4 / 12
ブレスレットと再会
しおりを挟む月に二回、街に出て薬の買い出しをするのが日課になっている。今月は薬の注文が多かったため、少し早めに買い出しに行くことにした。ライアン様の姿はあれから二週間ほど見てはいない。
また来てくれると言ってくれたけれど、期待しすぎるのは良くないとわかっている。それに、呪いをしてしまったという罪悪感もあるから。会えたとしても上手く話せる自信なんてない。
(想い人とはうまくいっているのかな……)
媚薬を使い、乱れるライアン様を想像すると、泣きたい気持ちになってきた。髪先にはいまだにライアン様の指の感触が残っている。そっと毛先に触れれば自然と笑みがこぼれてくるんだ。
大きな籠を持ち街へと向かう。いつも静かな場所で過ごしているせいか、繁華街を見て回るのは胸が躍る。それに、街の人がライアン様のことを話していることも多いから。彼のことを知ることができることが、なによりも楽しいんだ。
目当ての薬材を買い終えるとぶらぶらと店を見て回る。ふと装飾店の店頭に置かれたブレスレットに目が留まった。小さな琥珀石がはめ込まれていて、華奢ながらもとても洗練されたデザイン。まるでライアン様を彷彿とさせる。
吸い込まれるように店頭へと近づく。周りなんて見えていなかった。ゆっくりとブレスレットへと手を伸ばす。刹那、骨ばった大きな手と自身の手が重なった。
「すまない」
聞き覚えのある声に反応して振り向く。少し上を見上げると、ブレスレットを取るために背を丸めたライアン様と目が合った。至近距離に驚いて離れる。
「っ、ライアン様」
「やはりベルだったのか」
やはりとはどういうことなんだろう。ブレスレットを手に取ったライアン様が、僕の方へと視線を向けてくれた。
「遠目からベルがこの装飾店を見つめているのが見えたんだ。話しかけようと思ったら、このブレスレットが目に留まってね」
掌に乗せられたブレスレットを弄びながら、ライアン様が笑みを浮かべる。話しかけようとしてくれたことが嬉しいと思う。それに同じものに惹かれたことに運命すら感じた。
「プレゼントしようと思ったんだ」
でも、ライアン様のその言葉で喜びが飛散する。想い人への贈り物だったのだとわかったからだ。僕も欲しかったけれど、二人の関係を邪魔したくなんてない。だから、諦めることにした。
胸が苦しくなる。今にも花を吐いてしまいそう。逃げ出したい。ライアン様の傍に居ると、どうしても彼の想い人の影を見てしまう。
「店主、これをもらおう」
「ありがとうございます。包まれますか?」
「そのままでかまわない」
贈り物なのに包まないことへ疑問を抱く。会計を終えてブレスレットを受け取ったライアン様が、おもむろに僕の腕を取ってきた。優しい手つきと、感じる体温に苦しさが消えていく。
「これをベルに贈りたいと思ったんだ。良く似合っている」
「僕にですか?」
左手首に着けられたブレスレットが、日差しを反射してキラキラと輝いている。戸惑いが大きいのに、嬉しさの方が勝っていて口元が緩む。
「っ、とても嬉しいです。……てっきり好きな方への贈り物だと思っていました」
「好きな方か……。確かに俺は君のことが気になるようだ」
一際大きく胸が高鳴る。聞き間違い? 都合のいい夢を見ているのではないだろうか。言われた言葉が信じられず、頭の中に疑問が巡る。
「か、からかわないでください」
「からかってなどいないのだが」
そっぽを向く僕のことを見つめながら、ライアン様はクスリと笑みをこぼした。夢じゃないし、からかってもいない?
だとするなら……きっとこれは呪いのせいだ。ふと一つの可能性が頭の中に浮かぶ。
あの呪いを教えられたのは、義母に花患いだと告白した日だった。「スイートバイオレットを使った面白い呪いがあるのよ」と楽しげに教えてくれた彼女。僕の命を守るために教えてくれたのだということは理解していた。花患いは両思いにならなければ完治しない病だから。
「媚薬を使いたいと思うほどの方がおられたのでは?」
あんなことなんてするべきではなかったんだ。解き方なんてわからないけれど、ライアン様が本来愛したいと思える人を愛してほしい。だから、あえて媚薬の話題に触れてみた。
罪悪感で胸が張り裂けそうだった。僕のことを好きになってくれたらどんな気持ちになるだろうかと何度も想像していたのに……。こんな形で想いを遂げても、嬉しくなんてない。後悔ばかりが浮かんでくる。
「ベルは勘違いをしている。あの薬は俺の上司に頼まれたものなんだ。恋人と趣向の変わった逢瀬を行いたいからと言われてな」
上司のことを思い出したのか呆れ口調で教えてくれる。ライアン様の上司ということは、オーウェン国王陛下のことだろうか。王妃の席は未だ空席であり、誰もが王妃の席を狙っている。たしか、陛下には平民出身の恋人がいたはずだ。
突然陛下の性生活について暴露されてしまい言葉が出てこない。勘違いしていたことも恥ずかしかった。ますます、焦って呪いをしてしまったことを悔いる。
でも、ライアン様に想い人がいないとわかって嬉しくもあった。まだ、自分にもチャンスがあるのだと安心したのかもしれない。心の奥底では、ライアン様が自分のことを本気で好きになってくれないだろうかと期待しているんだ。そんな願望を捨てきれない。
「よかったら一緒に街を見て回らないか?」
「っ! 喜んで」
思いがけない提案に顔がほころぶ。まだ一緒にいられることがたまらなく嬉しい。なによりも、忙しいのに僕のために時間を割いてくれることが幸せだ。
320
あなたにおすすめの小説
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる