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陛下と姫と、琴の時間。

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「リーファ、は」
「はい」
「多才で、あるな」

 幾度かのお茶の機会を経て。
 今日のリーファは、琴を奏でながら、陛下と共に夕食後の時間を過ごしていた。

 夜を供にする、という話ではない。
 陛下は執務にお忙しい方なので、暇な時と言えば朝の食事かこうした時間に限られるのである。

 その中でも今日は、エルリーラ姫に陛下を引き合わせることを約束した時間なのだ。

 わざわざ足をお運びいただけたことは幸いではあるものの、エルリーラも陛下もあまりにぎこちないので、音楽でもあれは心も和むのではと彼女を誘って弾き始めたのである。

「いえ、どなたでも出来ますよ」
「そのようなことは、ない。音の色は、人による」

 陛下は、エルリーラに目を移された。

 瞳には、優しい色を時折浮かべられているように思える。
 リーファと逢瀬を重ねる内に、少しは寛いでいただけるようになったようで喜ばしい限りだった。

「エルリーラ、も」
「はい……」
「華やかな音色、で、ある」
「お褒めいただき、大変、嬉しゅうございます」

 やはり、お互いにどこかぎこちないが。
 エルリーラの微笑みに陰はなく、陛下ご自身も多少緊張なさっておられはしても、嫌気を抱いているご様子ではない。

 いずれ馴染むだろう、と、嬉しく思ったリーファは、爪弾く音を変える。

「……?」
「まぁ……」

 静かに、エルリーラに合わせていた音を、裏重ねにし、技巧を凝らしたものへと指運びを移したのだ。
 音に重なりと深みが生まれ、エルリーラの華やかな音色がより映える。

「困りましたわ、陛下……まるでリーファに、舞わされているかのようです……」
「ほんに、多才なれば、感嘆を、禁じ得ぬ……」

 リーファは二人が目を見張るのに、思わず顔がほころぶ。

「おおげさですわ、お二人ともに」

 顔合わせは、つつがなく終わり。
 陛下も、音色を存分に楽しまれたようで、そこはかとなく機嫌良く、また名残惜しげに場を辞する。

 その際に賜った言葉に、リーファは初めて、陛下へと茶目っ気を返した。

「最近、後宮へ降りるに、心躍り。去るに、名残惜しさを、覚える」
「ふふ。陛下はわたくしの術中に浸かり始めておられるようにございます。お気をつけくださいませ」
 
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