烏珠の闇 追想花

晩霞

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本編 ─羽ばたき─

寝顔※

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 なんだか、すごく良い夢を観た気がする。地獄と現実の狭間を彷徨い果て、光をこいねがう先に温かいものに触れた。冷えていた分、暑くも感じたが、嫌な感覚はしない。母の胎内に戻ったのだろうか。近くで心臓の音がする。

「──……ん……?」

 まだ、ぽやぽやしている頭に半開きの瞼でいる少女は心地好い眠りから目覚めた。
 目の前は霞んでいてよく分からないが、ここがあの冷たい檻の中ではないことは確かだ。いつもの温かい寝台と 衾褥きんじょく。それに、求めていた男の香り……その香りが、いつにも増して強い気がする。

「っ……!」

 寝惚け眼だった少女は男の胸板に顔を押し付けていることに、いや。押し付けことに驚いた。素肌の上に腕を回され、頭を抱き込まれている。日常に戻ったはずなのに非日常にいるようで、照れるというよりも不思議な感じがした。男は日の出前にとっくに起きて狩りへ出ていて、こうして自分が起きるまでしをしているなんて初めてのことだった。抱かれて横たわったまま、そろそろと顔を動かし上を向く。

(わ……ぁ……)

 目を閉じて、すぅすぅと寝息をたてる男の顔には眉間の皺も険しい色も浮かんではいなくて、いつもの雰囲気とはまるで違う別人のように見えた。男が安らかに、自分の前でだけ寝顔を見せている。
 少女は時間の許す限り、その顔をずっと眺めていたいと──……。

小毬こまり……」

 瞼と睫毛が震えて男の目がゆっくりと開いていく。深海色の美しい瞳と、少女の薄紫の瞳が合った。

「…………」
「…………」

 互いに何も言わず、ただ目が合うだけの時間が時計の針と共に刻まれ、長くも短くも感じた。が、次の瞬間にはカッと目を大きく見開き、上半身を起こして少女の肩を掴んでいる男がいた。

「どうした……!?」
「……えっ……?」
「顔が赤い。熱を出したか」

 男の寝顔に気を取られていた少女は、自分の心情など頭から抜けていて何も考えられていない。故に今、男に言われて何故、自分の顔が火照っているのか理解出来る訳もなく、その理由を探ろうと心の中で反芻はんすうして答えを見出だせば、少女の顔は更に赤く染め上がっていった。

「い、いえっ……! 熱ではない、です……」 
「嘘を……」
「ほ、本当ですっ……」

 気づいてしまえば頭の中がそればかりになってしまう。蓋をしても溢れる想いになし崩しに追い詰められ、どうにも出来なくなった少女はやがて男から目を逸らした。

「とにかく……! 本当に大丈夫ですから……!」

 慌てて身を捩って男の腕から逃れ、衣服を胸元に抱えた少女は勢いよく寝室を後にした。
 残された男は急に消え去った腕の中の温もりに呆然として身を起こす。深海色の目を細め、少女が走り去って行った戸を見つめた。

「……ほぅ……」

 少女の後ろ姿がまだ見えているかのように動かず、訝しげに眉をひそめ、上等だと言わんばかりの声音でそう呟いた。



   
    ────────────


「いっ……、あぁぁっ……」

 夜。少女はいつも通り、一人で湯浴みをしていた。
 身体を隅々まで洗って黒髪に指を通し、流して梳きほぐしていく。腰まで届く髪の扱いは手慣れたもので、この日も後は湯船に浸かって終わりのはずだった。

「んぁ……っ、あっあっ……あぅ……」

 浴室に響く少女の声はひどく艶かしく、断続的に重なって止まらない。水に濡れた髪からは少女の身体の動きに合わせて玉露たまつゆが飛び散っている。

「うぅ……っ……や、やぁっ、やめ……もう……」

 顔よりも乳房よりも手脚よりも……少女の秘部はそれ以上に露を滴らせている。男の太い楔に小さい膣が勢いよく突き上げられ、その度に少女の口からは嬌声が洩れて浴室に響いていた。

「んぁっ……う、うきょ……さまぁ……ど、してぇ……」

 胡座をかいて座っている男は後ろから少女に腕を回し、腰の動きだけで白い女体を翻弄していた。しっかりと少女を抱き込み、美しい乳房の下部が律動に揺れて男の腕にたゆたゆと当たる。

「んぁぁぁ! うっ……烏京うきょうさまっ……ぁぁ……」
「…………」

 少女の呼びかけに男は応えない。ただ無言で少女を貫き、狂うほどの快楽を刻み込んでいた。
 硬く逞しい裸体に、柔らかく滑らかな裸体。濡れた肌同士がぶつかり、ぱちゅっぱちゅっと音を鳴らしている。とろとろにとけた少女の秘部のおかげで、二人の結合部の水音も徐々に激しくなっていった。

「ひあぁぁぁっ……!」

 乳房を鷲掴んだ手はそのまま先端の果実にも迫り、真っ赤に腫れたソコを指の側面でキュウッと挟み込んだ。

「も……う、おねが……」
「……そうか」

 やっと言葉を発した男だったが、その内容は少女に応えたものではなかった。上下に揺れる乳房を熱く揉みしだきながら片手は秘部の尖りに添え、くるくると撫でては摘まんでしごく。少女の願いを聞き入れるどころか、男は更に力強く抱き始めた。

「ひぃっ……あ……あぅ、もう……だ、めぇ……」

 ピクピクと痙攣し、少女は本日、幾度目かの果てを迎えた。連続で天上へと追いやられた身体は熱くなり、頭はのぼせたように、ぼぅ……と痺れている。膣がぎゅうぎゅう波打って、中を穿つ男の凶器を強く締め付けて離さない。もう、これ以上の果ては無いのだと、そう感じて願った。
 しかし……。

「勝手に休むな」

 ズンッ……と少女の秘部に衝撃が走った。流れた蜜が怒張にねっとりと絡んでキラキラと濡れそぼる。果てて間もないソコは全てを受け止めるには弱く、気を抜いていた少女は泣きそうに顔を歪めた。 

「ひぃ、あっあっあっあっ……!」

 男の手が、腰が再び少女を弄ぶ。憂慮も気遣いも手加減も何も無い。ただただ己のしたいように少女を犯す。

「な、んで……どう……してっ……」
「何故、だと……?」

 少女からの問いかけに男の眉がピクリと動き、表情も発する言葉も険を帯びたものに変わる。適度に水を与え、優しく口づけをしているだけに留める男なりのいつもの休憩は、今回の浴室での情事が始まって以降、少女は取らせてもらっていない。
 何が男をこんなにしてしまったのか。何故、自分にこんなことをするのか。少女の脳は快楽の波に浚われ、考えようにも何も分からないでいた。長い時間休み無しで、言葉を囁くこともせず貪り尽くす。護るべき少女に対して男が為す行為とは到底思えない。

「お、ねが……い……」
「なら、教えてやる」

 それはまだ出会ったばかりの男が発していた、冷たい雰囲気。暖かいはずの浴室が一気に冷えたように、その空気が少女を襲う。 

「何故」

 すぐ後ろから聞こえてくる一言一言が、やけに重苦しく、のし掛かかった。黒くどろりとした、纏わり付くような言葉が少女に牙を向く。

「何故、拒んだ」
「……え……?」

 ぴちょん……。静かになった空間に、雫の音が木霊した。
 今朝の件以降、男はいつものように狩りへ出た。少女も少女で、今日はずっと顔を俯かせては男と目を合わせずに過ごした。

「やっと逢えたと、そう思っていたのは俺だけか。奴らに惚れ薬でも打たれて骨抜きにされてしまったのか、小毬」

 少女の心が自分から離れたと思い込んでいる男は、身の奥に燻っている想いを吐露した。怒っているようにも、悲しみに暮れているようにも受け取れるその想いに、少女はやっと気がついた。

「烏京さまっ……!」

 弾かれたように振り向けば、氷の表情でいる男と目が合う。何の期待もしていない“無”の装いに、自分が男を傷つけてしまったのだと悟った。
 きちんと伝えなければ……素直に感じた男への想いを。羞恥心も何もかも、かなぐり捨てて男と向き合わなければならない。地獄から救ってくれた男へ。

「烏京さまっ、私……」

 どんよりと曇る、暗い表情の男に目を逸らすことなく必死に想いを紡いでは全力でぶつける。

「私、烏京さまが……格好良いと……そう、思ったのです……」
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