ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エルフの里再び

第472話 勝手巻きパーティー

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 エルフの里の森の上、何度やってもドラゴンの上から飛び降りるのはドキドキするものです。
 魔法があるとはいえ、ノーパラシュート、ノーバンジーだからね。

 自分を風で包み込んで着地したところで、黄色い光が顔面に飛び込んできた。いや、痛くはないんですけどね、ビックリするんでもう少し優しいお迎えを希望します。

『怪我はしてないわね?』
『ちゃんと寝てた?』
『ご飯はちゃんと食べてたの?』

 いや、だからオカンですか? 
 光の精霊たちは口々に心配したと言ってくれるけど、内容が完全にオカン過ぎて笑う。イブさんも同じように聞かれていて「何歳だと思ってるのさ」とプリプリしている。
 そうか、200歳を超えてても同じように心配されるんだもの、たかだか8歳の私が心配されるのは当たり前だね。

「とっても楽しいダンジョンだったの。美味しい物も沢山あったのよ」
「おぉ! ヴィオおかえり!」
「ベル君、ただいま!」
「おいおい、俺達にはおかえりを言ってくれないのか?」

 村の広場に到着したところで、私たちに気付いたベル君が駆けつけてくれた。ダルスさんとルイスさんから頭をグシャグシャにされながらも、笑顔でおかえりと言っているベル君が尊い。

「イブ、無事に戻ったんだな。おかえり。ヴィオも、ダルスにルイスもおかえり。チャーキ達はどうした?」
「チャーキ達はギルドに報告。ちょっと面倒な奴らがいたから、ヴィオと僕達だけ先に帰ってきたんだ」

 子供達の声で私達の帰還に気付いた大人たちが家から出てきて、次々におかえりの声掛けをもらう。この村には遊びに来ているだけなのに、おかえりと言ってもらえるのは嬉しいね。
 マムさんに報告したところで、今夜の夕食について相談してみた。

「ほう、カッテマキというものを作るのか。それは何を準備すればいい?」
「中に入れる具材を沢山準備したいんです。あと酢飯っていって、ちょっと酸っぱいお米も作るので、沢山お米を炊く必要があるので、その準備も手伝ってもらえると嬉しいです」
「自分達で好きに魚とか、野菜を入れて巻いて食べるんだけど、面白いんだ。子供達もきっと気に入るよ」
「俺も手伝うぞ!」
「わたしも~!」

 聞いていたベル君をはじめとした子供達も一緒にやると言ってくれるので、やれることをやってもらおう。
 奥様方にはスープをたっぷり準備してもらい、魚を捌き慣れている大人たちに刺身を準備してもらう。できたものからマジックバッグに戻せば鮮度が落ちる事も無いので、冷蔵庫は必要ない。
 魔道具は早炊きだから助かるけど、エルフのお里にあるものと、私が持ち歩いているもの、二台を使って二回炊いた。二十合炊きなので八十合。どこの相撲部屋やねん状態ですよ。
 すし桶は足りなかったので、エルフの皆さんに作ってもらい、酢飯の準備も進めていく。

「お米も炊けたので、できた分から酢飯を作っていきます。最初は私とダルスさん、ルイスさんで作るので、二回目からは皆も手伝ってください」
「わかったわ!」
「任せて!」

 やる気満々で助かりますよ。
 白いハズレ袋のお酢が米酢かどうかは不明だけど、癖がないからそうだと思っておきたい。
 そのお酢の中に砂糖をダバダバと入れ、塩を少し足して少し甘いすし酢を作る。
 料理担当の人達が少しずつ味見をして、その甘さを確認。何度か作って好みの味にするのも良いと思います。

 二十合を一気に酢飯にするのは大変なので、一つ目の炊飯器から米を三分割して私達の大きなすし桶に移していく。
 ブワッと上がる湯気に、精霊たちが大興奮で集まってくるけど、ちょっとここからは時間が勝負なので邪魔しないでねと声をかける。

「お汁を一気に混ぜるのではなく、まずは満遍なくたらーっとかけて、しゃもじで底からかき混ぜます」

 しゃもじに伝わせたすし酢を炊き立てご飯にかけ回しながら入れていく。半分くらい残して一旦お米をかき混ぜれば、お酢の匂いと、米の匂いが混ざって何とも言えない空腹を誘う匂いが漂ってくる。
 米を潰さないように、しゃもじで切るように混ぜていれば、だんだんと米がツヤツヤとテカリを帯びてくる。
 普段は火の近くから動かない火の精霊も、炊き立てごはんが気になるようで、すし桶の縁から中を覗き込んでいる。風の精霊は酢飯の匂いにキャッキャと喜んでいるし、ダンジョンで精霊が居なかったのは静かで少し物足りなかったのだと感じた。

「お米が輝いてきたら冷まします【ウインド】」

 団扇で仰ぐ方が風情はあるけれど、ダンジョンでそんな面倒なことはしてられなかったのでね。そよ風を熱々の酢飯に当てていきますよ。風の精霊たちは一緒になってパタパタ仰いだり、フーフーと息を吹きかけているけど、うんうん、可愛いので良いでしょう。

「時間停止のマジックバッグが無い場合は、冷えたところで乾燥しないように濡れた布巾をかけたりしておいて下さいね。今は私の鞄に入れておきます」
「思ったよりも酸っぱくないのね」
「ええ、子供達の為にお砂糖をもう少しって思ってたけど、お米の甘さがあるからかしら、混ぜたら丁度良いかもしれないわね」
「そうですね、この上にお魚などを乗せて食べるので、これくらいが丁度いいかもしれません」

 料理担当者は真剣な顔でメモしながら、時々味見をしてうんうんと頷いている。残り六十合分ありますから、十分練習できると思いますよ。
 最後は子供達も酢飯を混ぜるお手伝いをし、野菜、卵焼き、魚などの準備もすっかり整い、普段は出さないという長いテーブルが広場に何本も準備された。

 各テーブルには大人と子供が一緒に座れるようにし、一つのテーブルに一つ大きなすし桶が用意された。沢山のネタが並ぶ様は色とりどりで非常に美しい。海苔も各テーブルに置かれ、其々に取り分けてあげるのは大人たちにお願いした。

「お~、丁度良い時間だったか?」
「チアキさん、白雪さんも、バレンさんもおかえりなさい」
「はぁ、疲れたがこのご馳走が待っておると思えば頑張れたぞ。ダンジョンで見るより豪華じゃな」

 疲れた様子のチアキさん達が丁度良いタイミングで帰ってきてくれた事で、子供達も大喜びだ。先に子供が多いテーブルから始めようと思っていたけれど、皆で一緒に始められそうだね。
 ダンジョンで手巻き寿司をしたメンバーが其々のテーブルに分かれたので、作り方を教えながら一緒に手巻き寿司を作っていく。

「あらあら、そんなにたくさん入れたら巻けないわよ」
「わわっ、こぼれちゃう」
「後ろから出て来てるぞ」

 上手に巻けても食べる時に具が後ろから出るなんてこともお約束だよね。
 あれを入れたい、これも食べたい、次はこの組み合わせだと、みんなでワイワイしながら勝手気ままに具材を選んで手巻き寿司を作っていく。

『ふふふ、こんな風に皆で楽しむのも良いわね~』
『うんうん、美味しいと楽しいがいっぱいだね~』

 大人も、子供も、精霊も、皆が楽しそうに楽しんでいる。
 ああ、お父さんとお兄ちゃん、土竜の皆ともできたら楽しかっただろうな。
 フィルさんがいて、お母さんもいて、みんな揃って勝手巻きパーティーができたら楽しかっただろうな。

 凄く楽しいと思う時には、お父さんが一緒にいてくれたらという気持ちがどうしても湧いてくる。
 これはきっと、これから先も出てくると思う。
 だけど良いんだ。きっと今頃天国で、お母さんと一緒に作ってると思う。神様っぽい人も一緒に参加したりするのかな。
 お父さん、お母さん、私、今とっても楽しんでるよ!
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