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「そちらはグレー伯爵家の領地であるハーパー領の郷土料理を模して作らせたものです。すべてエタンセル産の食材を使った、シェフのこだわりの一品です。グレー伯爵家の領地では民がいつも笑顔で暮らしていると聞いています。僕も一度行ってみたいものです」
「お気遣いに感謝します。ハーパー領には亡くなった母の実家がありまして、とても思い出深い料理なのです」
流石に実家の件は知らなかったものの、結果的にとても喜んでもらえてよかった。アルバーノの笑顔を見ていると、リコも幸せな気持ちになれる。和やかな雰囲気のまま話し合いは進んでいき、話がまとまる頃には日が傾き始めていた。
「夜の山道は危ないので、本日はこちらに泊まって行かれてください」
フリードリヒの提案にアルバーノも頷く。リコだけが少しだけ不安な気持ちを抱えていた。アルバーノは十中八九運命の番だ。身体を繋げてしまいたいと思ってしまう程の感覚がまた襲ってきたら、なにもかもが台無しになってしまう。それに、一切関わらないという選択もできない。
そんなリコの気持ちとは裏腹に、アルバーノは泊まるための客室に案内されていく。その姿を見つめながら、ざわつく気持ちを唇を噛むことで心の奥に押し込んだ。
「他の男に愛想をふりまくのはさぞ楽しかっただろうな」
二人きりになった瞬間、フリードリヒから発せられた言葉に驚く。まさかアルバーノとの会話のことを言っているのだろうか。だとするのならとんだ勘違いだ。リコは伯爵夫人としてやるべきことをやったまで。お客様を最大限もてなすのは礼儀だろう。愛想をふりまくなどとんでもない。
「勘違いです。僕は話し合いが上手く運ぶように準備を行っただけです」
「嘘をつくな。俺の言葉を何度も遮っていただろう。それとも、俺のことを馬鹿にしているのか?」
肩を掴まれて壁に押し付けられた。掴まれた箇所と背が酷く痛む。けれど、我慢するしかない。嫌がっても暴力は酷くなるだけだ。
「馬鹿になどしていません。フリードリヒ様が困っていらっしゃると思い……」
「っ、この! よくもそんなことを! お前は口を閉ざして大人しくしていればいいんだ! 本当に可愛げのないやつめっ」
思いっきり平手が飛んできて頬を打たれる。痛みが突き抜けて、リコは瞳から一筋涙を流した。なにが悪かったのかもわからない。仕事をすれば怒られ、しなければなじられる。いっそのこと消えてしまいたい。何度も考えた。けれど、実家のことを思うとそれもできない。
「……申し訳ありません」
かぼそく謝罪の言葉を口に出す。これがリコにできる唯一の自己防衛。謝罪を聞いて落ち着いてきたのか、フリードリヒが手を離す。そこへ見計らったかのようにケニーが現れた。フリードリヒの隣に並び、クスクスと笑みを零している。
「リコ様ってば、フリードリヒ様を怒らせてはいけませんよ」
「俺の愛しいケニー。こっちにおいで。リコのことは放っておけばいい」
ケニーの頭にキスを落とすフリードリヒは、先程の人物とはまるで別人だ。美しい衣を纏い、高価なブレスレットやネックレスなどの装飾品で身を飾っているケニー。一見すると、彼のほうが伯爵夫人に見えてしまう。
「お気遣いに感謝します。ハーパー領には亡くなった母の実家がありまして、とても思い出深い料理なのです」
流石に実家の件は知らなかったものの、結果的にとても喜んでもらえてよかった。アルバーノの笑顔を見ていると、リコも幸せな気持ちになれる。和やかな雰囲気のまま話し合いは進んでいき、話がまとまる頃には日が傾き始めていた。
「夜の山道は危ないので、本日はこちらに泊まって行かれてください」
フリードリヒの提案にアルバーノも頷く。リコだけが少しだけ不安な気持ちを抱えていた。アルバーノは十中八九運命の番だ。身体を繋げてしまいたいと思ってしまう程の感覚がまた襲ってきたら、なにもかもが台無しになってしまう。それに、一切関わらないという選択もできない。
そんなリコの気持ちとは裏腹に、アルバーノは泊まるための客室に案内されていく。その姿を見つめながら、ざわつく気持ちを唇を噛むことで心の奥に押し込んだ。
「他の男に愛想をふりまくのはさぞ楽しかっただろうな」
二人きりになった瞬間、フリードリヒから発せられた言葉に驚く。まさかアルバーノとの会話のことを言っているのだろうか。だとするのならとんだ勘違いだ。リコは伯爵夫人としてやるべきことをやったまで。お客様を最大限もてなすのは礼儀だろう。愛想をふりまくなどとんでもない。
「勘違いです。僕は話し合いが上手く運ぶように準備を行っただけです」
「嘘をつくな。俺の言葉を何度も遮っていただろう。それとも、俺のことを馬鹿にしているのか?」
肩を掴まれて壁に押し付けられた。掴まれた箇所と背が酷く痛む。けれど、我慢するしかない。嫌がっても暴力は酷くなるだけだ。
「馬鹿になどしていません。フリードリヒ様が困っていらっしゃると思い……」
「っ、この! よくもそんなことを! お前は口を閉ざして大人しくしていればいいんだ! 本当に可愛げのないやつめっ」
思いっきり平手が飛んできて頬を打たれる。痛みが突き抜けて、リコは瞳から一筋涙を流した。なにが悪かったのかもわからない。仕事をすれば怒られ、しなければなじられる。いっそのこと消えてしまいたい。何度も考えた。けれど、実家のことを思うとそれもできない。
「……申し訳ありません」
かぼそく謝罪の言葉を口に出す。これがリコにできる唯一の自己防衛。謝罪を聞いて落ち着いてきたのか、フリードリヒが手を離す。そこへ見計らったかのようにケニーが現れた。フリードリヒの隣に並び、クスクスと笑みを零している。
「リコ様ってば、フリードリヒ様を怒らせてはいけませんよ」
「俺の愛しいケニー。こっちにおいで。リコのことは放っておけばいい」
ケニーの頭にキスを落とすフリードリヒは、先程の人物とはまるで別人だ。美しい衣を纏い、高価なブレスレットやネックレスなどの装飾品で身を飾っているケニー。一見すると、彼のほうが伯爵夫人に見えてしまう。
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