この上なく愛

天宮叶

文字の大きさ
10 / 12

通じ合う

しおりを挟む
目を覚ますと、手元に違和感を覚えた。確認すれば、僕の手をしっかりと握りながら、ライアン様が腰を曲げて眠りについているのがわかった。穏やかな寝息に心がくすぐられる。

「……ずっと傍にいてくれたのですね」

 外はすっかり暗くなっている。随分と眠っていたらしい。起こさないようにしながらライアン様の顔を覗き込む。呪いをした日もこうやって寝顔を眺めていた。

「ん……俺は……」

 瞳が開いて視線が交わる。琥珀の瞳に顔の赤い僕の顔が映し出されていた。

「ベル」

 鼻がくっつきそうな距離にお互いの顔がある。だからだろうか。名前を呼ばれても上手く反応ができなかった。下から伸びてきた腕が首元に回される。一気に距離が縮まって、唇同士が重なった。微かな時間触れ合っていたそれがいとも簡単に離れる。

「どうして……」

「これが俺の気持ちだ。作られた気持ちなどではない。俺はベルのことを本気で愛しているんだ」

 キスの感覚は未だにはっきりと感じられる。心音が早すぎて苦しさすら覚えた。未だに固く握られている手が、本気なのだと証明してくれているようだ。

「騎士団長に就任してすぐに、巷を騒がせていた盗賊の一掃いっそうを陛下から任されてアジトを突き止めた。だが、近くにあったリトル村……君の故郷に逃げ込まれ村人を人質に取られてしまい、結局村人は皆殺しにされてしまった」

「……でも、ライアン様は僕を助けてくれました」

 僕の相槌に、ライアン様が悲しげに眉を寄せたのがわかった。

「村に火を放ったのは俺なんだ。なんとしても盗賊を捕らえて被害を拡大させることを防ぎたかったからだ。そんな中、唯一の生き残りだった君を見つけた。隅にうずくまり泣いていた幼い君をだ。任務を終えてからもずっと考えていた。あの日、君を救ったことは本当に正しいことだったのだろうかと」

 衝撃的な事実にどう答えていいのかわからなくなる。故郷に残っていた思い出はなに一つ残ってはいない。すべて焼き消えてしまった。ずっと盗賊の仕業だと思っていたんだ。複雑な心境だった。ただ一つ言えるのは、真実を聞いてもこの愛は欠片も揺らいではいないということ。

「なにもかも失わせてしまった。俺のせいで天涯孤独の身になってしまった少年はどうしているだろうかと毎日考えていたんだ。恨まれても仕方ない。だから、この薬屋で君と再会したとき、運命だと思った。穏やかに微笑み返してくれた瞬間になにもかも許された気がしたんだ」

「ライアン様を恨むだなんて……貴方が守ってくださったから僕は今こうして薬屋を営めているのです。義母にも出会えました」

 手が離れて、そのまま胸の中に閉じ込められた。ライアン様は微かに震えていた。想いが伝わって来る。だから、僕も応えるように背に腕を回す。

「愛している。どうかベルのことをこれからも俺に守らせてくれないだろうか」

 顎を伝う涙は嬉しいからだろうか。受け入れてもいいのかな。罪悪感はきっと消えることなんてない。同時に、傍に居たいと思う心も変えられないんだ。

「貴方の罪も、後悔もすべて僕が受け止めます。僕も愛しています。だから、ずっと傍に居てください」

 ライアン様の顔が近づいてくる。二度目のキスは甘くも少しほろ苦い。ずっとこの瞬間を望んでいた。決して叶うことのない恋だと思っていたんだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...