかりしてたね」

厚手のバスタオルを敷いた布団の上で、全裸のまま大の字になりながら唸れば、息子がくすくすと笑いながら目の上にのせていた濡れタオルを冷たいものに変えてくれる。
ずいぶんとぬるくなっていたらしく、ひんやりとした感覚が心地よかった。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる息子に、少しだけ妻の面影を感じる。
それもそうだろう。
こいつは俺の息子だが、同時に彼女の息子でもあるのだから。
そういや、やけに思いきりのいいところなんかは、彼女に似てるかもしれねぇな。

好きなやつがいるという息子を煽って、さっさと告白しろとけしかけたら、その相手がまさかの俺だった。
本当なら、血も繋がっている俺なんかを選ぶな、と説得するべきところなんだろうが、息子の顔を見たら、そんな建前なんてどうでもよくなっちまった。
こっちまで緊張するくらい真剣で、少し強張っているように見えた息子の顔は、俺の好みそのものだった。
俺に断られると思っているからなのか、青ざめているようにも見えるその表情かおは怯える小動物のようで、うるうると潤んだ目に見つめられた俺の心臓は、一発で撃ち抜かれてしまったのだ。
たぶん、俺の返事一つで、こいつは天国にも地獄にもいくのだろうと思ったら、ぞくぞくと震えた。
こいつに言うつもりはねぇが、思いきり泣かせたいと思った。
もちろん、悲しみじゃなく、喜びで、だ。
俺が幸せにしてやるって宣言は、口先だけの言葉にするつもりはない。
やるからには、しっかり幸せにしてやろうと思っている。

「お前もちゃんと冷やしとけよ」

「うん、わかってるよ。それより、水分も取らなきゃだろ。そ、その、スポーツドリンクとかさ、飲むかなって、持ってきたんだけど」

言われて初めて気がついたが、熱めの風呂に長くつかりすぎたせいで、喉がからからだった。

「ああ。そいつはいいな、飲ませてくれよ」

「え、あ、えっと、それで、ストローとかないからさ、その……」

息子は、急にもじもじとし始め、ごにょごにょと呟きはじめた。
すぐにぴんときた俺は、少しきつめの声で息子を急かす。

「おい、喉がかわいてんだ。早く寄越せよ。……お前が飲ませてくれんだろ?」

「う、うん。……おれが、飲ませる」

しまった、タオルをずらしてからにすればよかった、と思う。
声だけでもわかる蕩け具合に、無性に息子の顔が見たくなった。
どんな顔をして、俺に口移しでスポーツドリンクを飲ませようとしているのか、と。

「タオル、ずらしてからにしろよ」

「え……っ、そ、そのままでいいだろ? まだ、冷めてないだろうし」

「いいから、ずらせよ。お前の顔が見たい」

「……うん」

少しの眩しさを我慢すれば、そこには頬を赤らめた息子の顔があった。
その手には、スポーツドリンクのペットボトルがあり、蓋はすでに外されている。
とっくに、パジャマでも着ているだろうと思っていた息子は、腰にタオルを巻いただけの姿で、そのタオルの中心はすでにゆるりと持ち上がっていた。
タオルの裾をさりげなく引いて、必死に勃起を隠そうとしているのが、可愛らしくていじめたくなる。

「ほら、早く飲ませてくれ。家にはストローがねぇからな。お前が代わりを、やってくれるんだろ?」

「…………ぅん。オヤジが、嫌じゃ、なければ」

「変な遠慮すんじゃねぇよ。恋人のキスを嫌がるやつなんかいるのかよ。バカなこと言ってねぇで、さっさと飲ませてくれよ」

「……こ、こぃ……っ、そ、そうだよな、こっ、恋人なんだもんな」

「ほら、早くしてくれねぇと、干からびちまう」

再び催促してやれば、顔を真っ赤にした息子が、ペットボトルに口をつけ、スポーツドリンクを口に含んだ。
だが、それはいつまでたっても、俺のところまで届かない。
俺の口を見てばかりいて、なかなか近付いてこようとしないのだ。
口に含んだスポーツドリンクをごくりと飲んでは空にしてしまい、また新しい一口を口に含んでいる。
これでは、俺が飲むより先に、ペットボトルの中身がなくなってしまいそうだ。

「お前ばっかり飲んでねぇで、早く俺にも飲ませてくれよ。ほら、さっきから待ち構えてんだぞ」

「ご、ごめ……っ」

「謝んなくていいから、早くキスしにこいよ。俺はもうしたくてたまんねぇよ」

「…………うん、おれも、したかった」

「ああ、ちゃんと、カモフラージュのそれも飲ませてくれよな」

「……カモフラージュだって、気付いてたんだ」

「そりゃあ、あれだけバレバレで気付かねぇ方がおかしいだろ」

「そ、そうかな……っ」

「話がしたいならあとで聞いてやるから、キスさせろよ。お前がしてくれねぇと、俺からは行けねぇんだからな」

「…………ぅん」

ますます顔を赤くした息子が、俺の枕元にちょこんと座り、お辞儀をするように体を屈める。
近すぎて、ちょっと窮屈そうだ。

「そこじゃ、近すぎんだろ。下から来いよ」

きょとんとした顔でこちらを見る息子は、俺の言った意味に気付いて、ごくりと喉を大きく鳴らせた。
いつになったら、飲ませてもらえるのか、あやしいもんだな。
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