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次の日から、リコはフリードリヒの隠し事について調査を開始した。一晩寝ずに考え、一つの決断を下したからだ。
————伯爵家から逃げよう。それが幸せを掴むための最善の方法だ。
リスクは充分な程に理解している。けれど、今以上に物事が悪くなってしまう想像がリコにはできなかった。しかしどうせならば、自身が伯爵家に縛られている理由くらいは知りたい。そのため調べることにしたのだ。
伯爵夫人になってからというもの、屋敷の管理はすべてリコが行ってきた。フリードリヒは仕事で忙しいという理由から面倒なことはすべてリコに任せていたからだ。ケニーが現れてからはますます押し付けられるようになり、今ではフリードリヒよりも屋敷に詳しい。
そんなリコが唯一触れることを禁じられているのが執務室だ。一度だけ掃除をしようと整理していたとき、怒りの形相で文句を言われたことを覚えている。
フリードリヒがケニーと共に屋敷を空けた隙を狙い、リコは執務室へと向かった。必ずなにか手かがりがあると確信しているからだ。積み上げられた書類を確認しながら、まったく仕事が進んでいないことに呆れてしまう。整理したいが、入ったことがバレてしまうため我慢し、目的の手がかりを探し続ける。
一時間程が経った頃、一枚だけ形式の違う書類を発見した。そこにはなぜかリコの実家でもある、シュピラーレ子爵家の名が綴られている。
————金銭の授受に関する書類だ。しかも、二ヶ月に一度かなりの額をやり取りしている。どうして……。
どうやらフリードリヒは、災害の際にお金を貸したことをネタに、シュピラーレ子爵家から二ヶ月ごとにかなりの額の金銭を貰っているようだ。しかし、借金の肩代わりはリコが嫁ぐときの結納金として納められたはず。返す義務などない。もしかすればリコを人質にして無理矢理支払わせている可能性もある。調べると、同じような書類が複数枚出てきた。一番初めの日付はリコがホーガン伯爵家に嫁いだ頃だった。
持ち直してきたとはいえ子爵家はすごく裕福というわけでもない。それに、二ヶ月ごとにこの額を支払っているとすれば、一年後には肩代わりしてもらった額に並ぶほどの資金になるだろう。
(実家が困窮していたのはこのせい?)
フリードリヒがリコを手放さないのは、お金が入ってこなくなることを避けたいからなのかもしれない。フリードリヒにも、なにも知らなかった自分にも怒りが湧いてくる。リコさえ嫁げばなにもかも上手く行くと信じていた。それは、夫となったフリードリヒを、人として信用したいという思いからでもある。けれどその結果、大切なものを苦しめる羽目になってしまったのだ。ケニーが身につけている高価な装飾品に、このお金が使われているのだと思うと、胸が痛くなるほどに憎しみすら湧いてくる。なんとか心を落ち着かせ書類を抜き取ると、リコはそのまま自室へと急いで戻った。 ————フリードリヒが帰ってくれば、書類がなくなっていることに気がつくだろう。その前に屋敷から出てしまおう。
最低限の荷物を用意すると、カーテンをレールから取り、手近な柱に括り付けた。リコの部屋は屋敷の角にあり、一番見晴らしの悪い場所だ。窓から下を見れば木が茂っており、逃げ出してもすぐには見つからないだろう。
意を決してカーテンを下へと垂らす。屋敷の二階にあるリコの部屋から、壁を伝って降りるのはとても危険だ。それでも、覚悟を決めてリコは強くカーテンを握りしめ、窓から身を乗り出した。
何度も命の危険を感じながら、ようやく地面へと辿り着くと、そのまま森の中に向かって駆ける。子爵家に行くにも徒歩では遠すぎる。目的地などなかった。けれど、とにかくがむしゃらに走り続ける。いまのリコには、遠く見つからない場所へ行かなければいけないという意識しかない。
————伯爵家から逃げよう。それが幸せを掴むための最善の方法だ。
リスクは充分な程に理解している。けれど、今以上に物事が悪くなってしまう想像がリコにはできなかった。しかしどうせならば、自身が伯爵家に縛られている理由くらいは知りたい。そのため調べることにしたのだ。
伯爵夫人になってからというもの、屋敷の管理はすべてリコが行ってきた。フリードリヒは仕事で忙しいという理由から面倒なことはすべてリコに任せていたからだ。ケニーが現れてからはますます押し付けられるようになり、今ではフリードリヒよりも屋敷に詳しい。
そんなリコが唯一触れることを禁じられているのが執務室だ。一度だけ掃除をしようと整理していたとき、怒りの形相で文句を言われたことを覚えている。
フリードリヒがケニーと共に屋敷を空けた隙を狙い、リコは執務室へと向かった。必ずなにか手かがりがあると確信しているからだ。積み上げられた書類を確認しながら、まったく仕事が進んでいないことに呆れてしまう。整理したいが、入ったことがバレてしまうため我慢し、目的の手がかりを探し続ける。
一時間程が経った頃、一枚だけ形式の違う書類を発見した。そこにはなぜかリコの実家でもある、シュピラーレ子爵家の名が綴られている。
————金銭の授受に関する書類だ。しかも、二ヶ月に一度かなりの額をやり取りしている。どうして……。
どうやらフリードリヒは、災害の際にお金を貸したことをネタに、シュピラーレ子爵家から二ヶ月ごとにかなりの額の金銭を貰っているようだ。しかし、借金の肩代わりはリコが嫁ぐときの結納金として納められたはず。返す義務などない。もしかすればリコを人質にして無理矢理支払わせている可能性もある。調べると、同じような書類が複数枚出てきた。一番初めの日付はリコがホーガン伯爵家に嫁いだ頃だった。
持ち直してきたとはいえ子爵家はすごく裕福というわけでもない。それに、二ヶ月ごとにこの額を支払っているとすれば、一年後には肩代わりしてもらった額に並ぶほどの資金になるだろう。
(実家が困窮していたのはこのせい?)
フリードリヒがリコを手放さないのは、お金が入ってこなくなることを避けたいからなのかもしれない。フリードリヒにも、なにも知らなかった自分にも怒りが湧いてくる。リコさえ嫁げばなにもかも上手く行くと信じていた。それは、夫となったフリードリヒを、人として信用したいという思いからでもある。けれどその結果、大切なものを苦しめる羽目になってしまったのだ。ケニーが身につけている高価な装飾品に、このお金が使われているのだと思うと、胸が痛くなるほどに憎しみすら湧いてくる。なんとか心を落ち着かせ書類を抜き取ると、リコはそのまま自室へと急いで戻った。 ————フリードリヒが帰ってくれば、書類がなくなっていることに気がつくだろう。その前に屋敷から出てしまおう。
最低限の荷物を用意すると、カーテンをレールから取り、手近な柱に括り付けた。リコの部屋は屋敷の角にあり、一番見晴らしの悪い場所だ。窓から下を見れば木が茂っており、逃げ出してもすぐには見つからないだろう。
意を決してカーテンを下へと垂らす。屋敷の二階にあるリコの部屋から、壁を伝って降りるのはとても危険だ。それでも、覚悟を決めてリコは強くカーテンを握りしめ、窓から身を乗り出した。
何度も命の危険を感じながら、ようやく地面へと辿り着くと、そのまま森の中に向かって駆ける。子爵家に行くにも徒歩では遠すぎる。目的地などなかった。けれど、とにかくがむしゃらに走り続ける。いまのリコには、遠く見つからない場所へ行かなければいけないという意識しかない。
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