この上なく愛

天宮叶

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ブレスレットと再会

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 月に二回、街に出て薬の買い出しをするのが日課になっている。今月は薬の注文が多かったため、少し早めに買い出しに行くことにした。ライアン様の姿はあれから二週間ほど見てはいない。

 また来てくれると言ってくれたけれど、期待しすぎるのは良くないとわかっている。それに、呪いをしてしまったという罪悪感もあるから。会えたとしても上手く話せる自信なんてない。

(想い人とはうまくいっているのかな……)

 媚薬を使い、乱れるライアン様を想像すると、泣きたい気持ちになってきた。髪先にはいまだにライアン様の指の感触が残っている。そっと毛先に触れれば自然と笑みがこぼれてくるんだ。

 大きな籠を持ち街へと向かう。いつも静かな場所で過ごしているせいか、繁華街を見て回るのは胸が躍る。それに、街の人がライアン様のことを話していることも多いから。彼のことを知ることができることが、なによりも楽しいんだ。

 目当ての薬材を買い終えるとぶらぶらと店を見て回る。ふと装飾店の店頭に置かれたブレスレットに目が留まった。小さな琥珀石がはめ込まれていて、華奢ながらもとても洗練されたデザイン。まるでライアン様を彷彿とさせる。

 吸い込まれるように店頭へと近づく。周りなんて見えていなかった。ゆっくりとブレスレットへと手を伸ばす。刹那、骨ばった大きな手と自身の手が重なった。

「すまない」

 聞き覚えのある声に反応して振り向く。少し上を見上げると、ブレスレットを取るために背を丸めたライアン様と目が合った。至近距離に驚いて離れる。

「っ、ライアン様」

「やはりベルだったのか」

 やはりとはどういうことなんだろう。ブレスレットを手に取ったライアン様が、僕の方へと視線を向けてくれた。

「遠目からベルがこの装飾店を見つめているのが見えたんだ。話しかけようと思ったら、このブレスレットが目に留まってね」

 掌に乗せられたブレスレットを弄びながら、ライアン様が笑みを浮かべる。話しかけようとしてくれたことが嬉しいと思う。それに同じものに惹かれたことに運命すら感じた。

「プレゼントしようと思ったんだ」

 でも、ライアン様のその言葉で喜びが飛散する。想い人への贈り物だったのだとわかったからだ。僕も欲しかったけれど、二人の関係を邪魔したくなんてない。だから、諦めることにした。

 胸が苦しくなる。今にも花を吐いてしまいそう。逃げ出したい。ライアン様の傍に居ると、どうしても彼の想い人の影を見てしまう。

「店主、これをもらおう」

「ありがとうございます。包まれますか?」

「そのままでかまわない」

 贈り物なのに包まないことへ疑問を抱く。会計を終えてブレスレットを受け取ったライアン様が、おもむろに僕の腕を取ってきた。優しい手つきと、感じる体温に苦しさが消えていく。

「これをベルに贈りたいと思ったんだ。良く似合っている」

「僕にですか?」

 左手首に着けられたブレスレットが、日差しを反射してキラキラと輝いている。戸惑いが大きいのに、嬉しさの方が勝っていて口元が緩む。

「っ、とても嬉しいです。……てっきり好きな方への贈り物だと思っていました」

「好きな方か……。確かに俺は君のことが気になるようだ」

 一際大きく胸が高鳴る。聞き間違い? 都合のいい夢を見ているのではないだろうか。言われた言葉が信じられず、頭の中に疑問が巡る。

「か、からかわないでください」

「からかってなどいないのだが」

 そっぽを向く僕のことを見つめながら、ライアン様はクスリと笑みをこぼした。夢じゃないし、からかってもいない?

だとするなら……きっとこれは呪いのせいだ。ふと一つの可能性が頭の中に浮かぶ。

 あの呪いを教えられたのは、義母に花患いだと告白した日だった。「スイートバイオレットを使った面白い呪いがあるのよ」と楽しげに教えてくれた彼女。僕の命を守るために教えてくれたのだということは理解していた。花患いは両思いにならなければ完治しない病だから。

「媚薬を使いたいと思うほどの方がおられたのでは?」

 あんなことまじないなんてするべきではなかったんだ。解き方なんてわからないけれど、ライアン様が本来愛したいと思える人を愛してほしい。だから、あえて媚薬の話題に触れてみた。

 罪悪感で胸が張り裂けそうだった。僕のことを好きになってくれたらどんな気持ちになるだろうかと何度も想像していたのに……。こんな形で想いを遂げても、嬉しくなんてない。後悔ばかりが浮かんでくる。

「ベルは勘違いをしている。あの薬は俺の上司に頼まれたものなんだ。恋人と趣向の変わった逢瀬を行いたいからと言われてな」

 上司のことを思い出したのか呆れ口調で教えてくれる。ライアン様の上司ということは、オーウェン国王陛下のことだろうか。王妃の席は未だ空席であり、誰もが王妃の席を狙っている。たしか、陛下には平民出身の恋人がいたはずだ。

突然陛下の性生活について暴露されてしまい言葉が出てこない。勘違いしていたことも恥ずかしかった。ますます、焦って呪いをしてしまったことを悔いる。

 でも、ライアン様に想い人がいないとわかって嬉しくもあった。まだ、自分にもチャンスがあるのだと安心したのかもしれない。心の奥底では、ライアン様が自分のことを本気で好きになってくれないだろうかと期待しているんだ。そんな願望を捨てきれない。

「よかったら一緒に街を見て回らないか?」

「っ! 喜んで」

 思いがけない提案に顔がほころぶ。まだ一緒にいられることがたまらなく嬉しい。なによりも、忙しいのに僕のために時間を割いてくれることが幸せだ。

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