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キッド

支配された心

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(*'ω'*)四章:8話『逃走』より
 キッド(16)×テリー(13)
 ネタバレ注意ネタバレ注意ネタバレ注意(*'ω'*)
――――――――――――――――――――



























 キッドが王子だと知って、
 あたしを殺す王族だと知って、
 あたしはキッドから逃げる。
 嘘つきと叫んで逃げる。

 逃げたいのに、キッドはあたしを捕まえる。

 放してと叫べば、

「放さないよ!」

 キッドが、叫んだ。

「お前が、俺を好きだって、だから、絶対に俺から離れないって言うまで、放すもんか!」

 それも、嘘?

「まだ、まだ婚約者ごっこを続けるの…? あたしは、もう、もういい…! もういい!」
「駄目。契約は継続する。お前は俺の婚約者で、俺のものだ」
「やだ…」
「テリーは俺のものだよ」
「やだ………」
「だから俺の言うことだけ聞いて」
「やだぁ………」
「俺から離れるなんて、許さない」
「嫌…!」

 目を閉じた。

「キッドなんて、嫌い!!」

 叫んだ。

「大嫌い!!!!」

 ぐっと、顎を掴まれる手に、力がこめられる。びくっと恐怖で目を見開き、キッドから離れようと、その腕を掴んだ。

「いや」

 キッドの目が、あたしを支配しようと、見つめてくる。

「いやあ!」

 恐怖でパニックになる。

「いやああああ!!!」
「テリー」

(怖い怖い怖い怖い怖い)
(キッドが怖い)
(怖い怖い怖い怖い怖い)

「やだやだやだやだ!!!」
「テリー」

 キッドの顔が近づく。唇が近づく。

「ああああ、嫌、嫌! いや! 嫌!! 嫌あああああ!!!」
「怖くないよ、テリー」

 腰を掴まれる。引き寄せられる。抗うために両手で体を押す。でもキッドは容赦しない。そんなの無駄だというように、体を近づける。顔が近づく。鼻と鼻がくっつく。

「やだあああああ!! 嫌っ!! いやあああああああ!!!!」

 キッドの瞳が瞼で薄くなる。

「何も怖くない」

 キッドの瞼が下ろされる。

「怖くないよ」

 キッドの唇が、あたしの唇に、

(あ…)

 近づく。

(駄目…)

 回避できない。

「んむ」

 唇が重なる。

「んんっ」

 びくっと首をすくめた。

「んんんんっ」

 驚いて、ぐっとキッドの胸を押すのに、びくともしない。キッドがあたしを抱き締めて、もっと密着する。

「んっ」

 キッドの唇が離れる。

「はっ」

 息を吐いて、吸えば、

「んっ」

 また角度を変えて、キッドがキスをしてくる。

「んんっ」

 手を握られる。

「んんん」

 力強い手で握られる。

(ああああ、駄目)

(駄目なのに)

 キッドの唇が離れない。

(駄目)

 王族とキスしてる。

(駄目)

 王子様とキスしてる。

(キッドと…)

 キッドとキスしてる。

(キッド…)

 初めてのキスの相手が、キッド。

(キッドの唇)

 熱い。

(あ…)

 キッドの唇を動かした。

(あ…)

 はむはむと、動かす。

(柔らかい…)

 はむはむと、動く。

(唇が動いてる)

 熱い。

(キッドとキスしてる)

 熱い。

(唇が動く)

 熱い。

(ドキドキしてる)

 熱い。

(キッドの唇が熱い)

 熱い。

「…はっ」

 また離れて、息を吸って、また、キッドが唇を重ねる。

(やっ…)
(また…)

 唇が合わさる。
 またはむはむ動く。

(やだ…)
(恥ずかしい…)

 はむはむ動けば、熱い、柔らかい熱のあるそれが、あたしの唇をなぞった。

(え?)

 ぺろりとなぞられる。

(なにこれ)

 熱いそれが、あたしの歯をなぞる。

(なにこれ)

 熱いそれが、あたしの舌に触れる。

(ゃっ…)

 あたしの舌に絡みつく。

(…やっ…)

 それで気づいた。

(舌?)
(これ、キッドの舌?)

 あたしの足を舐めてたキッドを思い出す。

(これで舐められた)
(この舌で舐められた)
(その舌が今あたしの舌に絡んできてる)

 熱い。

(だめ…)

 熱い。

(…おかしくなりそう…)

 熱い。

(とろけてしまいそう…)

 舌が絡む。

(ああ…だめなのに…)

 舌が絡む。

(だめ…)

 舌が絡む。

(離れたくない…)

 舌が絡む。

(キッドと、離れたくない…)



 ぴちゃり、と、水の音が鳴る。
 あたしと、キッドの唾が、重なった音が鳴った。

 口が離れた。
 キッドを見つめた。キッドに見つめられた。
 視線が合った。ばちりと、目が合う。その黒に近い青い目が、あたしを見つめる。

(キッドの目だ)
(綺麗な目)

 ぼうっとその瞳を見つめる。
 その瞳が、あたしの瞳を、ずっと見つめる。

 ――――直後、声が響いた。

「ねっ…兄さん! 今パストリルの唄の分析が…!!」
「……そう」

 キッドが呟く。俯くあたしを抱き締めたまま振り向く。

「リオン」
「あっ…なんか、あの、え、あれ、お話し中だった…?」
「うん」
「あ、ごめんなさい…」
「いいよ。分析が済んだの?」
「ああ、そうだ。えっと、タナトスじゃないかって…。まだ詳しくは調査するとか…」
「そっか。分かった」
「うん! …で、えっとー…」
「ああ、知り合いなんだけど、気分が悪いんだって。休ませるから、俺、部屋に戻るよ」
「ああ、そうなんだ。分かった。じゃあ、後は僕がまとめておくから」
「うん。任せるよ」

 キッドの返事に相手が頷き、離れていく。あたしとキッドが二人きりになる。風が吹いて、髪の毛が揺れた。黙りこくっていたキッドの手がそっと滑り、あたしの首に触れ、あたしの頭を胸に引き寄せる。

「…………ね? 気分悪いんだよね?」

 耳元で囁かれる。

「ね?」

 キッドに言われて、こくりと頷く。そうすれば、キッドが優しく微笑み、身を屈ませた。

「よいしょ」

 そして軽々と、あたしを抱き上げる。

「疲れたね」

 あたしはキッドの肩に腕を回した。

「アメリアヌには先に帰ってもらおう。この後、お前とはメニーについて話し合わないと」

 あたしは頷く。

「でも、その前にちょっと休もうか。俺の部屋だけどいい?」

 あたしは頷く。

「うん、じゃあ」

 キッドが顔を摺り寄せた。

「ちょっと休もう」

 キッドが、優しく微笑む。





(*'ω'*)





 部屋に着くと、ベッドに体を置かれた。

「どっこいしょー」

 いつもの軽い口調呟き、顔を俯かせるあたしを見つめてくる。

「さて」

 キッドがベッドに乗った。

「テリー」

 ちらっと顔を上げるあたしに顔を寄せる。

「続き」

 唇がくっついた。

「ん」

 声が漏れた。すぐにキッドの唇が離れる。

「…ぁ」

 寂しくなれば、また重なる。

「ん」

 ぴちゅ、と音が鳴る。

「ん」

 ぴちゅり、と音が鳴る。

(キッドの唇の音)

 頬が熱くなってくる。

(もっと聴きたい)

 キッドの唇が動く。

(ああ、また動く)

 ふにふにと動く。

(これ気持ちいい…)

 はむはむと動きを変える。

(これもいい…)

 はむはむと、唇が動く。

「…あ…」

 声が漏れた。そっと目を開けると、キッドがじっとあたしを見つめていた。

(ひぇっ)

 キッドとキスしたまま、目が合う。

(や…)

 恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑る。

(見るな…! ばか!)

 キッドの手が、あたしの頬を触る。

「あっ…」

 その手が暖かくて、

(キッドが触ってくれる…)

 唇が動く。

「…はっ…」

 口が開いた隙に、キッドが角度を変えて、あたしの唇を飲み込むように、咥えるように、重ねる。

「んぁ…」

 熱い舌が入ってくる。

「…ぁっ…」

 あたしの舌と絡む。

(熱い…)
(まだ熱い…)

 キッドの舌が熱い。

(…これやだ…)
(本当におかしくなりそう…)

 頭が真っ白だ。

(何も考えられない…)
(駄目なのに…)
(キッドは王族だってわかってるのに…)
(あたしを殺すかもしれないのに…)
(怖いのに…)
(その手が優しいから…)
(そのキスが優しいから…)
(離れたくない…)
(離れたくない…)
(もう少しだけ…)
(もう少しだけ………)

「…目、開けて」

 掠れた声で、キッドが囁く。
 そっと瞼を上げれば、キッドがあたしの頬にキスをした。

「俺を見てて」

 耳に、ちゅ、とキスをされた。

「テリー」

 その声が、心地好くて。

「ねえ、」

 キッドが微笑んだ。

「ごろんして?」

 言われた通りに、ごろん、と、背中から倒れる。

「ふふっ」

 嬉しそうに、キッドがあたしの上に乗った。

「テリー」

 見つめていると、顔が近づく。

「可愛いね、お前」

 ちゅっと、キスをされる。

「ドキドキして仕方ないよ」

 ちゅっと、キスをされる。

「こんなにときめいたの久しぶり」

 ちゅっと、キスをされる。

「今日はいい日だな」

 ぎゅっと抱きしめられる。

「王子として認識されたし、お前とキス出来た」

 くくっ。

「ねーえ、テリー? お前は誰のもの?」

 ちらっと、キッドを見上げた。

「ねえ、誰のもの?」

 キッドは、優しく微笑んで、あたしに訊く。

(誰のもの?)

 あたしは考える。

(あたし)

 誰にものでも無い。

「じゃあ、これからは」

 ――――ふに。

 キッドがまたあたしの唇に唇を重ねる。

(あ…)

 離れる。

「キッドのものって言うんだよ」

 すごく、美しい笑顔。

「キッドの、もの…?」
「そうだよ。お前は俺のものなんだよ?」
「あたし、キッドのもの…?」
「そうだよ。テリーは俺のものなんだよ?」
「キッドのもの…」
「そうだよ。テリーは俺のものなんだよ」
「…分かった…。あたし、キッドのものなのね…」

 ぼうっと呟けば、キッドが優しくあたしの頭を撫でる。

「そうだよ。お前は俺のものなんだよ」

 満足そうに、にんまりと、キッドがにやけた。

「大切にしてあげるよ。テリー」
「あっ…」

 首にキスをされて、顔を逸らす。

「…っ」
「ねえ、触っていい?」
「…え…?」
「テリーのこと触りたい」

 あ、でも、

「いやらしい意味じゃないよ? 俺が13歳の女の子に、大人の遊びをするわけないじゃん」

 ちょっと触りたい。

「せめて首から鎖骨までの肌」

 ここだけでいい。

「でもさ、お前のドレス、ここレースで隠してるだろ?」

 キッドが微笑む。

「脱いで?」

 キッドが微笑む。

「このレース部分だけでいいから、脱いで?」

 キッドが微笑むから、あたしは自分のうなじに触った。

「ここで、固定されてるから、自分だと出来ない…」
「ふふっ。じゃあ俺がやってあげるよ。ほら、テリー、ごろんして、背中見せて?」

 言われた通り、ごろんしてキッドに背中を向ける。

「ああ、なるほどね」

 キッドが無邪気な声をあげる。

「ここを」

 ホックが外れる。

「こうか」

 レースの部分が脱げる。

「で、ドレスの部分はこの下のチャック下ろせば」

 キッドが耳元で囁く。

「脱げちゃうんだ?」

 くくっと笑った。

「大丈夫だよ」

 まだ13歳だもんね。

「そんな子供に、俺が手を出すと思う?」

 まあ、でも、

「テリーは別だけどね」

 じーーーー、と、チャックが下ろされた。

「やっ…」

 驚いてベッドのシーツを掴めば、キッドが体を沈めて、あたしのうなじにキスをした。

「あっ」

 手を重ねてくる。

「あっ」

 乱暴にうなじを舐められる。

「やっ」

 荒々しくうなじを咥えられる。

「キッド」

 あむ、と、甘噛みされる。

「んっ…」
「大丈夫」

 俺は怖いことしないよ?

「テリーを可愛がってあげるだけ」

 このうなじは俺のもの。

「だってテリーは俺のものだからね」

 短い髪を撫でられる。

「短い髪もいいね」

 キッドがうっとりした。

「可愛いよ、テリー」

 あたしの左手を上から握る。

「なんて可愛いんだろう。テリー」

 ぎゅっと抱きしめられる。

「ねえ、俺、すごいドキドキしてる」
「テリー」
「ねえ、テリー」
「テリーテリーテリーテリー」
「くひひっ」
「テリー」
「お前は誰のもの?」

「キッドの、もの」

 答えれば、キッドが笑った。

「そう。そうだよ」

 キッドが笑った。

「俺のもの!」

 ぎゅっと抱きしめられる。

「テリーは俺のもの!」

 頭にキスをされる。

「俺のもの!!」

 キッドが笑う。

「もう離さない」

 キッドが笑う。

「ほら、こっち向いて? 今度は鎖骨」

 ごろんと、振り向く。
 キッドが美しい笑みを浮かべて、あたしに顔を埋める。

「テリーの首」

 キスをする。

「テリーの鎖骨」

 キスをする。

「俺のもの」

 キッドが笑う。

「俺のものね?」

 キッドがあたしの顔を覗く。

「テリー」

 あたしの目を見つめる。

「怖くないよ」
「俺、テリーのこと大切なんだ」
「ねえ、テリー、俺のこと好き?」
「好きでしょう?」
「そういう時は好きって言うんだよ?」
「テリーは俺のものだから、俺のことが好きで堪らないって言うんだよ?」
「テリー」
「ほら言って?」
「俺のこと好き?」

 キッドに言われるから、
 キッドが喜んでくれると思ったから、
 キッドのものだから、

「ええ、好き。キッドのことが好きで、堪らない」

 言えば、

「あははははははははははははははは!!!!」

 キッドがあたしを抱き締めた。

「テリー!!」

 あたしを強く抱きしめた。

「テリー!!!」

 キッドが笑った。

「テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー! テリー!」

 あははははははははははははは!!
 あははははははははははははは!!!
 あははははははははははははは!!!!

「やったー!」

 キッドが喜んだ。

「テリーが俺のこと好きだって!」

 キッドが喜んだ。

「じゃあ、俺もテリーを好きでいてあげる!」

 キッドが喜んだ。

「好きだよ! テリー!」

 愛をくれる。

「テリー! 好き!!」

 キッドが愛を与えてくれる。

「テリー好き!!」

 キッドがあたしを愛してくれる。

「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーテリーくくっ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!!」


 あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!



「言ったね?」
「言っちゃったね?」
「もう逃がさないよ?」
「テリー」
「俺の事好きなんだもんね」
「じゃあ俺がどんな俺でもいいよね?」
「じゃあテリー耳貸して!」
「俺のこと、全部教えてあげる!」
「俺ね! 俺ね!!」

 こそりと、キッドがあたしにその秘密を教える。

「俺ね!!」

 ―――――あら、そうだったの。

 そっとキッドの胸に手を置いてみた。

「あ、本当だ」

 あたしは教えてもらった。

「本当だ」

 微笑んで、キッドを抱き締めた。

「こっちの方が、安心する」
「本当? 俺のこと好き?」
「うん、好き。キッドのこと、もっと好きになった」
「本当? 嬉しい。テリー。ねえ、もっと俺を見て?」
「ええ、もっと見たい」
「ねえ、もっと見て?」
「ええ、もっと見たい」
「俺の汚いところ、もっと見て?」
「ええ、いいわ」
「テリーだけだよ。俺の汚いところも、醜いところも、認めてくれて、見ててくれるの」
「キッド…」
「好きだよ。テリー。大好き。俺から離れるなんて、そんな馬鹿なこと、もう言っちゃ駄目だよ?」
「ええ、ごめんなさい。もう言わないから…」
「うん。もう言わないでね。言ったら」

 キッドが微笑んだ。

「もう家に帰せなくなるからね?」

 キッドが笑って、あたしの体に、体を沈めた。




(*'ω'*)






 キッドが触れてくる。

「キッド」

 体を支配される。

「キッド」

 手を伸ばせば、キッドがあたしの手にキスをした。

「テリー」

 その声を聴くと、心臓が高鳴る。

「テリー」

 キッドが触れてくる度に、体が跳ねる。

「あっ」
「ここ、いい?」

 触れられる。

「あ、いや…」
「嫌なの?」

 キッドがキスをしてくる。

「んっ」
「素直にならないと、触ってあげないよ」

 つー、と、長い指でなぞられる。

「……っ!」
「ほら、なんて言うの?」

 キッドが口角を上げる。

「テリー」

 あたしを支配する目が、見つめてくる。あたしは目を潤ませ、その目を見つめ返す。

「……な、なんて、言ったら、いいの?」
「いいよ。一から教えてあげる」

 頰にキスをされる。

「キッド、あたしの、いやらしい、ここ、触って」

 キッドがにやける。

「はい、言って」
「そ、そんな、はしたないこと、言えない」

 あたしは目を逸らす。

「虐めないで」
「なんて顔するの。テリー」

 鎖骨にキスをされる。

「ふぇっ」
「そんな顔されたら、もっと虐めたくなる」

 キッドの指が動く。

「あっ」

 キッドの指が動く。

「あ、あ、あ…」

 あたしは両手で顔を隠す。

「あ、あ、あ、あっ…!」
「顔隠さない」

 手を退けられる。

「や、やだ! 見ないで!」
「なんで? テリーは俺のものなんだよ?」

 ここも、あそこも、そこも、この部分も、

「全部俺のもの」

 キッドの指が踊る。

「ほら、テリー、俺から目を離さないで」
「……んっ」

 キッドの指が動く。

「………んんっ」

 我慢出来なくて、情けないくらい、眉を下げる。キッドがそんなあたしをしつこく見つめてくる。穴が開きそうなほど。

「あっ、あっ…」
「テリー…」
「あっ、んっ、」
「テリー、もっと、鳴いて」

 キッドの指が動く。

「もっと、俺を見て」
「あっ、あ、キッド…、っ、んっ!」
「そう。いい子」

 キッドが微笑んで、あたしにキスをしてくれる。

「可愛い」
「キッド…」
「もっと呼んで」
「キッド…」
「テリー、好き…」
「キッド…」
「見て」

 キッドの青い瞳が、あたしを見つめる。

「もっと、見て」

 魅了された瞳はいつも以上に愛おしくて、あたしはキッドを見つめる。キッドがあたしを見つめる。唇が近付く。瞼を下ろすことなく、見つめたまま、

 愛しい、キスをした。




(*'ω'*)





 後日、事件は解決した。
 メニーは無事に無傷で帰ってきた。
 パストリルは死んだ。
 キッドが正当防衛でパストリルを刺して、死んでしまったと聞いた。

 キッドはどんな手を使ってもメニーを助けてくれると言ってくれた。
 だから信じた。
 メニーは帰ってきた。
 顔を青ざめていたけれど、酷いものを見たと言っていたけれど、慰めて、宥めて、また抱きしめる。そうすれば自然と傷は癒えていく。

「…あれは…あの人は…何でも自分の思い通りにいくと思ってる…」
「あの人が王様になったら…確かに平和になるかもしれないけど…」
「何か…何かおかしい…」
「お姉ちゃん…キッドさんと、関わっちゃ駄目だよ…」
「あの人…怖い…」
「どんな手を使ってでも、自分の思い通りにしようとするよ…?」
「この世界が…キッドさんに支配されちゃうよ…?」

 メニーってば、何言ってるんだろう。

 キッドを信じたら、絶対大丈夫。
 キッドは味方でいてくれる。
 キッドがどんな悪い事をしていても、それはあたしを守るためだから。
 あたしはキッドの言葉を信じる。
 だって、キッドが信じてって言うから。
 信じたら、キッドがあたしを守ってくれるから。
 信じたら、キッドがあたしを愛してくれるから。

 これからもキッドだけを見つめて生きていく。

 王族だと分かっているけれど、キッドが愛をくれるから。

 キッドがあたしを愛してくれるから、

 重たいくらい愛してくれるから、

 あたしの心がキッドで満たされていく。

 十分よ。
 キッドが、抱きしめてくれるだけで、

 あたし、十分、幸せ。




「テリー」

 キッドの家に行けば、にこにこ笑うキッドがいる。

「ねえねえ、テリー」

 どうして、

「手紙の返事くれないの?」


「……………しつこいんだもん」

 むっとして言えば、キッドが不思議そうに眉をひそめて、首を傾げる。

「え…? しつこいかな…?」
「一日に十枚も来たらさすがに嫌…」
「えー? 違うよ。これから俺忙しくなっちゃうから、送れなくなる分も書いてるんだよ?」

 キッドが17歳で王子だと公言したおかげで、早くから王子として業務をこなさなければいけなくなった。年を重ねれば重ねるほど、その量は増して、どんどんキッドは忙しくなっていく。

(19歳なのに、大変ね)

 ぎゅっと、キッドに手を握られる。きょとんとして見上げれば、キッドがあたしを見つめている。

「テリー」
「なーに?」
「テリー」
「…何よ」
「テリー」
「気持ち悪い」
「テリー」
「………」
「えへへ。可愛い…」

 でれんと、キッドが顔を緩ませる。

「テリー…」
「…しつこい」
「テリー、俺はさ、これでも我慢してる方だよ」
「何よ」
「だって、リトルルビィとお前が話すことを許してるからね」
「友達だもん」
「メニーを甘やかすことも許してる」
「…メニーは」

 恨むことはなくなった。
 メニーに嫉妬する自分がいなくなった。
 メニーよりも、キッドへの想いが強いから、
 自然と、メニーから離れる自分がいた。

「妹だもん」

 微笑む。

「可愛い妹」

 微笑む。

「だからいいでしょ」
「俺は嫌だね」
「いいじゃない」
「やだ」
「キッド」
「あ、俺の名前呼んでくれた」

 キッドが微笑んだ。

「ねえ、もっと呼んで?」
「やだ」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
「恥ずかしいの?」
「恥ずかしい」
「俺が嬉しいから、呼んで?」
「嬉しい?」
「うん」
「キッド」
「くくっ、うん」
「キッド」
「テリー、えへへ」
「キッド」
「ねえ、テリー」
「なに? キッド」
「キスして?」
「キス?」
「そうだよ。テリーからするんだよ」

 キッドがあたしの手を握る力を強めた。

「俺のものでしょう?」
「テリーからキスして」
「キス」
「テリー」
「テリー」

 ふふっ。

「キッドはわがままね」

 そっと、キッドに唇を寄せると、キッドの唇と合わさる。
 ふに、と柔らかい唇が重なり合うと、キッドが満足そうに、頬を赤らめて、離れて、またあたしを見つめる。

「テリー…」

 ぎゅっと抱き締めてくる。

「テリー」

 キッドが笑う。

「大好きだよ。テリー」
「俺がどんな俺でも」
「もう離れるなんて言っちゃ駄目だよ」
「俺を怖がったら駄目だよ」
「怖がる必要なんてないんだから」
「テリーだけは守ってあげる」
「テリーがどんな悪い事をしても、」
「テリーだけは守ってあげる」

「俺の傍にいたら、絶対に安全だからね?」


「ええ、キッド」

 愛するキッドの傍にいれる。

「あたしを守ってね」

 笑顔で言えば、キッドも笑顔になる。

「あたしを死刑にしないでね?」
「しないよ」
「あたしを殺さないでね?」
「テリーが浮気しない限り殺さないよ」
「浮気したら殺すの?」
「うん!」

 無邪気にキッドが笑う。

「殺すよ!」

 キッドが笑う。

「俺の言う事聞かないテリーは殺す!」

 だから、

「俺に逆らったら駄目だよ?」

 テリー。

「殺しちゃうから、駄目ね?」

 にこりとするキッドに、あたしも微笑む。

「何言ってるの。あたしはキッドのものなんだから、全部キッドの言う事聞いてあげてるでしょ」
「うん」
「ベックス家を継ぐのも諦めたし」
「うん」
「紹介所で働くことも諦めたし」
「うん」
「キッドが反対したこと、全部やめたでしょう?」
「うん!」

 キッドが満足そうに笑った。

「だってさ、そうしたらテリー、俺の傍にずっといるでしょう?」
「大丈夫。お前の家も俺が手を回してるから潰れるなんてありえない」
「紹介所はジェフが社長として何とかしてくれてる」
「お前はさ、テリー。俺の傍で、俺の隣で、ずっと一緒にいてくれたらいいんだよ」
「何も怖い事がないお城で」
「ずっとずっと」
「俺の隣にいてくれたら」
「俺、それで十分だよ」

 あ。

「赤ちゃん」

 いつ作る?

「何人?」

 いつ作る?

「気が早い」

 くすくす笑うと、キッドも笑う。そして、その青い目で、あたしを見つめる。

「大好きだよ。愛してるよ。テリー」
「あたしも好きよ。キッド」

 あ。

「ねえ、いつ結婚する? テリー。ジクシィ買わなきゃ」
「ふふっ。そうね」
「結婚したらずっとテリーと一緒だ。えへへ。テリーが俺を見てくれる。メニーじゃなくて、俺だけを見てくれる」

 メニーになんて、もう会わせないよ。
 実家に帰るのはいいけど、泊まるのは駄目だよ?
 逆らわないでね?

「だってテリーが好きなんだもん」

 キッドは笑う。

「大好きなんだもん」

 キッドは幸せそうに笑う。

「ずっとくっついてたいんだもん」

 キッドがあたしの胸に顔を埋める。

「俺はお前が裏切らない限り、守ってあげるよ」

 ずっとね。

「あーあ。結婚したい。結婚。結婚したら、テリーと一緒。テリーがずっといてくれる。朝起きても、休憩しても、夜寝る時も、テリーがいる。嬉しいなあ。楽しみだなあ」

 その溢れてくる愛が嬉しくて、
 うっとりしてしまうくらい、その愛におぼれてしまいたくなって、
 あたしはキッドの背中を撫でる。

 キッドも、あたしをまた更に、強く抱き締めた。

 ぎゅっと、力強く、力強く。


(ああ、)

(幸せだなあ)


「テリー、愛してるよ。ずっと愛してるよ。これからも、ずっと」

「もう逃げないでね」


 とてつもないくらいの愛の量に、幸せを感じて、あたしはキッドの腕の中で、幸せに、微笑んだ。







 番外編: 支配された心 END
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