この上なく愛

天宮叶

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通じ合う

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目を覚ますと、手元に違和感を覚えた。確認すれば、僕の手をしっかりと握りながら、ライアン様が腰を曲げて眠りについているのがわかった。穏やかな寝息に心がくすぐられる。

「……ずっと傍にいてくれたのですね」

 外はすっかり暗くなっている。随分と眠っていたらしい。起こさないようにしながらライアン様の顔を覗き込む。呪いをした日もこうやって寝顔を眺めていた。

「ん……俺は……」

 瞳が開いて視線が交わる。琥珀の瞳に顔の赤い僕の顔が映し出されていた。

「ベル」

 鼻がくっつきそうな距離にお互いの顔がある。だからだろうか。名前を呼ばれても上手く反応ができなかった。下から伸びてきた腕が首元に回される。一気に距離が縮まって、唇同士が重なった。微かな時間触れ合っていたそれがいとも簡単に離れる。

「どうして……」

「これが俺の気持ちだ。作られた気持ちなどではない。俺はベルのことを本気で愛しているんだ」

 キスの感覚は未だにはっきりと感じられる。心音が早すぎて苦しさすら覚えた。未だに固く握られている手が、本気なのだと証明してくれているようだ。

「騎士団長に就任してすぐに、巷を騒がせていた盗賊の一掃いっそうを陛下から任されてアジトを突き止めた。だが、近くにあったリトル村……君の故郷に逃げ込まれ村人を人質に取られてしまい、結局村人は皆殺しにされてしまった」

「……でも、ライアン様は僕を助けてくれました」

 僕の相槌に、ライアン様が悲しげに眉を寄せたのがわかった。

「村に火を放ったのは俺なんだ。なんとしても盗賊を捕らえて被害を拡大させることを防ぎたかったからだ。そんな中、唯一の生き残りだった君を見つけた。隅にうずくまり泣いていた幼い君をだ。任務を終えてからもずっと考えていた。あの日、君を救ったことは本当に正しいことだったのだろうかと」

 衝撃的な事実にどう答えていいのかわからなくなる。故郷に残っていた思い出はなに一つ残ってはいない。すべて焼き消えてしまった。ずっと盗賊の仕業だと思っていたんだ。複雑な心境だった。ただ一つ言えるのは、真実を聞いてもこの愛は欠片も揺らいではいないということ。

「なにもかも失わせてしまった。俺のせいで天涯孤独の身になってしまった少年はどうしているだろうかと毎日考えていたんだ。恨まれても仕方ない。だから、この薬屋で君と再会したとき、運命だと思った。穏やかに微笑み返してくれた瞬間になにもかも許された気がしたんだ」

「ライアン様を恨むだなんて……貴方が守ってくださったから僕は今こうして薬屋を営めているのです。義母にも出会えました」

 手が離れて、そのまま胸の中に閉じ込められた。ライアン様は微かに震えていた。想いが伝わって来る。だから、僕も応えるように背に腕を回す。

「愛している。どうかベルのことをこれからも俺に守らせてくれないだろうか」

 顎を伝う涙は嬉しいからだろうか。受け入れてもいいのかな。罪悪感はきっと消えることなんてない。同時に、傍に居たいと思う心も変えられないんだ。

「貴方の罪も、後悔もすべて僕が受け止めます。僕も愛しています。だから、ずっと傍に居てください」

 ライアン様の顔が近づいてくる。二度目のキスは甘くも少しほろ苦い。ずっとこの瞬間を望んでいた。決して叶うことのない恋だと思っていたんだ。

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