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ブレスレットと再会2
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「行こう」
おもむろに大きな手が僕の手を包みこむ。そのまま大通りを歩き出した。今にも心臓が爆発してしまいそうだ。好きっていう気持ちが滝みたいに溢れてくる。
このままずっと手を繋いでいたい。ライアン様の隣を歩いていたいんだ。半歩後ろから、大きな背を見つめる。この逞しくて安心感のある後ろ姿を忘れたことはなかった。当時十二歳だった幼い僕を救ってくれた彼に、恋をした悲劇の日のことを……。
「どうして薬屋をしているんだ?」
歩幅を合わせるように、隣に並んでくれたライアン様が尋ねてくる。義母の顔を思い出して、懐かしさが胸を覆う。
「義母が営んでいた薬屋を継いだんです。身寄りのなかった僕を拾って、一人前に育ててくれた優しい人でした」
「そうだったのか。君の腕がいいのは義母様のおかげなんだな」
「はい。自慢の義母なんです」
満面の笑みを浮かべると、ライアン様も笑い返してくれた。それがなんだかむず痒い。へへって照れたのを隠すように笑みを漏らすと、繋いだ手の甲を長い指先がそっと撫でてくれる。
「ベルは笑うと少し幼く見える」
「子供っぽいってことですか?」
僕は二十一歳でライアン様は今年で三十二歳になられるはずだ。年の差があるから、釣り合うように常に落ち着いた行動を心がけている。なのに、そんな風に言われてしまうと少し悔しい。
「いや、とても可愛いらしい」
柔らかい声音が鼓膜を揺らす。湯気が出るんじゃないかと思うくらいに顔が熱い。ライアン様の一言一句に心を踊らせてしまう。こんなにも幸せ。
それなのに、一瞬後には泣きたい気持ちが襲ってくる。ライアン様が僕のことを気にかけてくれるのは呪いの効果だ。もらった言葉は全部作られた物で、本物ではない。唇を噛み締めて、泣くのを耐える。お腹の奥からなにもかもを吐き出してしまいそうな心地がした。
「っ、すごく嬉しいです」
無理矢理笑みを浮かべる。本当に泣いてしまいそうだったから。僕は最低だ。泣く資格すらない。嬉しいのに辛い。
繋いだ手から感じる温もりを、今すぐにでも手放してしまいたかった。謝罪をして、その気持ちは作られた偽物なのだと伝えないといけない。
わかっているんだ。なのに、この一時を手放したくないと感じてしまう。琥珀の瞳が浅ましい僕のことを見透かしている気がした。
「僕、用事を思い出してしまって……」
逃げるように手を離す。訝しげに眉を寄せたライアン様にへらりと作り笑いを向ける。
「なにかあったのか?」
心配の色を含んだ声をかけられて、首を振る。ライアン様に心配してもらう資格なんて僕にはない。好きになったらいけない人だった。恋をしたあの瞬間から、わかっていたことじゃないか。
「お客様から頼まれていた薬を作らないと……。誘って頂いたのにごめんなさい」
「……そうか。かまわない。また薬屋に顔を出すから」
「……楽しみにしています」
お辞儀をして、その場を立ち去る。離れたところで振り返って、彼の姿が見えなくなったことを確認する。それから薬屋に向かって駆け出した。
おもむろに大きな手が僕の手を包みこむ。そのまま大通りを歩き出した。今にも心臓が爆発してしまいそうだ。好きっていう気持ちが滝みたいに溢れてくる。
このままずっと手を繋いでいたい。ライアン様の隣を歩いていたいんだ。半歩後ろから、大きな背を見つめる。この逞しくて安心感のある後ろ姿を忘れたことはなかった。当時十二歳だった幼い僕を救ってくれた彼に、恋をした悲劇の日のことを……。
「どうして薬屋をしているんだ?」
歩幅を合わせるように、隣に並んでくれたライアン様が尋ねてくる。義母の顔を思い出して、懐かしさが胸を覆う。
「義母が営んでいた薬屋を継いだんです。身寄りのなかった僕を拾って、一人前に育ててくれた優しい人でした」
「そうだったのか。君の腕がいいのは義母様のおかげなんだな」
「はい。自慢の義母なんです」
満面の笑みを浮かべると、ライアン様も笑い返してくれた。それがなんだかむず痒い。へへって照れたのを隠すように笑みを漏らすと、繋いだ手の甲を長い指先がそっと撫でてくれる。
「ベルは笑うと少し幼く見える」
「子供っぽいってことですか?」
僕は二十一歳でライアン様は今年で三十二歳になられるはずだ。年の差があるから、釣り合うように常に落ち着いた行動を心がけている。なのに、そんな風に言われてしまうと少し悔しい。
「いや、とても可愛いらしい」
柔らかい声音が鼓膜を揺らす。湯気が出るんじゃないかと思うくらいに顔が熱い。ライアン様の一言一句に心を踊らせてしまう。こんなにも幸せ。
それなのに、一瞬後には泣きたい気持ちが襲ってくる。ライアン様が僕のことを気にかけてくれるのは呪いの効果だ。もらった言葉は全部作られた物で、本物ではない。唇を噛み締めて、泣くのを耐える。お腹の奥からなにもかもを吐き出してしまいそうな心地がした。
「っ、すごく嬉しいです」
無理矢理笑みを浮かべる。本当に泣いてしまいそうだったから。僕は最低だ。泣く資格すらない。嬉しいのに辛い。
繋いだ手から感じる温もりを、今すぐにでも手放してしまいたかった。謝罪をして、その気持ちは作られた偽物なのだと伝えないといけない。
わかっているんだ。なのに、この一時を手放したくないと感じてしまう。琥珀の瞳が浅ましい僕のことを見透かしている気がした。
「僕、用事を思い出してしまって……」
逃げるように手を離す。訝しげに眉を寄せたライアン様にへらりと作り笑いを向ける。
「なにかあったのか?」
心配の色を含んだ声をかけられて、首を振る。ライアン様に心配してもらう資格なんて僕にはない。好きになったらいけない人だった。恋をしたあの瞬間から、わかっていたことじゃないか。
「お客様から頼まれていた薬を作らないと……。誘って頂いたのにごめんなさい」
「……そうか。かまわない。また薬屋に顔を出すから」
「……楽しみにしています」
お辞儀をして、その場を立ち去る。離れたところで振り返って、彼の姿が見えなくなったことを確認する。それから薬屋に向かって駆け出した。
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本当にありがたく思います。
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