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閑話
〈閑話〉リズモーニ王国 5
しおりを挟む~ドゥーア先生視点~
回復魔法を世界に発信してから半年。
冒険者ギルドでの解体や、回復魔法の実践練習など、受け入れ準備を整えてから発表したおかげで、水生成魔法の時よりは順調に広がっている。
「旦那様、今週は五名でした。随分減りましたが、まだ無くなりませんね」
「本当にね、困った事だよ」
オットマールからの報告に溜息が出るのも仕方がない。
回復魔法の発表から、我が家に侵入する不届きものが随分増えたのだ。
学園の研究室に忍び込もうとした者もいたようだけど、この大陸一番と言われる魔導学園で防犯魔道具がないと思っていたのだろうか。
学園の門を正規の手段で通り抜けていない時点で不審者としてマークされているのに、我が国の民ではない者達が次々と投獄されている。
中には貴族もいたのだけれど、犯罪者は犯罪者。冒険者だろうが、傭兵だろうが、破落戸だろうが、罪の内容で処罰は決まる。
「私は子爵であるぞ、こんなこと赦されないぞ! 司法取引を求める」
我が家に忍び込んだ馬鹿はそんなことを言っていたが、我が国に司法取引などという制度は無い。
共和国に連絡をとか言っていたが、罪を償って、刑期を終えてから自国に訴え出て、我が国に文句を言えば良い。取り合われないだろうが。
我が家の騎士団はヴィオ嬢とアルク殿に出会ってから、訓練の質が上がった。
少し前までは体力がなかった魔法騎士達も、今では走り回りながら魔法を使えるようになった。体力だけでなく、詠唱も随分短縮できるようになったし、無詠唱で唱える者だってかなり増えた。
そして以前は魔法を苦手としていた騎士も、魔力訓練を真面目にするようになった事で、魔法騎士と変わらないレベルで使えるようになっているのだ。
それだけではない。
ヴィオ嬢と関わって影響を受けたのは騎士以外にも多く、料理人、メイドを含め、戦闘職ではなかった連中まで回復魔法の練習の為という理由で魔力訓練を始めたことで、皆の魔法レベルが上がっているのだ。
『戦闘メイドさんが本当にいたらいいなって思うんです。
非戦闘員のはずのメイドさんが実は凄く強くって、お嬢様が知らない間に護られていたというのに憧れるし、侵入者を華麗に捕らえるというのは凄く格好良いですよね』
ヴィオ嬢のそんな言葉に訓練場で走り込みをするメイドが増えたのはいつからだっただろうか。勿論エミリンも先頭に立って走っているし、時々スティーブンもヒイヒイ言いながら走らされている。
流石に私に走れという者はいないが、少しはやったほうが良いのだろうか……。
ああ、話が逸れた。
そんな非戦闘員がゼロになってしまった我が家に侵入する者は、悉く皆の獲物となるのだ。冒険者崩れの危険な相手には騎士団が駆けつけ、先の子爵を名乗るような貴族にはメイドや料理人たちが嬉々として駆けつける。
敢えて侵入しやすい場所をいくつか作っているのも、そういう相手を迎え入れる為ではあるが、未だに侵入してくる者がいるのは、危機管理能力が低すぎるのではなかろうか。
そうして今週も捕らえた馬鹿どもを縛り上げて王城へ連行する。
毎日では面倒過ぎるので、週の終わり聖の日に纏めて連れて行くことにしているのだ。
なので週初めの木の日に侵入したものは、一週間もの間うちの者たちの練習台になっている。大丈夫、傷は治してある。実験台が欲しいのは私よりも魔法薬学の先生たちの方だから。
随分酷い事をすると思うかもしれないが、我が家は侯爵家。そもそも貴族の家に侵入した時点で罪人への刑罰は重くなる。
門内への不法侵入のみでも水路、森の開拓時の魔獣討伐の為の人足となることは決定しているし、家人《騎士》への攻撃があった場合はさらに重く、場合によっては死罪もあり得る。
私は国だけでなく、世界に貢献する素晴らしい魔法を発表したという功績があるため(だから狙われるのだが)家人への攻撃があった場合には、死罪よりも重い『新しい魔法、新薬等の実験台』という刑罰を与えられることになるのだ。
だからこそ他国からの侵入者が自国へ帰ることは出来ないし、その理由も各国に伝えている訳だがこうして来る奴はいる。
「不用品の処分が目的なのかもしれませんね」
オットマールの言葉にそうかもしれないと思う。
だが、自国のゴミは自国で処分してもらいたいものだ。
時々顔を見せる度に訓練に参加してくれる〔サマニアンズ〕と〔土竜の盾〕、彼らとの手合わせでは毎回ボロボロにされて凹んでいる騎士達。
自分達は強くなっているのだろうかと落ち込むことも多いのだが、侵入者を相手にすれば自分たちの実力は確実に上がっていると分かるようで自信につながっている。
喜んでいいことなのか複雑な気分になるが、ヴィオ嬢が帰って来れば確実に手合わせをする事になるだろう。
未開の島で確実に実力をつけて帰ってくる彼女が、今の我が騎士団を見ればどう思うだろうか。
『すっごい頑張ってたんですね! 私も負けてられませんね!』
ああ、きっとそう言いそうだね。
ヴィオ嬢から贈られた魔道具は両耳にしっかりつけさせてもらっている。
幸いなことに非常にシンプルなデザインにしてくれているので、魔道具だと思っていないものもいるくらいだ。
この素晴らしい魔道具を使うようになって、古代文字や神代文字を読むことに困らなくなった。不思議な事に文字の上に文字が浮いて見えるようになったのだ。
意識すれば古代文字として読む事も出来るので、授業などで困ることもない。
この魔道具の魔法陣を解析したいところだが、流石勇者が監修したというところだろう。隠蔽されていて全く分からない。
だがしかし、文字が読めるようにしてくれたからね、今までは出来なかった魔法陣も組むことが出来そうだ。
ヴィオ嬢が帰ってきた時に、騎士達だけではなく、私だって負けていられないと言われたいじゃないか。
彼女の師匠と思ってもらえるように、今日も新しい魔法陣の組み合わせを考えよう。
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