この上なく愛

天宮叶

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捨ててしまおう

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玄関先に辿り着くと、勢いよく扉を開けて中へと駆け込む。そのまま床に雪崩こみ、嘔吐感に任せて花を床へと撒き散らした。目の前を花弁が舞う。ボロボロと涙が溢れてきて、水滴が花を濡らす。

(ごめんなさいっ! ごめんなさい……)

 どうして愛してしまったのだろう。僕の命が花のように枯れていく定めだとするのなら、ライアン様に救われたこの命はなんのために存在しているのかな。

 十二歳の頃、故郷を焼き尽くす業火の中、響く怒声と恐怖に身がすくんでいた。そんなとき僕を庇いながら、逃げろ! と必死に叫ぶ声に背を押されたんだ。王国の勲章を掲げた純白のマントをはためかせ、目の前に立つ大きな背が今でも目に焼き付いている。

 山賊に故郷が焼き尽くされたあの日、僕は分不相応にも自分の命を救ってくれた騎士様に恋をした。決して叶うはずのない思い。花のように軽やかに舞うのに、ふとした瞬間に苦しくも感じてしまう。そんな恋だ。

 床に転がるスイートバイオレットを掴む。花言葉は誠実な愛。僕には似つかわしくない花だ。吐き終えると、拾い上げる。

手元にはブレスレットが輝いていた。見ていられなくて目をそらす。

(捨ててしまおう……)

 ふとそんな考えが浮かんで、また涙が溢れてきた。なにもかもなかったことにできたならよかったのに。

廃棄の薬草が詰められた籠に乱雑に花を放り込む。瓶に詰めておいたドライフラワーも捨てる。でも、ブレスレットだけは捨てられなくてますます涙が溢れてきた。

これでいいんだ。呪いの解き方なんてわからないけれど、元を断てばなにかが変わる気がする。同時にこの恋も捨てられたらよかったのにとも思う。でもそれは無理みたいだ。向けられた笑顔も触れて感じた体温すら鮮明に脳裏に焼き付いている。恋は愛へと変化していて、自分でもすでに止められないところまで来ていた。

花患いは一種の警告をしてくれているのかもしれない。これ以上想いを募らせても良いことなんて起こらないのだと……。

 また一つ花弁が口から零れ落ちる。同時に一つ涙も地面を黒く濡らした。

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