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キッド

SOULD OUTにご注意(1)

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(*'ω'*)キッド(17)×テリー(13)です。
 四章以降のキッドのお誕生日話になります。
 キッドの身分と『ソフィア』を存じ上げない方はネタバレ注意です。
 ――――――――――――――――――――――――――――



















 12月25日。
 赤い服を着た魔法使いが、子供たちにプレゼントを配り回り、子供たちがそのプレゼントに喜ぶ日。
 皆がそわそわしだす、そんな冬の、年末前のロマンチック・イベント。

 そして――。

 その前日には、みんなから愛されている、一人の人間の誕生日が待ち構えている。
 キッドの誕生日。
 12月24日の奇跡。

 いつもであれば、その日にちに向けてみんなで準備をし、みんなが笑顔で行うパーティーがあったのだが、今年は、仕事案内紹介所もばたばたしていて、それどころではない。しかし、それどころではあるのだ。
 従業員達が、悲鳴をあげた。

「まだキッド様のお誕生日プレゼントを用意してないわ!!」
「あの方に何をお送りすればいいのだ!」
「今年も美しく!」
「今年も輝かしい!」
「何よりも今年は!!」

 王子であることを名乗ってしまった!!!

「あの方の笑顔を見るだけで、胸がはちきれそうだ!!」
「喜んでくれるものを用意したい!!」
「でも仕事も忙しい!」
「良いことだ! 実に良いことではないか!!」
「「しかし忙しすぎて、用意が出来ない!!」」

 みんなが口を揃えて、こう言った。

「お願いします! 一日でいいので、キッド殿下のお誕生日準備のための休日を下さい!!!!」
「公休の範囲でやれーーーーーー!!!」

 ジェフが怒鳴った。
 それはそれは、大きく怒鳴った。

「ただ休みたいだけではないか!!」
「違います!! ジェフさん! 違います!!」
「ジェフさん知らないんですか!」

 今、キッド殿下の誕生日プレゼントの準備を、国中が行っているということに。

「あの方が王子であると正体を明かしてから三ヶ月ほど経ちましたが、元々城下町を歩き回っていたこともあり、それはそれは、もう、あの方の人気は上る一方です」
「最近ではファンクラブまで出来ているとか」
「グッズ、買いに行きました」
「そのせいで、今、町の店中が大変なんです!」

 食べ物おもちゃ実用品雑貨服屋何でもかんでも大盛り上がり。クリスマスであることも然り。その前日にキッド殿下の誕生日であるということも然り。

「全部売り切れ状態です!」
「みんな、キッド殿下のために用意してるんです!」
「クリスマスプレゼントも含めて!!」
「公休を使ったって、だめ! ダメ! 駄目!」
「せめて、せめて一日だけチャンスを!!」

 ああ、盛り上がってるわね。

「はーーーーーーーーあ」

 あたしは、酷いため息をついた。

(頭がおかしくなりそう)

 事務室のソファーに座り、頭を抱える。この二ヶ月ほど、町を歩けば、キッド殿下キッド殿下キッド殿下。

(三ヶ月よ? たったの三ヶ月前に発表したのよ?)

 この人気ぶりはなによ!? 何なのよ!!

(しかも紹介所の従業員全員がキッドの関係者であり、キッドの正体を、あたし以外全員が知っていた衝撃の事実)

「あたしだけ仲間はずれ……」

 オレンジジュースを飲んで、チッと舌打ちすると、ジェフが眉を下げてあたしの側に駆け寄ってきた。

「はあ……! すみません! テリー様! 皆の仕事のモチベーションが下がっているのは、このジェフのせいでございます! 申し訳ございません!!」
「ち、違うのよ! Mr.ジェフ! 勘違いしないで! みんなも、Mr.ジェフも悪くないわ!」

 あたしがイラついているのは、全部、キッドのせいだ。

 朝の新聞に目を通せばキッドが写っていて、
 暇つぶしにテレビをつければキッドが映っていて、
 暇つぶしにラジオをつければキッドが喋っていて、
 お芝居を見に行けばパンフレットにキッドが写っていて、
 映画を見に行けばキッドが映画の注意事項を説明していて、
 本屋に行けばキッドに関する雑誌や本が出版されていて、

(もう嫌だ)
(もう嫌だ)
(あいつの顔はもう嫌だ)

 もう見たくない……!!!

「休みたいなら休めばいいわ。みんなにも週に二回以上の休日は必要よ」
「なんと慈悲深い……! テリー様……! 流石、テリー様でございます……!」
「この時期、訪ねてくる人も少ないんでしょ? 20日くらいからもう閉めちゃって、また一月になったらみんなで働けばいいじゃない」
「そ、そんなに長くですか……!?」
「お給料はみんな月給でしょう?」

 じゃあ、決められたお給料は入ってくるわけだし、

「何か、問題ある?」

 年末だし。

「従業員もゆっくりするといいわ」
「しかし、予約のお客様もいらっしゃいますので……」
「ああ、そうなのね。……じゃあ、日にちはMr.ジェフに任せるわ。できるだけ長くしてあげて。で、24日に関しては、多分、城かどこかの会場でお祝いのパーティーをやるでしょうし、それまでに、みんなが十分な準備を出来るよう、計らってあげてくれる?」

 あたしは最初の年で、23日ギリギリにプレゼントを用意して、何とか間に合った。
 16歳の誕生日も、余裕で、まあ、何とか、……色々あったけど、とにかく、準備は出来た。
 しかし、今年ばかりはどうなるかわからない。今までとは違って、キッドが王子である、ということを公言してしまったのだ。

 キッドに何かしてあげたい、と思っている人達がいるのならば、意地悪しないで、その想いを渡すためにも、こちらが環境を変えてあげるべきだ。いつも働いてくれているのだから、それくらい良いでしょう?

「お願いできる?  Mr.ジェフ」
「ああ、テリー様……!!」

 ジェフが、膝から崩れ落ちた。

(え)

「なんと! なんとお優しいのでしょう!!」

 どばっと涙を流し、ハンカチを押し当てる。

「お任せを! このジェフが、責任者として、この紹介所の管理を! 従業員の管理を! 務めさせていただきます!!」
「……。あ、うん。頼んだわよ。いつも通り」
「ええ!」

 ジェフが涙を拭いた。

「……ところで、テリー様、今年は何をご用意されるのですか?」
「あたし、今年は何も用意してないの」
「……。……はい?」

 ジェフの目が点になる。あたしは微笑む。

「だって、いらないじゃない」

 国中からプレゼント貰えるんでしょ?

「今年はいいでしょ。流石に」

 お店のものも、みんな売り切れてるし。

「はあ、それだけは楽ね。それにね、Mr.ジェフ。キッドの奴、突然、急に、はてしなく忙しくなったから、あたし、この二ヶ月くらい、ずっと会ってないの!」

 それだけは、とっても嬉しいことだった。

「あはは! あいつ、ざまぁーみろってんのよ!!」

 今まで遊び歩いて、調子こいて王子って公言するから、遊ぶ暇もなくなるのよ! ばーか!

「だから今年は何も用意してないの! 用意したところで渡せないしね!」

 おっほっほっほっほっ! 愉快愉快!! おかげで、今年のクリスマスはメニーの好感度アップに集中できるのだから!

(今年のベックス家のクリスマスパーティーは豪勢にやるわよ!)

「おっほっほっほっほっ!」

 高笑いすると、ジェフが、――絶望しきった顔をした。

(ん?)

「ああ……テリー様……」

 そして、再び――滝のような涙を流す。

「お可哀そうに!!!!!」

 どばああああああっと、涙を溢れさせる。

「二ヶ月も会えてないですって!?」

 従業員の一人が、顔を青ざめた。

「テリー様が!?」

 従業員の一人が、目を見開いた。

「社長が、キッド様に、二ヶ月も放置プレイを!?」

 従業員の一人が、顔面蒼白になった。

「社長! 紅茶いかがですか! にこっ!」

 従業員の一人が、同情する笑顔であたしに紅茶を差し出した。

「ま、まだオレンジジュース飲んでる……」

 ずず、とストローをすすると、その姿が、まるであたしが、キッドに長いこと放置されて寂しくなり、落ち込む少女のように見えたのか、ジェフの目がメラメラと燃え始めた。

「テリー様!! ここで諦めてはなりません!!」
「え、何言ってるの?」

(今日もオレンジジュースが美味しいわね)

 またストローをずずっとすすると、ジェフが自らのコートを手に取り、羽織りだした。

「テリー様! 今年もこのジェフがお手伝いいたします! さあ! 用意しに行きましょう! プレゼントを!!」
「え? で、でも、今年は渡せないでしょう? 流石に!」
「なーにをおっしゃいますか! パーティーで渡せばいいのです!!」
「パーティーって?」
「毎年恒例、キッド殿下お誕生日パーティーです! お城ではなく、城下にあるあの家のパーティーで!」

 ――え!?

 聞いた途端、とても嫌な予感がして、あたしは即座にジェフに訊いた。

「ちょっと待って。今年はパーティーしないんじゃないの?」
「……うん? 恐れ入りますが、テリー様、聞いていないのですか? 日を変えてやるのですよ。23日に」
「……」

 ちらっと、カレンダーを見る。

 12月18日。

(あ!!!! ちょっと余裕ある!!!!!)

 あ、でも。

「呼ばれてないってことは、多分、行かなくていいと思うのよ。うん。そうだそうだ。絶対そうだ。だって呼ばれてないもん。ねえねえ、Mr.ジェフ、あたし、行かなくてもいいわよね?」

 首を傾げて、にっこりん! と微笑んで訊けば、ジェフはカッ! と目を見開いた。

「ここで勝負せず、いつ勝負するというのですか! テリー様!!」
「勝負って何よ! 勝負って! あたしは誰と勝負するってのよ!!」
「二ヶ月ぶりの再会ですよ!? ここで、プレゼントをお渡しさえ出来れば、テリー様がお元気であれば、キッド様も大層喜ばれます! テリー様! 探しに行きましょう! キッド様の! スイートな! ギフトを! プレゼントを!!」
「えええええ……」

 思いきり顔を歪ませると、ジェフがにこにこと微笑んだ。

「いいのですよ……。テリー様。いじける必要など……ないのです。あの方は……テリー様を……それはそれは……とても大切に……想っておりますよ……」
「え、何? もしかして、あたし慰められてるの?」
「大丈夫です! あなたにはこのジェフがついております! さあ! 行きましょう、テリー様! キッド様のプレゼント探しに! レッツ……」
「ジェフさん、紹介所二号店の所長様から、お電話が……」

 ……。

「Mr.ジェフ」

 仕事して。

「……わ、私は、テリー様と……」
「社長命令です」

 仕事して。

「う、ぐぐぐ……!」
「一人で平気よ。あいつのプレゼントくらい簡単に選べるわ」

 もう三回目なんだもの。

(今年は用意しなくていいと思ったのに……)

 はーーーーあ。

「全く……。面倒な奴なんだから……」

 深く深く、ため息をついた。


(*'ω'*)


 そうと決まれば、善は急げ。広場の商店街に歩くと、

「わあ……」

 SOULD OUT!

「……売り切れ……」

(まじでみんな買ってるのね……)

 ちらっと見れば、キッドのストラップを鞄につけて歩くレディ達がいる。

(うわっ)

 何がいいのか、わからない。目を閉じて、また次の店に出向けば、

「私、前にキッドと付き合ってたのよ! きっと今年の誕生日に、迎えに来てくれるんだわ!」
「何言ってるの! 私がキッドの彼女だったんだから!」
「そこの二人、戯言はやめてくれる? このワタクシこそ、キッド殿下の恋人よ!!」
「ふざけないでよ! 私が……!」
「いいえ、私よ!」
「違うわ! 私よ!」

(ああああ……! キッドのお遊びによる被害者達が集まって喧嘩してる……!)

 俯いて、一般人にまぎれて喧嘩するレディ達を通り過ぎる。

「姉さん、みんな大盛り上がりね」
「隠されてた殿下のお誕生日だもの。ほら、荷物持って。アリス」
「はーい」

(知らないんだろうな……)

 キッドが、男にしか興味がないということに。

(あたしも驚いたわよ。まさか、キッドが同性愛者だったなんて)


 ――女の子に、恋をしたことはなかった。

 ――やっぱり、男の子が好き。


 そう言っていたキッドの目は、どこか、切なげだった。

(男の子が好きか……。……だったら、男の子に好かれるものを渡せば喜ぶんじゃ……)


 ――ん?


 あたし、今、めちゃくちゃすごい名案を、ひらめいたのでは……?

「そうよ!」

 男の子に好かれそうなものを、渡せばいいのよ!

「えっと……!」

 何がいいだろうか。

(あたしだったらどうするか)

 紳士に好かれるために、何をするか。

 メイクする。
 素敵なドレスを着る。
 髪飾りをつける。
 髪を結んでみる。
 香水をつける。
 ネイルする。
 胸を大きく見せる。(パッドを詰めれば何とかなるわよ。大丈夫。そのうち大きくなるから。絶対大きくなるから。大きくしてやるんだから絶対に)
 ネックレスをつける。
 ピアスをつける。
 着飾る。

「うーん……」

 キッドの場合、着飾るにしろ、王室で用意されたものを身に着けるだろうし……。

(……香水あたりかしらね)

 決定。今年は、香水にしよう。

(そういえば、11歳の誕生日ではキッドから香水を貰ったわね)

 いいじゃない。香水。匂いが良いと、男とはいえ、より一層魅力的になる。

「よし、決まり決まり。それでいいわ」

 どうせ同じのを誰かが用意してるだろうけど。

(被るのは仕方ないことよ。それをキッドが残念がって、婚約を破棄したところで、もうあたしには何の未練もない。むしろ、どうぞ。婚約を破棄しちゃってちょうだい)

 キッドに一度だけ恋をしたけれど、もうキッドなんて好きじゃないし。二度とあいつに恋なんてしないと、あたしは決意したのよ。

(だって関わったら、ろくな目に遭わないんだもん)

 だったら離れる。 
 ……離れたいのに。


 ―――駄目だよ。
 ―――契約は継続。
 ―――テリーは俺と結婚するんだ。


「勝手なことぬかしやがって。あいつ」

 二ヶ月も放置してるくせに。

「何が結婚よ。くだらない」

 なんであたしがあいつのために、広場を歩き回らなくてはいけないのよ。

「ったく、めんどくさいわね」

 呟きながら、香水のお店に入る。
 高級感のあるお店。アロマや、香水、匂いに関するものが置かれている。

(……香水まで売り切れ……)

 残った在庫の商品を見て、うんざりする。

 もう人気のある匂いの香水は売り切れている。
 残されたのは、旬の過ぎたもの。あまり、好みの匂いではないもの。

(プレゼントには、向いてないかもしれない……)

 いや、

(だからこそ、じゃない?)

 これを見たキッドが絶望して、

「えー……テリーってそんな子だったの? こんなものを俺に渡すなんて。いや、これは、俺無理だ。テリーがそんな奴だったとは思わなかったよ。いやいや、残念だ。やっぱり婚約は解消しよう、テリー」

 おっけえええええええええ!!

(これでいこう!)

 ぐっと拳を握って、香水を選んでいく。

(さーて、何がいいかしら? キッドとの婚約解消にふさわしいプレゼントにしないとね! ぐひひひひ!)

 にこにこして種類を見ていく。

(甘い匂い、さわやかな匂い、花の匂い)

 あ。

(超売れ残ってる)

 テリーの花の香水。

 甘いのも、さわやかなのも、少しフルーティーに改良したものも、テリーの花であれば全部残って、大量に棚に置かれている。少し、値引きまでされている。

(あーら、なんて素敵なのかしら! あたしが、あえて自分の名前の花の匂いの香水を持って行って……)

「えー、なんかそういうの重いんだよな……。テリーってそんな子だったの? 俺、まじでそういうことする子、無理なんだ。……残念だけど、やっぱり婚約は解消しよう。テリー」

 もしくは、

「売れ残った香水を用意したの? 俺、テリーの花の匂いって、あまり好きじゃないんだよな……。……俺の好みがわからない婚約者なんていらないよ。はあ。……やっぱり婚約は解消しよう。テリー」

 おっけえええええええええ!!!

(キッドの残念がる顔が頭に、額に、目に浮かぶわ! ぐひひひひ! キッドめ! さっさと婚約破棄しないから、こういうことになるのよ!)

 ふざけ倒してやる。今年はふざけてふざけてふざけ倒してやる!

(今までのあたしとは違うのよ! ボディーガードがいなくなると怯えていたあたしは、もういない! 怖いものなど、何もない!!)

 くひひひひひ!!

(さーて、どうしようかなー? どれに、しよっかなー? るんるん!)

 たくさん在庫は残ってる。テリーの花だけ。他の花の匂いの香水は、売り切れてるのに。

(テリーの花の、この、なんとも言えない、自然な、甘すぎない、落ち着く、風のような匂い)

 ……あたしは好きなんだけどな。

(……これでいいわ)

 青い瓶に入った香水を手に取り、にやりと口角が上がった。

「ぐひひひひひ……!!」

 キッドめ!
 キッドめ!
 キッドめ!!

(これであたし達も終わりよ……。残念がるあんたの顔が楽しみだわぁああああ!)

 そして二度と関わることがなくなり、
 あたしは婚約という契約から解放され、
 メニーに対する死刑回避のみに集中することになるのだ。

(素晴らしい、あたしの計画!)

「すみません、こちらをお願いします」

 店員の綺麗なお姉さんに渡し、

「プレゼント用なので、包んでもらえますか?」

 そう言えば、お姉さんが綺麗にまとめてくれる。

「リボンの色は、いかがなさいますか?」
「青でお願いします」

 そう言えば、青のリボンがプレゼントの包みに巻かれていく。

(これを開けて見た時、キッドの目が点になって、絶望の目に変わるのよ)
(なんか楽しくないって思うのよ)
(……少し寂しい気もするけれど)
(あたしは、そういうことにもなるから、婚約を解消しようと提案していたのに)
(拒んだのはあいつ)
(あいつが悪いのよ)

 酷いことを言われても構わない。だって、あいつはそういう奴だから。あたしはもう慣れてるし、知ってるから。

(キッドに、期待なんてしてない)

 あの日から会ってないもの。熱い口付けをされた日から、ずっと会ってないんだもの。

(期待なんて、最初からしてない)

 あたしの運命の相手は別にいる。

(キッドじゃない)

 ふふっ。

(いいじゃない。あいつがどんな顔したって)

 もう買っちゃったし。

「ありがとうございました」

 お姉さんが香水をおしゃれな紙袋に入れてあたしに渡す。あたしはそれを笑顔で受け取り、中の包みを確認する。

(素晴らしい)

 これぞ、完璧なプレゼント。

 にやけが、止まらない。


(*'ω'*)


「……完璧だわ」

 キッドのプレゼントを部屋に置き、眺め、にやける。

「これであたしもようやく解放されるのね……!」

 長かった! 辛かった! 二年かかった!

(これで……おしまいよ!)

「テリーお嬢様」

 こんこん、と扉がノックされる。どうぞ、と返事をすれば、サリアが扉を開けた。あたしと目が合えば、にこりと笑う。

「こんばんは、テリー」
「こんばんは、サリア」
「お手紙が来ております」
「手紙?」
「ええ」

 差出人のお名前が、ございません。

「ニクスからではないようですね」

 くすっと笑ったサリアの顔に、あたしの顔が自然と引き攣っていく。
 サリアが封筒をあたしに見せる。その高級感のある封筒に、もっとあたしの顔が引き攣っていく。

「……ほーう?」
「どうぞ」

 受け取る。

「ありがとう」
「いいえ。それでは」

 サリアが部屋から出ていく。一人、手紙を握り締めるあたしが残された。

(……今さら、何よ)

 封筒をそっと開くと、ピンク色の、ダイヤモンドリリーの花びらが入っている。

(うっ……!?)

 いつもの演出だが、この花の花言葉を、図鑑で見たことがあった。

(『再び会える日を楽しみに』……)

 手紙を、そっと、眉間に皺を寄せて、開いた。



 拝啓、愛しき私の姫、テリーへ

 厳しい寒さの日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
 雪を見ると、テリーと初めてデートをした日のことを思い出します。二人でペアリングを買いましたね。この手紙を書きながら私の左手の小指には、二人の指輪が光り輝いております。
 話は変わりまして、23日のことは聞いていると思います。どうぞ、是非ご参加ください。愛しい君の姿を久しぶりに見られると思うと、とても嬉しく思います。
 プレゼントも、それはそれは、とても楽しみに待っております。
 テリー、君に会える日を楽しみにしているよ。

 追記

 来なければ迎えに行く。

 キッド


「うわ、ほらほら、またこれよ。出た。この脅し文句」

 来なければ迎えに行く。

「いつまで、そんなこと言ってられるかしらね?」

 ふふっと、笑ってみせる。

「これであんたとはおさらばよ」

 なぜなら、

「あんたが、あたしを嫌いになるからね!!!」

 あたしこそ、悪役令嬢よ!!

「おーっほっほっほっほっほっほっ!!!!」

 あたしの笑い声が、部屋中に、響き渡った。

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